国家覇権を左右する「宇宙利用」の世界〜加速する衛星コンステレーション競争:ディープな「機械ビジネス」の世界(7)(1/2 ページ)
本連載では、産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する。今回は、「宇宙」を舞台に活躍する機械について解説します。
人工衛星は、気象観測/測位(GPS)/地球観測/衛星通信などを通じて、現代社会を支える基幹インフラとして機能しています。例えば気象/地球観測衛星は、台風の進路予測や気候変動の解析に不可欠で、測位分野ではGPSをはじめ、複数の全球測位衛星システム(GNSS)が、物流、金融、交通制御といった経済活動の根幹を支えています。
近年は新興国、途上国を含め、宇宙利用が急速に拡大していますが、自国で衛星の設計/製造/打ち上げまでを完結できる国は限られているため、衛星の輸出や打ち上げサービスを巡る国際競争が激化しています。
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国家戦略と産業競争力を左右する重要領域
商業市場において最大のセグメントは、依然として「通信/放送衛星」ですが、とりわけ低軌道(LEO)に多数の小型衛星を配置する「コンステレーション(人工衛星群)」構想が存在感を高めています。
地球上には、地上設備では電波が届かない山岳地帯や海上もありますし、災害や紛争などで通信インフラがダメージを受けることもあります。こうしたことから現在、インターネットを活用した地球上の通信インフラを宇宙に広げ、リアルタイムに情報収集、配信ができるネットワークを宇宙空間につくる動きが加速しているのです。
代表的な例としては、SpaceX(スペースエックス)が展開するStarlink(スターリンク)があり、ブロードバンド通信のグローバル提供を進めています。国内では、2025年にauの携帯電話などで、このStarlinkの衛星を介した一部サービスでのデータ通信が始まったことをご存じの方も多いでしょう。
一方、政府レベルの需要では、防災/安全保障/資源管理を目的とする地球観測衛星が増加傾向にあります。現在、人工衛星を保有する国は50カ国以上に拡大しており、宇宙は国家戦略と産業競争力を左右する重要な領域へと変貌しています。
地球を周回する人工衛星は、極限の環境の下で長期間にわたって稼働する、高度なシステム統合体です。真空、放射線、急激な温度変化といった宇宙環境に耐えるためには、耐久性の高い材料や放射線耐性部品、高信頼性電源/通信機器などが不可欠。とりわけ材料技術や電子部品、精密デバイスの分野において、日本企業は世界的に高いシェアを持っており、これらの基盤技術は、宇宙産業の競争力を支える重要な強みとなっています。
今後さらなる発展を実現するためには、革新的な基盤技術の研究開発を加速させられるかどうかが鍵を握ります。そのためには、企業規模の大小を問わず、産学官が連携し、市場ニーズや国家戦略を踏まえた技術開発に戦略的に取り組む体制の構築が求められます。
近年は、比較的安価な小型衛星を小型ロケットなどで数多く打ち上げ、前述のようにコンステレーションとして一体運用するビジネスモデルが注目を集めています。これにより、地球観測や衛星通信分野で高頻度、広域のデータ取得が可能となり、新たな社会的価値の創出が期待できます。
また、大型衛星と比べると、小型衛星は1機当たりのコストが低く、リスク分散が可能です。そのため、短い開発サイクルで設計/打ち上げ/実証を繰り返す「アジャイル型開発」に適しており、機能や性能を段階的に高度化できる点が大きなメリットだといえるでしょう。
戦略的に注力すべき5つの技術基盤
こうした潮流を踏まえて、経済産業省および文部科学省は、「国内宇宙活動の自立性確保」と「国際競争力の強化」の観点から、小型衛星分野において「戦略的に注力すべき重点技術」として、次の5つの技術基盤の強化を進めています。
推進系技術の開発
100kgクラスの小型衛星コンステレーションでは、衛星の軌道投入後の衝突回避や、寿命末期の軌道離脱対応が必要なため、多様な衛星に搭載可能な、小型/軽量/安全/安価なモジュール型のスラスター(姿勢制御や軌道の微修正を行う小型の副推進装置)の開発/実用化が求められています。
軌道/姿勢制御技術の開発
観測精度や通信品質を左右する基盤技術であり、さまざまなセンサーによる高精度での軌道/姿勢制御が可能な6Uサイズ(10×20×30cm)向けのADCS(姿勢決定制御サブシステム)総合ユニットの開発が必要となります。
電源系技術の開発
高効率太陽電池や、軽量で高密度なバッテリーは、容量などさまざまなニーズに応えられる高い拡張性を持つため、軽量で安価なデジタル電源の開発/実用化が期待されています。
高性能化に伴う設計課題に関する実現可能性の調査研究
放射線対策や構造強度など、小型衛星をコンステレーション化する上での課題や求められる機能などを抽出し、衛星設計への影響やその対応策などについての研究です。
超小型CMG(Control Moment Gyro)の開発
CMGとは内部の回転体の角運動量(回転の勢いを表す物理量)を利用して高いトルク(物体を回転させる力の量)を発生させる姿勢制御装置のことです。姿勢制御能力を向上し、撮像の高頻度化を可能にするための開発を進めています。従来、衛星の姿勢制御に使われていた部品「リアクションホイール」よりも角運動量やトルクを大幅に改善することを目指します。超小型化が実現できれば、高速高精度な姿勢変更が可能になり、観測能力が高まります。
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