SAP IBPを適用した需要計画の立案作業:化学業界のサプライチェーン(3)
化学業界におけるサプライチェーンを巡る課題は少なくありません。本連載では、化学業界のサプライチェーンの現状と課題を解説し、最適化に向けた仕組みづくりを提案します。第3回はSAP IBPを使った販売計画立案を解説します。
第1回記事では、化学業界において近年、サプライチェーン管理の重要性が高まってきており、グローバルを意識したサプライチェーン管理の仕組み作りが喫緊の課題だと提起し、NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)が考える「サプライチェーン計画立案支援を行うグループ共通基盤(サプライチェーン計画システム)のあるべき姿」について説明しました。
第2回記事では、サプライチェーン計画システムにSAP IBPを適用することで、サプライチェーン計画を立案する関係者を巻き込み、関係者同士が協働して需要計画(販売計画)や供給計画を作り上げていく仕組みについて紹介しました。
今回(第3回)は、SAP IBPを適用した需要計画(販売計画)立案作業について解説します。
化学業界のサプライチェーンの特徴
生産する製品内容によってサプライチェーンの形態は異なりますが、化学業界を特徴づける事項を意識しながら、仕入先から顧客までのサプライチェーンを簡単に図示しました(図-1)。
- 工場ではXXX製品を1バッチ500kg製造してタンクに一時保管する(バルク品)
- 顧客には、XXX製品のバルク品に対して100kg入りドラム缶10個を出荷する(荷姿品)
このように工場の生産単位(バルク品:kg)と顧客への販売単位(荷姿品:個数)が異なる点が他業界と異なる点ではないでしょうか。これに伴って、工場から顧客や物流拠点に出荷するときにバルク品から荷姿品に詰め替えを行う“充填(じゅうてん)プロセス”が存在するのが化学業界のサプライチェーンの特徴の1つです。また荷姿品はドラム缶だけではなく風袋やタンクローリーなどもあり、かつバルク品に対して荷姿品は1対Nの関係があるのも特徴といえるでしょう。
さらに、工場内の生産プロセスに関する特徴も存在しますが、これについては第4回記事で取り上げます。
需要計画と供給計画の担当範囲
化学業界のサプライチェーン例(図-1)に対して、需要計画(販売計画)と供給計画がどの領域を対象にしているかについて図示しました(図-2)。
需要計画(販売計画)の対象範囲は濃いオレンジ色で示す範囲を想定しています。ここでは顧客、製品(荷姿品)軸で需要計画(販売計画)を立案することになります。また複数の物流拠点や直送する生産工場が複数ある場合は、これらも計画軸に含まれてきます。
企業によっては、顧客や物流拠点への配送計画までを需要計画(販売計画)の範囲として営業部門が担当されているケースがあるかもしれませんが、これらは供給計画の範囲としています。
需要計画立案業務
需要計画(販売計画)立案業務は、次年度計画と半期修正計画、通常月(期中)では計画立案の観点が以下のように異なります。
- 次年度計画では事業計画を基本に、トップダウン的に顧客・製品軸で需要計画(販売計画)の立案を行う(図-3)
- 通常月(期中)では次年度計画で策定した需要計画に基づいて、実際の商談状況や受注動向を鑑みて月次で需要計画の見直しを行う(図-4)
次年度計画や半期修正計画、通常月(期中)では、下記のような情報を参考に需要計画(販売計画)が立案されます。
- 販売実績
- 新製品の場合は類似製品の販売実績
- 受注実績
- 生産計画状況など
これらの情報から、計画担当者の経験と勘で需要予測をしながら需要計画(販売計画)の立案作業をしているというケースをよく耳にします。また、化学業界では製造装置の能力制約が大きいため、製品(バルク品)の生産枠を考慮した需要計画(販売計画)立案を行うケースもよく聞きます。
SAP IBP 需要計画機能の適用
ここからは、通常月(期中)に需要計画の見直しを行うサイクルにSAP IBP 需要計画機能を適用したイメージを紹介します。
