「あうんの呼吸」に頼る日本人の仕事のやり方:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(1)(1/3 ページ)
中国企業とのモノづくりにおいて、トラブルや不良品が発生する原因の7割が“日本人の仕事の仕方”にある。日本人の国民性を象徴する「あうんの呼吸」に頼ったやり方のままでは、この問題は解消できない。本連載では、筆者の実体験に基づくエピソードを交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する。
「あうんの呼吸」で仕事をするのは、“日本人の国民性”といってよい。
そこら辺は、御社に一任させていただく形でお願いします。
目立つ傷はないようにお願いします。
近日中に幾つか送っていただければありがたいです。
「一任」や「目立つ傷」「近日中、幾つか」は、いずれもとても曖昧(あいまい)な言葉である。長年の付き合いがあり、同じ国民性を持つ者同士であれば、問題なく意思疎通ができるだろう。しかし、初めて一緒に仕事をし、さらにその相手が外国人だったとしたらどうだろうか。
筆者が中国に駐在していたころ、多くの部品を現地の部品メーカーに依頼し、作製してもらった経験がある。自分が設計した部品の作製を依頼する場合もあれば、日本にいる設計者から設計データを受け取り、部品作製を依頼するケースもあった。
実は、こうした中国企業(中国人)とのやりとりの中で、前述の「あうんの呼吸」に頼ったやり方をしてしまったことにより、多くのトラブルや不良品を発生させてしまった苦い経験がある……。
コロナ禍において、リモートでのやりとりも日常のものになりつつある今、まさにこうしたトラブルに直面し、頭を抱えている読者も多いのではないだろうか。本連載では、筆者の実体験に基づくエピソードを交えながら、中国とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介していく。
トラブルや不良品が発生する原因としては、国民性の問題や言葉の問題、そして技術的な問題が関係していると考えられるが、筆者の中国駐在4年半の経験では、いずれも原因の7割は“日本人の仕事の仕方”にあると考えている。
では、具体的にどのような仕事の仕方がトラブルや不良品を発生させているのか、実際のエピソードを基に考えていきたいと思う。
雑貨商の曖昧な依頼方法が生む不良品
筆者が日本に帰国した後に、中国から水筒を日本に輸入して販売する商社を支援したときの話である。
その商社の社長は、筆者に次のように言ったのであった。「この水筒の印刷文字、ちょっと斜めに見えませんか。これだと不良品ですよね?」。この水筒はもともと無地であったが、この商社が別途オリジナルの印刷を中国のメーカーに依頼して作ったものだ。
筆者が「確かにちょっと斜めですね。でも、どのくらい斜めだと不良品になるのですか? 印刷を依頼したときに、図面や仕様書は作らなかったのですか?」と聞いたところ、その返事は次のようなものであった。「日本で文字を印刷した水筒を作って、『これと同じものを作ってください』と依頼しました」。商社の社長は、“印刷がどのくらい斜めになると不良品になるか”という基準を作っていなかったのだ。
この返答に対して、筆者が「印刷位置は必ずバラつくものです。バラつき範囲の基準がなければ、不良品とはいえないですね」と返したところ、その社長は「でも、このくらい斜めだとやっぱり不良品じゃないですか? 普通」と言うのであった……。
この商社にはエンジニアがいなかったため、そもそも“印刷位置のバラつき範囲を指定する”ということを知らなかったようだ。それにしても、水筒が返品されてしまった中国のメーカーも、基準がないのに不良品といわれてしまい、さぞ困惑したことであろう。
ヘアアクセサリーの接着剤のはみ出し
もう1つのエピソードを紹介する。それは、100円ショップで売っているような、安価で大量に生産するヘアアクセサリーのメーカーの話だ。このような製品は、そのほとんどが中国で生産されている。このメーカーは自社で企画と設計を行い、中国にその製造を依頼していた。
筆者が支援していたときに、ある製品で不良品が発生した。長さ50mm、幅10mmくらいの、人の頭の形に沿うように全体的に湾曲した板バネに、プラスチックの飾り板が接着されている製品だ。
この接着剤のはみ出し具合がポイントで、もともとその飾り板と板バネの接着面の間から接着剤がはみ出しており体裁が少々悪かったのだが、良品でも接着剤がはみ出ているものが多くあった。実際のところ、飾り板の周囲にほぼ均一に接着剤がはみ出していれば良品として扱っているようで、不均一であると不良品になるとのことだ。
よくよく話を聞いてみると、前述の商社のエピソードと似ており、ヘアアクセサリーのメーカーはメールで写真を送って、「これと同じものを作ってください」と依頼したらしく、“接着剤のはみ出し量の基準”は作っていなかったのだ。もしかすると、生産前の段階では接着剤がはみ出してしまうことを想定しておらず、生産後しばらくしてからはみ出している製品が多かったため、“ほぼ均一なら良品”としていたのかもしれない。
ヘアアクセサリーのメーカーとしては、接着剤が不均一にはみ出した見た目の悪い製品を不良品として扱いたいという考えを持っており、中国のメーカーに対しても「そのくらい分かってほしい!」と思っていたのだ。
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