DXの価値を最大化するクラウド拡張基盤クラウドERP導入の壁とそれを乗り越える方策(2)

グローバルにビジネスを展開する製造業にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は高まる一方であり、企業が競争力を発揮するためにはDXへの取り組みが不可欠です。本連載では基幹系DX基盤のあるべき姿と、その実現に向けてポイントとなるソリューションを提案します。第2回では企業の強みを生かした仕組みづくりを実現するSAP BTP(SAP Business Technology Platform)について解説します。

» 2024年03月01日 10時00分 公開
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DX基盤としてのクラウドERP導入

 第1回では、現代の製造業が求めるDXを実現する基幹系DX基盤として、クラウドERPシステム(クラウドERP)のSAP S/4HANA Cloud導入が有効であることをお伝えしました。企業はFit to Standardアプローチによって迅速にDX基盤を導入し、将来にわたって持続的に企業競争力を高めていく仕組みを実現できます。

 一方、SAP S/4HANA Cloud導入に向けて考慮すべきポイントもあります。それらの課題がクリアにならなければ、導入へ踏み出すことは難しくなります。SAP S/4HANA Cloud導入における障壁をどう乗り越えていくか、NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)の考える最適解を第2回、第3回で解説します。

 今回(第2回)は、Fit to Standardアプローチのなかで各企業がもつ独自要件をどのように実現していくか?という課題に着目し、その解決策としてSAP BTPのSide by Side開発を取り上げます。

 どの企業にも、自社の強みであり、競合他社に対する優位性を発揮するために標準化できない業務が存在します。このように他社との差別化につながる業務は、企業の独自要件としてシステム化する必要があります。一方で、クラウドERPを変化に強いDX基盤として活用し、競争力を保つためにはERPの拡張開発を最低限とするクリーンコアが原則です。従来のようにERPの機能拡張を自社用に作りこむと、システム変更やERPのアップグレードに影響を及ぼし、ビジネスの変化やシステムの最新化に対応するコストが増大する傾向があります。そしてITシステムが足かせとなり、企業経営の俊敏性を鈍らせることにもつながりかねません。

 本当に必要な一部の業務を独自要件としてシステム化することと、ERPには極力手を加えないクリーンコアを保つことは、どのようにして両立できるでしょうか。

 その解決策となるのが、SAP BTPです。

 SAP BTPは、クラウドERP導入のメリットを生かしながら、競争力を備えたITシステムの実現に欠かせないソリューションです。

SAPのクラウド戦略を支えるSAP BTPとは

 SAP BTPは、SAPアプリケーションに最適化したパブリッククラウド開発プラットフォームです。

 SAPのクラウド上のサービス、プロダクトが集約されており、システム連携やプロセス自動化、拡張アプリケーション開発、データ活用などを強力に支援する機能が提供されています。SAPのクラウド戦略においてもクラウドERPを支えるSAP BTPは注力分野となっており、近年ではさまざまな機能追加や拡張が行われています。SAP S/4HANA CloudをはじめとするSAPソリューションの価値を最大限に引き出すために必須となるソリューションです。SAP BTPを活用することで、DX基盤であるSAP S/4HANAを中核として市場環境の変化、ビジネスの拡張、ビジネスモデルの変革などに対して柔軟に対応できるようになります。

図-1 クラウドERPとSAP BTP 図-1 クラウドERPとSAP BTP[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

企業の強みを生かしたERP導入

 SAP BTPを活用することで、独自要件とクリーンコアを両立するクラウドERP導入が実現します。

 SAP BTPではSAP S/4HANA Cloudと緊密に連携したSide by Side開発という手法でアプリケーションを構築できます。Side by Side開発では、SAP S/4HANAの業務プロセスやデータを利用しつつ、ERPの外側にアドオン機能を配置します。リアルタイムにプロセスやデータを連携しながらも、ERP本体には変更を加えることなくアドオン開発を行うことが可能です。

図-2 従来型拡張とクラウドERPに適した拡張方法 図-2 従来型拡張とクラウドERPに適した拡張方法[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 このようなSide by Side開発の構成にはクリーンコアを保つだけでなく、他システムへの影響を最小限に抑え、柔軟な拡張が可能であるというメリットもあります。SAP BTP上のアプリケーションは基幹業務システムであるSAP S/4HANAとは疎結合となるため、アプリケーションの改修や拡張における影響範囲を抑えることができます。

 SAP BTPで提供している機能は下図のように大きく5つの領域に分かれており、それぞれに主要なサービスがあります。Side by Side開発では、これらのクラウドサービスを最大限に利用し、各ソリューションを組み合わせてアプリケーション開発を行うことができます。

図-3 SAP BTPの主要機能 図-3 SAP BTPの主要機能[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 アドオン機能の実現において、よく利用されるのはApp Dev(アプリケーション開発)とAutomation(ワークフロー管理+自動化)です。

 クラウド上で基幹業務アプリケーションの作成、拡張を行うための基盤と、業務ごとの承認プロセスをデジタル化するワークフロー開発機能などが備わっています。そして、アドオン機能とSAP S/4HANAをシームレスに統合するビジネスサイトの構築を可能にしています。