事例としてお見せするのは、A事業部の営業担当課が担当する顧客に対して顧客/製品軸で需要計画(販売計画)を立案する画面例です(図-5)。なお、画面例はSAPが提供するベストプラクティスの画面およびサンプルデータを使用しているため、化学業界特有の製品名称ではないことをご了解ください。
前年度の実績数量(「実績数量(前年度)」)に基づいた需要予測数量(「統計予測数量」)がSAP IBPの需要予測機能によって自動表示されます。また、基幹システムで受注登録された受注数(「感知された需要数量」)を表示することが可能です。
これらの情報を基に需要計画(「ローカル需要計画」)に計画値が自動提案されます。この画面例では需要予測数量を提案値として表示しています。
計画担当者は自動表示された需要計画(=販売計画)に対して数値変更が可能です(意志入れ)。
「需要計画数量」にはA事業部営業担当課の需要計画を取りまとめてA事業部営業部として策定した需要計画を顧客/製品軸に再配分した計画数が表示されていますが、営業担当課と営業部の計画数に差異が生じ得るため、この差異を両者で調整する場面も出てきます。
この事例では生産計画情報は表示していませんが、必要に応じて他項目も含めて計画画面に項目を追加することが可能です。計画立案に必要な情報を計画画面に表示することで、計画担当者は需要計画に対する「意志入れ」に集中することが可能です。また、全ての製品に対して「意志入れ」をするのではなく、特定の製品群については自動提案された需要計画を採用する製品分類分けも可能です。
このような機能を活用することで計画担当者の作業負荷を下げるだけでなく、属人化の解消にも貢献できます。
しかし、SAP IBP導入初期段階から、この事例のように需要予測を高い精度で利用することは難しい面もあると思います。まずは前年同月の実績を自動表示させるレベルでスタートして、次に需要予測機能を提供して計画の自動提案にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
SAP IBPの需要予測機能
上記の画面例(図-5)の中に需要予測数量(「統計予測数量」)が表示されています。これはSAP IBPで過去出荷実績を基に需要予測数量を自動計算する需要予測機能によって予測された需要数量です。
需要予測機能では予測インプットデータのクレンジング機能や予測アルゴリズム(クロストン法、勾配ブースティング、重線形回帰など)が提供されています。需要予測を実行するとき複数の予測アルゴリズムを販売実績(過去データ)に適用して、予測値と実績値の誤差が最も少ない予測アルゴリズムを自動選択させることで将来の需要予測が可能です(Best Fit機能)。また、需要予測精度を向上させるための技法や業務プロセスも提供されています。
需要予測機能の画面では左右方向のスクロールで販売実績数量に基づく事後予測(過去)と販売数量実績に基づく統計予測(将来)を確認することができます(図−6)。事後予測(過去)ではBest Fit機能による結果が表示されています。また、統計予測(将来)では事後予測で決定した予測アルゴリズムで将来を予測した結果が表示されています。上記の画面例(図−5)の需要予測数量(「統計予測数量」)には、この統計予測(将来)の数値が表示されています。
しかし、前述したようにSAP IBP導入時から高い精度で需要予測を行うことは難しいと思います。そこで、需要予測機能を並行運用して、需要予測精度を向上させるための技法や業務プロセスにおける需要予測のスキルを育てながら製品群に順次適用してみてはいかがでしょうか。
おわりに
SAP IBPを適用した需要計画(販売計画)立案作業について解説しました。化学業界で需要計画(販売計画)立案作業にSAP IBPを適用した場合のイメージが湧いてきましたら幸いです。
なお、化学業界で特徴的な、バルク品と荷姿品を考慮したSAP IBPでの対処方法についてはここでは触れていませんので、ご興味のある方は個別にお問い合わせください。
最終回となる第4回は、SAP IBPを適用した供給計画立案作業について解説します。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年4月22日