化学業界におけるサプライチェーンを巡る課題は少なくありません。本連載では、化学業界のサプライチェーンの現状と課題を解説し、最適化に向けた仕組みづくりを提案します。第4回はSAP Integrated Business Planning(SAP IBP)を使った供給計画立案を解説します。
第1回記事では、化学業界においてグローバルを意識したサプライチェーン管理の仕組み作りが喫緊の課題だと提起し、NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)が考えるサプライチェーン計画の立案支援を行うグループ共通基盤(サプライチェーン計画システム)のあるべき姿について解説しました。
このあるべき姿に対して、SAP Integrated Business Planning(SAP IBP)を適用して実現するサプライチェーン計画システムの概要や、計画情報の共有と計画立案支援を可能にするシステム構造と関係者を巻き込んで生販会議を推進する仕組み(第2回)、さらに計画立案作業自体を支援する業務機能としての需要計画(販売計画)立案作業の姿(第3回)を説明してきました。
今回(第4回)は、もう1つの計画立案対象である供給計画(出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画)へのSAP IBPの適用について解説します。
第3回記事(SAP IBPを適用した需要計画立案作業)で示した図を再掲しました(図-1)。
生産する製品内容によってサプライチェーン形態は細かく異なりますが、化学業界を特徴づける事項を意識しながら、仕入先から顧客までのサプライチェーンを簡単に図式化したものとご理解ください。
第3回で取り上げたのは需要計画の範囲だったため、工場の生産単位(バルク品:kg)と顧客への販売単位(荷姿品:個数)が異なる点のみに言及しました。供給計画の視点、特に工場視点でみると連続生産プロセス、バッチ生産プロセスや充填(じゅうてん)プロセスのプロセスがある点が他業界と異なる点ではないでしょうか。
化学業界のサプライチェーン例(図-1)に対して、供給計画と需要計画(販売計画)がどの領域を対象にしているか図示しました(図-2)。供給計画の対象範囲は濃いオレンジ色で示す範囲を想定しています。ここではNTTデータGSLが考える、供給計画を構成する出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画の対象範囲について説明します。図-2の濃いオレンジ色で示す範囲を参照しながらご確認ください。
顧客需要計画に基づく工場(充填プロセス)や物流拠点からの出荷計画を対象とします。また、工場から物流拠点への出荷も含まれます。
連続生産プロセス、バッチ生産プロセスの生産計画を対象とします。また、バルク品から荷姿品に充填される過程を生産活動と見なして充填プロセスも対象と考えています。
物流拠点や工場内で保有する製品、半製品、原料/材料の在庫に関して、安全在庫数、保有在庫数の計画を対象とします。
連続生産プロセスやバッチ生産プロセスで必要となる原料、材料の仕入先に対する調達計画を対象とします。
供給計画立案業務は次年度計画、半期修正計画と通常月(期中)で、計画立案の観点が以下のように異なったものになります。
第3回記事の需要計画立案業務において、化学業界では製造装置の能力制約が大きいため製品(バルク品)の生産枠を考慮した需要計画(販売計画)の立案をするケースがあると説明しました。そうしたパターンを、図-3、図-4では需要計画と供給計画の関係を両方向の矢印で示しています。
一方、供給計画は物流部門、生産部門、調達部門などなど多くの組織がそれぞれの計画(出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画)を受け持って計画立案を行っています。
計画立案作業の中で、関係部門が調整しながらそれぞれの計画表を修正することで、整合性のある供給計画の立案に多くの時間と工数をかけていないでしょうか。また、さまざまなシナリオを想定した供給計画案を作成することの制約も多いのではないでしょうか。
SAP IBPでは供給計画対象範囲(図-2再掲)となる出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画について、一括でかつ整合性がとれた計画案を自動作成する機能が提供されています(図-5)。
この計画エンジンを使うことで中期レベル(計画期間:1年程度、計画単位:週・月)の供給計画が自動立案されます。また、計画エンジンで使うBOM(部品表)を含むマスターデータにはSAP S/4HANAや他の基幹システムのマスターデータを連携させることが可能です。SAP IBPの供給計画機能では製品を構成する半製品や原料/材料を定義するBOMを使用しています。
これにより半製品や原料/材料も自動作成されますが、中期レベルでの供給計画であるという観点から、BOMを構成する原料や材料は主要な品目に絞ることを推奨します。
また、プラントの操業計画を支援するツールを導入している、あるいは検討しているというケースをよく耳にしますが、このようなツールとSAP IBPはバッティングするのではなく、むしろ相互補完の関係にあるとNTTデータGSLは考えています。
ここでは、通常月(期中)に供給計画の見直しを行うサイクルでSAP IBP供給計画の画面イメージを紹介します。なお、画面例はSAPが提供するベストプラクティスの画面およびサンプルデータを使用しているため、化学業界特有の製品名称ではないことをご了解ください。
顧客/製品軸で作成した需要計画をインプットして計画エンジン(ヒューリスティック)で出荷計画、生産計画、在庫計画を作成した結果の画面です(図-6、7、8)。これらの計画は見かけ上は1つのExcelファイルにまとまった単位で取り扱われます。
顧客への出荷計画(図-6)には、物流拠点や工場から顧客への出荷を計画エンジンで計算した結果が表示されています。この画面は顧客への出荷計画のみですが、工場から物流拠点への製品移送計画も同様に作成されます。
生産計画(図-7)には、充填プロセス、バッチ生産プロセス、連続生産プロセスで生産する製品の生産計画を計画エンジンで計算した結果が表示されています。
在庫計画(図-8)には、供給計画対象範囲内で保有する製品、半製品、原料/材料の在庫数と安全在庫数を計画エンジンで計算した結果が表示されています。
ヒューリスティックでは原料/材料の供給や生産設備の能力は無限と仮定して供給計画の計算が行われます。このため、特定の生産設備がボトルネック(過剰負荷)となる場合が発生します。このボトルネックを解消するために生産計画の調整や、場合によっては出荷計画の調整を行うような複数のシナリオとして保存し、複数案(シナリオ)を比較して1つの案に絞り込むことが可能です。また、ヒューリスティックではこの調整をマニュアルで行いますが、マニュアル調整を可能にするため、各計画画面には調整数を入力する項目が設けられています。
供給計画(出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画)は多くの組織が関係して計画立案されていますが、SAP IBP供給計画機能を活用することで、一括かつ整合性のある供給計画の立案が可能となります。
今回はSAP IBPを適用した供給計画(出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画)立案作業について解説しました。一方で、連続生産プロセス、バッチ生産プロセスにおける連産品や蒸気/電気の扱いなど、化学業界で特徴的といえる事項についてここでは触れていません。中期レベル(計画期間:1年程度、計画単位:週/月)の供給計画は紹介した内容でおおむね適用可能と考えていますが、NTTデータGSLでは、さらに踏み込んだ検証も企画しています。ご興味のある方は個別にお問い合わせください。
ここまで、化学業界が抱えるサプライチェーンに関わる課題とSAP IBPを活用した解決方法について4回のシリーズで解説しました。このシリーズが、皆さまのサプライチェーンに関わる課題解決の糸口になれば幸いです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年4月19日