化学業界におけるサプライチェーン計画業務の共通基盤の仕組み化学業界のサプライチェーン(2)

化学業界におけるサプライチェーンを巡る課題は少なくありません。本連載では、化学業界のサプライチェーンの現状と課題を解説し、最適化に向けた仕組みづくりを提案します。第2回のテーマはグループ共通基盤となる「サプライチェーン計画システム」です。

» 2023年01月10日 10時00分 公開
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 第1回記事では、化学業界において近年、サプライチェーン管理の重要性が高まってきており、グローバルを意識したサプライチェーン管理の仕組み作りが喫緊の課題だと提起しました。また、製造、販売、在庫、調達、配送などサプライチェーンに関わる現行の計画業務でお客さまからよくお聞きする課題についても考察しました。その根本原因はサプライチェーン計画業務のグループ共通基盤が存在しないことにあり、グループ共通基盤のあるべき姿についても解説しました(図-1)。

 今回(第2回)は、図-1で示した「サプライチェーン計画システム」がグループ共通基盤としてどのような仕組みとなるのか解説します。

図-1:NTTデータGSLが考えるあるべき姿(再掲)[クリックして拡大]

グループ共通基盤として、どのような仕組みが必要なのか

 事業部ごとに作成されている需要計画や供給計画が共通の場所に格納され、共有できるだけでは共通基盤としては不十分です。以下、5つの要件事項を考慮した共通基盤であることが必要です。

  • (1)計画情報の共有
  • (2)計画案作成支援
  • (3)計画内容の可視化・アラート
  • (4)計画業務のプロセス管理
  • (5)基幹システム等との連携

 販売計画や生産計画の情報はメールベースで連携しているもののシステムで共有化されていない、海外販社からの販売情報がタイムリーに入手できていない、というケースはよくあります。まずは計画情報が海外販社などを含めて共有できる仕組みが必須と言えます。また計画案は1つとは限りません。(1)で示すように、複数案を作成し、関係者とその案を共有してベストな計画案を協働で作り上げるための、計画情報共有の仕組みが必要です。

 需要計画立案では、販売実績や基本契約情報、受注状況などを見ながら担当者の経験と勘で販売計画を手作業で作成しているケースが多いです。供給計画では出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画の4つの計画観点で計画を作成する必要があります。これらの計画は部門をまたぎ、それぞれが依存した計画であり、部門間の調整に多大な労力がかかっています。これは計画を立案する作業の作業負荷だけの問題だけではなく、属人化の原因でもあります。(2)は計画案を作成する作業は可能な限り、システムが計画案のたたき台(必要に応じて複数案)を作成するように自動化、高度化させて、計画担当者はそのたたき台を基に最適な案を決定する作業や新たなアイデアを引き出す作業に集中できるようにすることが必要だということを意味します。(2)については第3回、第4回の記事であらためて掘り下げます。

 計画立案作業は特定の顧客、製品、在庫保管場所、生産リソースなど、あえて言うと狭い範囲にフォーカスして行います。一方で、計画を会社全体で俯瞰的に見て無理がないか可視化することが必要です。(3)のように、さらに過剰な在庫や生産資源の過負荷などがある場合には、計画担当者に通知することも必要です。

 需要計画、供給計画の立案、討議、承認といった活動は、月次の定例業務(例:生販会議)として多くの計画担当者によって部門をまたいで実施されています。毎月の作業であっても、生販会議に向けた事前準備作業(需要計画案作成、供給計画案作成)、会議開催に関わる連絡や調整に多くの時間を割いていることでしょう。そのため、(4)にあるように、事前準備作業を含めた定例生販会議を業務プロセスとして定義し、計画担当者をこの会議に自動的かつ繰り返して巻き込む仕掛けが必要です。

 計画立案は、サプライチェーン計画システム内で完結するものではありません。経営管理システムや基幹システムから事業計画、販売実績、マスター情報などを連携することで、精度の高い計画をタイムリーに立案することが可能になります。さらにこれによって(5)の、経営活動のPDCAが確立できます。

SAPソリューションとサプライチェーン計画システムの関係性

 ERPとして広く採用されているSAPのソリューションの一つとして、サプライチェーン向け統合事業計画ソフトウェアの「SAP IBP」があります。SAP IBPは6つのモジュールとSAP IBPプラットフォーム、SAP HANAで構成されています(図-2)。本記事では、図-2に記載したモジュールなどの機能概要は英語名称の下方、および右に記載した文言レベルに留めています。なお、これらのSAP IBPモジュールは6つ全て必須ではなく、業務要件によって必要となるモジュールを選択します。また、適用モジュールの段階的な拡張も可能です。

 上述の(1)から(5)の事項がSAP IBPのどの機能に対応するのかを概念的に図示しました(図-3)。少々我田引水に見えるかもしれませんが、SAP IBPは(1)から(5)の事項に対応する機能を提供していることが分かると思います。このため、NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)はサプライチェーン計画システムにSAP IBPの適用を推奨しています。

図-2:SAP IBPの構成と周辺システム[クリックして拡大]
図-3:共通基盤の考慮事項とSAP IBP構成要素との対応[クリックして拡大]

