基幹系DX基盤としてのクラウドERPクラウドERP導入の壁とそれを乗り越える方策(1)

グローバルにビジネスを展開する製造業にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は高まる一方であり、企業が競争力を発揮するためにはDXへの取り組みが不可欠です。本連載では基幹系DX基盤のあるべき姿と、その実現に向けてポイントとなるソリューションを提案します。第1回は、製造業においてDXが必要とされる理由から、企業のDXを実現するIT基盤のあるべき姿を考えます。

» 2024年03月01日 10時00分 公開
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サプライチェーンの最適化とグローバルの競争力強化が求められている

 2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻など、予測困難な出来事が立て続けに発生し、国際情勢は不安定な状況が続いています。これらは国内の製造業にも大きな影響を与えており(図-1)、原材料やエネルギー価格の高騰、物流の混乱といったグローバルサプライチェーンの寸断リスクも高まっています。

 経済産業省が発行する「2023年版ものづくり白書」では、この状況に対してサプライチェーンの強靭化が求められており、その実現に向けて必要となるのは「デジタル技術の導入」であると指摘されています。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)によって事業活動の効率化やビジネスモデルの変革を実現し、企業の競争力を高めることは、外部環境がもたらすリスクが予測困難である現在、必須の取り組みとなっています。

図-1 社会情勢の変化により影響を受けたサプライチェーンの活動 図-1 社会情勢の変化により影響を受けたサプライチェーンの活動[クリックして拡大] 提供:NTTデータ グローバルソリューションズ

 企業の競争力強化に欠かせないDXですが、日本国内企業の取り組みはなかなか進んでいません。

 国際経営開発研究所(IMD)が発表している「世界デジタル競争力ランキング」(2023年)において、日本は64カ国中32位でした。項目別の順位では、DXにおいて重要な要素の1つである「ビッグデータとアナリティクスの活用」や「企業の俊敏性」といった項目で最下位となっており、グローバルにみると日本のデジタル競争力は決して高いとはいえません。

 またグローバル市場では、脱炭素に向けた動きも活発になっています。サプライチェーン全体のカーボンフットプリントの把握は、製造業として取り組まざるを得ない問題の1つです。個社単位での対策は困難であり、デジタル技術によってサプライチェーンにかかわる事業者全体で取り組みを可視化/連携することの重要性は、ますます高まっている状況にあります。

基幹系DX基盤のあるべき姿

 前述の通り、製造業におけるDXにはサプライチェーンにかかわる事業者や消費者がお互いにデータを共有し、サービス事業者、製造事業者、消費者の利益向上を実現できるデジタル基盤づくりが求められています。そのため、基幹業務に関わるシステム全体を見直し、将来にわたって持続的成長を可能にする基幹系DX基盤の構築が不可欠です。

 システムへの要件が多岐にわたる製造業のDX基盤として、最も適していると思われるのがSAP S/4HANA Cloudです。ERPシステム(以下、ERP)のデファクトスタンダードであるSAP S/4HANA Cloudが提供するベストプラクティスと豊富なエコシステムを活用することで、グローバルな製造業ビジネスを見据えたDX推進が可能となります。

 従来のERP導入では、自社の要件にシステムが適合しているかを見極め、業務にシステムを合わせるFit&Gapの手法が採用されてきました。この手法では個々の企業に適したシステム導入ができる一方、ギャップを埋めるためにアドオンの開発規模が大きくなるほど、導入期間が長期化する傾向にあります。また、既存業務を多くのアドオン機能によって実現するため、環境に合わせた業務プロセスの変更が容易ではありません。

 社会情勢が不安定な環境においては、変化に対して迅速に行動できるIT基盤でなければ、企業の競争力を持続することが難しくなっています。

 そこで有効な手法の1つが、Fit to Standardの考え方です。Fit to Standardはシステムに合わせて業務を変革する手法です。業界のベストプラクティスを活用し、最適化された業務プロセスを適用します。ERP導入にかかる期間や費用を大幅に抑え、迅速なシステム導入を可能とします。さらに、クラウドサービスを選択することでアップデートによる機能拡張の恩恵を受けることができます。最新のアップデートを常に取り込める基幹システムを導入することで、急速な変化に適応し、継続的に効果を発揮するDX基盤が実現します。また、クラウドであれば、インフラなどのシステム基盤の構築や運用保守にかかわる費用やリソースといったコストを抑えることが可能であり、本来行うべき企業活動へ注力する環境を整備することができます。

 このように次世代の基幹系システムにおいては、作りこみによって個社独自のシステムを作り上げるのではなく、システムの標準に合わせ、デジタル技術の長所をうまく活用していくことが企業にとって最善の選択となります。

 そして、Fit to Standardに基づいたDX基盤の実現に有効なのがSAP S/4HANA Cloudです。グローバル標準のベストプラクティスを具体化した標準機能によって、企業の基幹業務を支えることが可能です。

図-2 SAP導入のFit to Standardアプローチ 図-2 SAP導入のFit to Standardアプローチ[クリックして拡大] 提供:NTTデータ グローバルソリューションズ

クラウドERP導入の課題

 クラウドERPを導入してDXを実現するためには、乗り越えなければならない課題も存在します。

 標準化されたプロセスへ合わせるために現行業務を変革することへの抵抗があったり、従来の業務で行っていたことが標準機能では成しえなかったりする場合があるため、クラウドERPにまったく手を加えないまま導入することは、多くの企業において非常に困難です。しかし、Fit to Standardによるメリットを享受するには、ERPへの変更は最小限に抑える必要があります。

 SAP S/4HANA Cloud導入において、よくある課題の一部を例に挙げます。

企業の独自要件への対応

 各企業にはそれぞれの強みや、競争力の源となる業務が存在します。

 Fit to Standardに基づき、業界のベストプラクティスに最適化する方針を定めたとしても他社と差別化できず、競争力が失われてしまうことは避けなければなりません。業務に合わせたシステム化が必要となります。SAP S/4HANA Cloudをどのように活用するべきかを見極め、標準化されたプロセスでは実現できない独自要件に対応するソリューションが必要となります。

周辺システムとの連携

 ERPの導入効果を最大化するためには、周辺システムとの連携が欠かせません。

 特に近年は豊富なSaaSソリューションが市場に存在しているため、業務にとって最適なソリューションを選定することも有効な手段です。基幹業務システムにSAP S/4HANA Cloudを選定したとしても、個別の業務ではSAP以外の製品が最良である場合も少なくありません。また、既存の仕組みを最大限活用することも必要です。

 そのためにも、ERPと周辺系システムとの連携は重要な課題の1つとなります。

失敗しないクラウドERP導入とは

 ここまで述べたように、基幹系DX基盤としてクラウドERP導入は非常に有効な選択肢です。しかし、その導入には壁となる課題が数多く存在します。導入に向けて、これらの壁をどう乗り越えるべきでしょうか?

 NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)では、こうした課題への方策として、SAPが提供するERPを支えるクラウド開発プラットフォームであるSAP BTP(SAP Business Technology Platform)の活用が重要なポイントになると考えています。

 本連載では、SAPソリューションをフルに活用した「失敗しない基幹系DX基盤の実現」について今回を含め、全4回のシリーズで解説していきます。

※本記事は、NTTデータ グローバルソリューションズより提供された記事を許諾を得て再構成したものです。

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提供:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月22日