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光量子コンピュータ実用化に向けた「10dBの壁」を突破、誤り耐性の獲得にも寄与量子コンピュータ(1/2 ページ)

NTTと東京大学らは、光量子計算の根幹となるスクイーズド光で世界初の10.1dB量子ノイズ圧縮に成功した。位相検出専用の導波路を並列配置する新手法により実現した。現在は12dBへ到達しつつあり、数年内の15dB達成による量子計算の実用化も視野に入っている。

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 NTT、東京大学、理化学研究所、OptQCは2026年3月5日、光量子コンピュータの実現の根幹となる「スクイーズド光」の生成に向け、導波路型光デバイスを用いて10dBの量子ノイズ圧縮に成功したと発表した。今回の10dB突破により、将来の誤り耐性型高速光量子コンピュータに不可欠な「GKP量子ビット」の実装可能性が高まった。また、ニューラルネットワークへの応用やNTTの次世代通信基盤「IOWN」技術の発展にも寄与するなど、実用的な誤り耐性型量子コンピュータの実現に向けた一歩となる。

 今回の研究成果を主導したのは、光方式の量子ビットを用いる光量子コンピュータの研究で知られる東京大学 大学院工学系研究科 教授の古澤明氏(理化学研究所 量子コンピュータ研究センター副センター長、OptQC 取締役を兼任)と、NTT 先端集積デバイス研究所 機能材料研究部 准特別研究員の柏崎貴大氏、同部 グループリーダー 上席特別研究員の梅木毅伺氏らによる研究チームだ。

(左から)NTT先端集積デバイス研究所の柏崎貴大氏、東京大学の古澤明氏、NTT先端集積デバイス研究所の梅木毅伺氏
(左から)NTT先端集積デバイス研究所の柏崎貴大氏、東京大学の古澤明氏、NTT先端集積デバイス研究所の梅木毅伺氏[クリックで拡大] 出所:NTT

誤り耐性の獲得に不可欠であるスクイージングレベルの向上

 大規模高速汎用量子計算機として期待されている光量子コンピュータにおいて、その量子性の源となるのがスクイーズド光だ。スクイーズド光とは、光の電磁場が持つ正弦(sin)成分と余弦(cos)成分のうち、片方の量子ノイズが極限まで圧縮された光を指す。このノイズの圧縮度合いを示す「スクイージングレベル」が高く、かつ広帯域であるほど計算プロセスにおける誤差を物理的に抑えることが可能になる。

スクイーズ光の説明
スクイーズ光の説明[クリックで拡大] 出所:NTT
スクイーズ光には広帯域かつ高圧縮率であることが要求される
スクイーズ光には広帯域かつ高圧縮率であることが要求される[クリックで拡大] 出所:NTT

 また、光量子コンピュータを実用段階へと引き上げるには、計算中に発生するエラーをシステム自らが検知して修正する誤り耐性の獲得が不可欠だ。その中核技術として、GKP量子ビットの実装が期待されている。GKP量子ビットは、連続変数量子系の位相空間上に情報を格子状に符号化したものであり、小さな位置や運動量のずれに対して高い耐性を持たせられる。

 NTTと東京大学はこれまで、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路を用いた光パラメトリック増幅器により、広帯域なスクイーズド光の生成実験を共同で進めてきた。2021年には6dB、2023年に8.3dBのスクイージングレベルに成功し、広帯域化に関しては実現可能性の高い6THzを達成している。しかし、より高精度で高度な量子計算を実行するためには、スクイージングレベルのさらなる向上が不可欠な課題となっていた。

 古澤氏によると、「理論上、誤り訂正が可能になるスクイージングレベルの最低しきい値は約8.3dBとされている。しかし、この水準で計算上のエラーを実用レベルまで抑え込もうとすると、約100万個のGKP量子ビットが必要であり、現実的ではなかった」と語る。目標としていたスクイージングレベルの10dBを達成することで、GKP量子ビットは1000個程度で済み、また誤り率は10−11まで引き下げることが可能になるという。

出射時の光損失、測定時の位相誤差が課題に

 スクイージングレベルを向上させるには、システム全体における「出射時の光損失の低減」と「測定時の位相誤差の低減」が、これまで課題となっていた。

 従来の手法では、量子光源導波路に基準光と励起光を入射し、生成された量子光の一部を分岐することで、位相同期のための信号を抽出していた。しかし、この手法は測定時に生成された直後の量子光を分岐させることから、生成されたスクイーズド光まで一緒に失われて光損失が生じていた。かといって、損失を抑えるために分岐する光量を減らすと、今度は信号対雑音比が悪化し、位相誤差が生じてしまうというジレンマがあった。

スクイーズ光測定の課題
スクイーズ光測定の課題[クリックで拡大] 出所:NTT

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