計画情報の共有と計画立案支援

 少し技術的な視点で、計画情報の共有と計画立案支援がどのように実現されているかを紹介します。大まかにご理解いただけるように、SAPの用語をできるだけ使わずに説明します(図-4)。

 先ほど、SAP IBPには6つのモジュールがあると説明しました(図-2)。これらのモジュール機能に対応したデータモデルとして“計画モデル”が提供されています。この計画モデル内に、需要計画や供給計画などの計画情報や計画立案に必要となるマスターデータが格納されます。

 計画ビュー(計画立案画面)にはExcelが適用されています。「あれ? Excel使用を否定していたのでは?」と思われるかもしれませんね。実はSAP IBPは、Excelの操作性や表現力の優れた点に着目して、計画立案画面に採用しています。ただ、Excelをそのまま使うのではなく、需要契約や供給計画などの計画立案作業を支援するExcel Add-inプログラムを通じて機能を提供する形です。

 計画ビュー(計画立案画面)で計画モデル内に格納された各種情報を使って需要計画や供給計画などの計画立案作業を実行します。計画立案作業の結果は計画モデル内に格納され、計画担当者間で情報共有が可能となります。複数の計画案を作成して計画モデル内に格納し、必要に応じて計画担当者と共有することも可能です。

 さらに、計画作業をより高度化する目的で需要予測エンジンと供給計画エンジンが提供されています。あえて言うと狭い範囲にこれらのエンジンは「経験と勘」や「属人化」といった課題解消に貢献できます。

図-4:計画情報の共有と計画立案支援を可能にする構造[クリックして拡大]

生販会議の業務プロセス

 計画情報の共有と計画立案支援をSAP IBPでどのように実現しているか、簡単に説明してきました。SAP IBPというツールを業務の中で生かすには、計画業務の業務プロセスの流れを設定して、計画業務に関わる関係者を巻き込むような仕掛けも必要です。

 皆さまの会社では、事業計画に基づく次年度計画や半期修正計画を行う生販会議(トップダウン型)と、通常月(期中)で受注状況変化や生産状況変化を計画に反映する生販会議(ボトムアップ型)の、大きく2つの性格を持つ生販会議を運営しているのではないでしょうか。ここでは、通常月(期中)に開催する生販会議として、A事業部の生販会議業務プロセスを例示しました(図-5)。

 この例では、生販会議は毎月下旬ごろに開催しています。この会議に向けて営業部門と生産部門の計画担当者が需要計画、供給計画のたたき台を事前に準備するという業務プロセスです。需要計画案作成では各営業課が担当する顧客の販売計画に、受注状況などを反映して前月の計画の修正を行い、A事業部が需要計画案として取りまとめます。

 供給計画案の作成においては、営業部門から受け取った需要計画を生産管理部門が受け取り、物流部門や資材部門、購買部門と協働して供給計画案をまとめます。現在は、営業部門からの需要計画に基づいて各部門(生産管理部門、物流部門、資材部門、購買部門)がメールなどで調整しながら独自に計画案を作成しているケースが多いと思います。従って「供給計画案作成」のように1つの枠でくくれるものではないかもしれませんが、この例では各部門が協働して供給計画案を作成する業務プロセスとしています。この意図は、第4回の記事で説明します。

図-5:A事業部生販会議の業務プロセス例(通常月)[クリックして拡大]

SAP IBPによる生販会議の進捗管理

 SAP IBPでは定例化した業務プロセスを定義して、関係者を巻き込み当該の業務プロセスを推進させる機能が提供されています。この機能は定例化された業務プロセスだけでなく、一時的に発生する業務にも対応可能です。

 では、上述のA事業部の生販会議をSAP IBPで実現する例を紹介します。

 A事業部の生販会議の業務プロセスは、SAP IBPではステップとタスクで表現されます(図-6)。この図ではステップ名称、タスク名称のみを記載していますが、ステップ、タスクの内容説明や日程、参加者などの情報があります。

 この業務プロセス定義に基づき、生販会議を進めているSAP IBP画面例を記載しました(図-7)。この画面例では、生販会議の準備作業である需要計画案作成と供給計画案作成が完了して、需要計画、供給計画レビューにこれから着手するというステータスとなっています。

 また、生販会議は毎月繰り返し開催されるため、繰返業務プロセスとして設定することも可能です(図-8)。

図-6:業務プロセス定義例[クリックして拡大]
図-7:SAP IBP 業務プロセスの進捗管理[クリックして拡大]
図-8:SAP IBP 繰返業務プロセスの設定例[クリックして拡大]

おわりに

 グループ共通基盤としてどのような仕組みが必要か、5つの要件事項を挙げました。さらにこの5つに対して、(1)計画業務の共有、(2)計画案作成支援、(4)計画業務のプロセス管理にSAP IBPを適用したイメージを少し掘り下げて説明しました。

 ここまでの説明でサプライチェーン計画を立案する関係者を巻き込み、関係者同士が協働して需要計画や供給計画を作り上げていくグループ共通基盤のイメージが湧いてきましたら幸いです。

 続く第3回、第4回は、SAP IBPを適用した需要計画立案作業と供給計画立案作業について説明します。

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提供:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年4月20日