建設機械をStarlinkで遠隔操縦、市販建機の8割以上に対応可能:自動運転技術
NTTコミュニケーションズとARAVは建設機械向けの遠隔操縦/自動化ソリューションの提供を開始した。
NTTコミュニケーションズとARAVは2024年6月6日、東京都内で説明会を開き、建設機械向けの遠隔操縦/自動化ソリューションの提供を開始したと発表した。ARAVの建機遠隔操縦システムに、NTTコミュニケーションズが構築した通信環境を組み合わせて提供する。5GだけでなくStarlink Businessも通信回線として利用できるため、山間部や災害地域など通信環境の構築が困難な場所での遠隔操縦や自動化の導入も推進できるとしている。
人手不足の解消や安全対策を目的に建機の遠隔操縦や自動化が注目されているが、高機能な新しい建機の新規導入や通信環境の構築がハードルとなっている。こうした課題を踏まえ、ARAVはさまざまなメーカーの新旧の建機に対応した遠隔操縦向けの後付けアタッチメント「Model V」を、NTTコミュニケーションズは現場のニーズに合わせた通信環境の構築のノウハウをそれぞれ持ち寄り、包括的なソリューションとしてNTTコミュニケーションズが提供する。建機の遠隔操縦や自動化のハードルを下げて普及率を高めたい考えだ。
今後は建設現場以外の車両や重機でも遠隔操縦や自動化を推進できるよう、物流や鉄道、製造業、除雪のようなインフラ管理など他産業にも広く提案する。2〜3年後に数億円を超えるビジネスに育てる目標だ。
少しずつ遠隔制御を始められる
ARAVのModel Vは、ネットワークを介した遠隔操縦席からの制御信号により建機を遠隔操縦できるようにする。日本国内の建機保有台数は約30万台、年間の新車販売台数は約3万台だ。Model Vは市販建機の84%に対応しており、幅広く搭載できる。遠隔操縦席での操作方法や操作デバイス、建機側で使う機能、遠隔操縦や自動制御に関する設定などは要望に合わせてカスタマイズできる。
Model Vを搭載した状態でも建機は有人操作が可能で、日によって遠隔操縦にしたり有人操作にしたりすることができる。現場の状況に合わせて少しずつ遠隔操縦の使用範囲を拡大できるようにした。車体にセンサーを追加し、ソフトウェアをアップグレードすれば、同一のアタッチメントで遠隔操縦だけでなく自動制御にすることも可能だ。
建設現場は数年単位で長く続くことも珍しくない。新型の建機の購入や新しい現場のスタートを待たなくても遠隔操縦の活用を始めることができる点を訴求していく。
遠隔操縦や自動化には通信環境の他、映像伝送、建機に搭載するクラウドカメラ、位置情報取得などが必要になる。NTTコミュニケーションズは、LAN配線敷設コストを抑えながら現場全体を通信エリアにできるメッシュWi-Fi「PicoCELA」や、低遅延の映像伝送や複数拠点での視聴などを実現するソリューション「Zao Cloud View」などにより、快適な遠隔操縦の環境を整える。それぞれのソリューションの連携やつなぎこみまで行う。
建機を違和感なく遠隔操縦するには遅延時間が1秒以下であることが望ましいという。Starlink Businessを活用した建機の遠隔操縦の場合、遅延は200m〜300msに抑えられる。5Gでも1秒以下に抑えられ、十分な通信速度で利用できる。
説明会当日は、千葉県柏市のARAVの実験場にある建機を、東京都内から操縦した。難易度の高い「水平引き」などの操作も遠隔で十分に行えるという。建機の遠隔操縦は、現時点では免許なしで行うことができる。
建機の遠隔操縦/自動化ソリューションの導入費用は、フルオーダーメイドとなるため説明会では回答されなかった。
「通信のスペックが重視される現場ばかりではない。“作業場所から少し離れられれば安全面では十分”という現場では、目視しながらラジコン的に遠隔操縦するので映像伝送は不要だ。通信が必要なエリアの広さもさまざまで、Starlinkのアンテナを立てるほどではない現場もある。過剰な環境で費用が増えることがないよう、現場ごとに何をしたいのかを踏まえて必要十分な通信環境を整備するのでフルオーダーメイドと表現した」(ARAV 代表取締役の白久レイエス樹氏と、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートワークサイト推進室 室長の小野文明氏)
ARAVとNTTコミュニケーションズはこれまでにも協力の実績があるが、自前で通信環境を用意することもあった。NTTコミュニケーションズと建機の遠隔操縦/自動化ソリューションを提供することで、最先端の通信ソリューションも含めて現場に適した通信方式を選定できるのが強みとなる。
建設現場のオートメーションを国も推進
建設現場のオートメーション化について、国土交通省は「i-Construction2.0」というコンセプトを掲げている。ICTの活用から自動化や省人化に踏み込み、(1)施工のオートメーション化、(2)デジタル化やペーパーレス化などデータ連携、(3)施工管理のリモート化やオフサイト化、の3つを推進する。2040年度までに、建設現場で3割の省人化を進める(=生産性を1.5倍に向上)のが目標だ。
「自動施工における機械安全ルール ver.1.0」が策定され、2024年3月に公開されている。非常停止の在り方などを整理した。ARAVも策定の議論に参加している。
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