図-4 SAP BTPでのアドオン開発アプローチ 図-4 SAP BTPでのアドオン開発アプローチ[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 アプリケーション開発では、ローコードツールであるSAP Build Appsによってドラッグ&ドロップによる、視覚的で生産性の高いアプリ開発が可能です。また、ローコードツールでは対応の難しい高度な要件には、SAP Business Application Studioを用いたプログラミングによる作りこみも選択できる環境が用意されています。

図-5 SAP BTPのアプリケーション開発手法 図-5 SAP BTPのアプリケーション開発手法[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 SAP BTPでは、SAP S/4HANAの標準機能と同じSAP Fioriデザインに基づいたアプリケーションを開発できます。アドオン機能と標準機能で一貫性のあるUXにより、利用者は全てのアプリケーションを統一された操作方法で扱うことができます。

図-6 UIの一貫性 図-6 UIの一貫性[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 ERP導入において挙げられることの多い要件の1つが、ワークフローによる承認機能です。独自のプロセス定義や多重承認、複数システム間の連携といった複雑な承認フロー設計が求められることが多く、ERPとは別に専用のワークフローシステムを導入するケースもあります。

 SAP BTP上のワークフロー開発機能であるSAP Build Process Automationは、複雑な要件に対応できる仕組みとして提供されています。SAP Build Process Automationの特長は、自由な承認フローの構築が可能であり、ERPやその他システムとの連携が容易である点です。

 ドラッグ&ドロップで機能を作成できるローコードツールにより、簡単にワークフローを構築することが可能です。また、ビジネスプロセスや承認ルートも自由に設定できるため、要件に合わせて自由にフローを定義できます。

 さらに、プロセスのなかでERPだけでなく、サードパーティーシステムへのデータ連携も簡単に設定できます。企業内にある業務ごとの個別システムやSAP以外のSaaSソリューションなど、連携先のシステムの種類にかかわらずデータ連携が可能です。

図-7 ワークフローによるデータ連携 図-7 ワークフローによるデータ連携[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

 さらに、SAP S/4HANAのワークフローツールであるFlexible Workflowとも連携できます。ERP標準のワークフロー機能のメリットとして、ビジネスプロセスと密に連携した承認プロセスと組み合わせ、柔軟かつ外部システムと連携したワークフローの作りこみが可能です。

図-8 SAP ワークフローの役割分担 図-8 SAP ワークフローの役割分担[クリックして拡大] 提供:NTTデータGSL

SAP BTPが実現するサステナブルERP

 このようにSAP S/4HANA CloudとSAP BTPを組み合わせることで、クリーンコアを保ちながら柔軟に独自要件をシステム化することが可能です。クリーンコアであることのメリットは、導入期間を短縮できるだけではありません。従来のERP上にはなかったメリットとして、クラウドERPであるSAP S/4HANA Cloudでは定期的なアップデートが適用され、機能拡張や新規サービスの追加などが行われます。パッケージのアップデートを受け入れる基盤とすることで、ビジネス環境に最新のテクノロジーを取り入れることが可能となります。

 最新のテクノロジーの一例が、生成AI(人工知能)の活用です。AIに関する技術は近年急速に向上しており、特にChatGPTなどに代表される生成AIをビジネス取り入れている企業が増加しています。

 AIは、SAPも2023年から特に注力している分野の1つです。クラウドERP標準機能への生成AI機能の組み込みや、業務をアシストする生成AIアシスタント「Joule」の発表など、SAPソリューション全体に生成AIの導入を推進しています。SAP S/4HANAの導入企業は、将来的にこのようなAI機能のメリットを自社で活用できるようになります。

 企業が単独で、AIを活用したシステムを自社の業務へ組み入れるハードルは、思ったよりも高くなりがちです。AIを自社の業務において効果的に用いるアイデアをシステム化し、AIに学習させるデータを準備しなくてはならないなど、多くの課題があるためです。

 SAP S/4HANAでは、SAPが持つ独自のビジネスデータとビジネスプロセスへの理解に基づき、Amazon.comやGoogleなどとパートナーシップを組んで実現するAI機能が提供されます。

 さらに、SAP BTPでも同様に高度なAIを活用したサービスが利用可能で、独自要件としてアドオン開発された企業のビジネス環境に組み込むための仕組みが用意されています。

 企業競争力の向上に、デジタル技術はもはや欠かせないものとなっています。ビジネス環境の変化に取り残されないためには、ビジネスに最新のテクノロジーを取り入れて企業競争力の向上につなげる必要があります。

 基幹業務システムであるSAP S/4HANA Cloudを中心に据え、SAP BTPを組み合わせて独自機能を維持しながらクリーンコアを保つことが、最新のテクノロジーをビジネスへ反映し、継続的な発展を可能としたこれからの時代に最適なDX基盤であると考えます。

おわりに

 クラウドERP導入の課題を解決するソリューションとしてSAP BTPを紹介しました。

 企業がもつ独自要件をシステム化する手段として、SAP BTPを用いたSide by Side開発を行うことにより、クラウドERP導入のメリットを損なうことなく自由なシステム開発が可能となります。

 続く第3回では、もう1つの大きな課題である周辺システムとの連携を、SAP BTPによってどのように解決できるか説明します。

※本記事は、NTTデータ グローバルソリューションズより提供された記事を許諾を得て再構成したものです。

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提供:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月27日