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知らないと取り返しがつかなくなる金型の費用と作製期間の話ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(9)(2/2 ページ)

連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントを解説する。連載第9回は、金型費用と金型作製期間について取り上げる。

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金型作製期間

 試作と検証(試験)を十分に行い、最終形状の3Dデータが完成すれば、その3Dデータで金型を発注する。3Dデータを成形メーカーと金型メーカーに渡し、金型構造の検討をしてもらう。その後に打ち合わせを行い、金型特有の形状に関して指摘をもらったり、合意を取ったりする(打ち合わせ内容は、連載第8回を参照のこと)。そして、この打ち合わせ結果を基に3Dデータの修正を行い、再度3Dデータを渡し、金型発注から1〜2週間後に金型の加工が始まる。

金型作製期間の日程イメージ
図3 金型作製期間の日程イメージ[クリックで拡大]

 加工開始から約1.5カ月後にファースト(1st)トライがある。1stトライで、設計者は初めて金型で作製した部品を見る。実は、1stトライの前に金型は既に完成しているのだが、金型の内部に樹脂が回り切らないショートがあるなど、まだ部品形状が成り立っていない場合があるので、成形メーカーと金型メーカーはそれらを修正する。つまり、設計者が部品を確認できる段階になった時点の試し成形が1stトライとなる。

 加工開始から1stトライまで、設計者は金型ができるのを待つのだが、その期間にも設計者は以前の試作セットで検討を行っているため、設計の問題点は発生する。しかし、それによる金型の変更依頼をすると、1stトライの日程の遅れにつながりかねないので、変更依頼は極力避けたい。ただし、日程に影響を与えない変更内容もあるので、まずは成形メーカーと金型メーカーに相談してみるとよい。

 設計者は、1stトライの部品の寸法や他の部品との嵌合を確認し、試作セットが正しく組み立つレベルになるまで金型の変更依頼をする。それらの内容は、主に次の3点だ。

  • 金型加工開始〜1stトライまでに発生した設計問題点
  • 試作セットが組み立てられないレベルの部品不良(大きい反りなど)
  • 金型加工のミス

 1stトライから1〜2週間かけてこれらを修正し、セカンド(2nd)トライとなる。2ndトライの部品で試作セットを作製して検証を行うが、この検証の結果、2ndトライの部品に大きな変更が必要になれば、その設計修正と金型の変更依頼をしてサード(3rd)トライを行う。そして、2回目の試作セットの作製と検証を行うのだ。

 金型で作製した部品に設計的な問題点が全くなくなっても、体裁部品は体裁の仕上げが必要だ。連載第8回で紹介した、ヒケやパーティングラインに生じるバリの修正などである。成形条件や金型の合わせの微調整などでこれらを修正し、全ての修正が完了すれば承認部品を作製する。承認部品とは、今後継続的に成形メーカーでこれと全く同じ部品を生産するという、設計者と成形メーカーとの間で合意した部品のことである。生産が継続している間は、設計者と成形メーカーが保管する。

 以上の日程を加算すると、金型発注から生産開始まではおおよそ3カ月である。金型作製期間は、製品化の他の日程に及ぼす影響が大きいため、日程作成にはその配慮が必要だ。  (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール

小田淳

オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)

上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。

ロジカル・エンジニアリング Webサイトhttps://roji.global/

著書

製品化 5つの壁の越え方: 自社オリジナル製品を作るための教科書中国工場トラブル回避術 原因の9割は日本人

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