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「あうんの呼吸」に頼る日本人の仕事のやり方リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(1)(2/3 ページ)

中国企業とのモノづくりにおいて、トラブルや不良品が発生する原因の7割が“日本人の仕事の仕方”にある。日本人の国民性を象徴する「あうんの呼吸」に頼ったやり方のままでは、この問題は解消できない。本連載では、筆者の実体験に基づくエピソードを交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する。

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基準があるのなら、それを指示する

 2つのエピソードに登場してきた企業は、いずれも以前は日本で製品を作っていたそうだが、その当時、このような問題に直面することはなかったのだろう。

 仮に、印刷が斜めになっていたとしても、それは日本人の感覚では気にならない程度のわずかなもので、仕上がりとしては十分であっただろう。また、そもそも接着剤がはみ出すようなこともなかったか、万一はみ出していても均一にキレイにはみ出していたのだと思う。

 これらの企業は、中国のメーカーも日本と同じ技術力を持ち、なおかつ「斜め具合」や「はみ出し量」に関しても“同じ感覚”を備えているはずだと思い込み、日本での仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまったのだ。その結果が、先のようなトラブルを招いたといえる。

印刷位置のバラつき範囲の表記方法の一例
図3 印刷位置のバラつき範囲の表記方法の一例[クリックで拡大]

 水筒であれば“印刷の斜め具合の基準”を作成し、それを図面で指示する必要があった。ヘアアクセサリーであれば“接着剤のはみ出しは禁止”と指示するべきであり、仮に接着剤のはみ出しを許容しなければ生産ができないのであれば、それが分かった時点で“許容するはみ出し量の基準”を作り、指示しなければならなかった。

 いずれの企業も「不良品」と判断したからには、製品を受け入れる担当者の頭の中には“何らかの基準”があったはずだ。しかし、それを図面に表記して伝えるということを怠り、「普通は分かるだろう」という「あうんの呼吸」に頼っていたのだ。

 中国で頻発するトラブルや不良品の原因のほとんどは、この延長上にあるといってよい。私たち日本人の「普通は分かるだろう」という気持ち、それを「あうんの呼吸」に頼る仕事の仕方が、トラブルや不良品を発生させているのだ。

曖昧な見積依頼

 3つ目のエピソードとして、製品ではなく事務的なやりとりで発生したトラブルを紹介する。

 筆者が日本に帰国した後、日本のあるメーカーから中国の板金メーカーへ部品の見積もりをしてほしいという依頼があった。図4がそのメールの内容である。このメールを受け取る前には、部品18点分の図面データが送られてきていた。

曖昧な見積依頼のメール
図4 曖昧な見積依頼のメール[クリックで拡大]

 このメールを見て、まず簡単に分かる内容の不備は“何のコストの見積もりを取りたいのかが分からない”ということだ。部品単価なのか、金型費なのか、もしくは両方なのかが分からないのである。次に、発注ロットが50〜400個とあるが、一体幾つのロットで見積もりがほしいのかも分からない。

 筆者は日本人なので、大体の察しは付く。筆者だったら、部品単価と金型費の両方の見積書を作成し、ロットに関しては50個と400個の大体の中間を追加して、50個、200個、400個で見積書を作成するだろう。そして、恐らく見積書を作成する前に電話をして、「部品単価と金型費の両方でよいですか? ロットは50、200、400個の3通りでよいですか?」と確認を取るであろう。二度手間は避けたいからだ。

 しかし、中国人に直接このような見積依頼のメールを送ったらどうなるだろうか。筆者の経験から、以下のような結果が容易に想像できる。

  • 部品単価だけの見積もりがくる
  • ロット400個だけの見積もりがくる
  • 全部品の見積もりはこない(大体14点くらい)

 これを受け取った日本人の担当者は、再度メールを送って追加で見積依頼を出すことになるが、納得したものがそろうまでに、5〜6回のメールのやりとりが発生するだろう……。そのとき日本人の担当者は、「普通は、50個と400個の間を取った3通りくらいで見積もってくれるよね」と言うのであった。

依頼内容は明確に伝える

 筆者が、このメーカーに確認したところ、18部品全ての部品単価の見積もりが必要で、金型費の見積もりについてはある部品だけでよかったらしい。金型を作らないと決めている部品があったのだ。そして、ロットは50個、400個の間に、200個くらいの値を追加してほしかったようだ。

 そうであるならば、それをメールに書くべきなのだ。そんなことをいちいち書かなくても「普通は分かるだろう」という「あうんの呼吸」を、このメーカーは期待していたのだ。

 日本であれば「あうんの呼吸」もあるし、また簡単に電話で問い合わせができる。しかし、中国人の担当者はいちいち通訳を介さないと問い合わせができないため、メールの内容で理解できない部分があると、無視せざるを得ないか、自分なりの判断をするしかないのだ。

 このエピソードは、お互いにメールのやりとりが増えて時間のムダになったというくらいのことで、大きなトラブルになるものではないが、このような「あうんの呼吸」に頼ったやりとりが、後々大きなトラブルにつながることはよくある話だ。“依頼内容は具体的に、漏れなく、明確に伝える”必要があるのだ。

 海外で実際に見積もりを取る場合には、通貨単位や税金の有無、生産時期の提示など、他にも注意する点は多くあるため、日本で見積もりを取るときのようにはいかない。

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