絶対に押さえておきたい製品化におけるコスト見積もりの基礎知識:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(7)(1/3 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第7回は、部品コストがどのような要素で成り立っているのか、適切な見積もり依頼の方法と見積コストの確認の仕方を取り上げる。
前職で新開発プリンタの設計に携わり、製品の部品コストの合計を計算していたときの話である。仲間の設計者に、担当している部品の見積コストを聞いたところ、「5000円」との返事が返ってきた。
そのプリンタは高価なプリンタではあったが、1つの部品で5000円は高過ぎる。この製品の販売予定台数は少なく、金型は作製しない予定でいたため、そのアルミ製の部品は切削加工で作る以外に方法はなかった。
設計担当者に、コストダウンのために板金の曲げ加工に置き換えられないかを聞いたところ、「既にこのアルミの切削部品で試験を済ませ、問題のないことを確認している。今さら変更はできない」との回答であった。
この設計者は以前に治具を設計していたため、アルミの切削で部品を設計することは一般的であったようだ。量産する製品であれば部品コストには制限があり、設計の成り行きで高額になってしまうことは避けなければならない。だが、日程的に設計変更が難しい時期であったため、仕方なく5000円の部品を量産で導入することにした。
実はこのような話は、退職後に筆者が支援したベンチャー企業でも多くあった。設計スタート前に目標コストを設定し、それを製品化プロセス上で管理するという考えを持っている企業は少なく、最終の試作時の部品仕様で見積もりをし、それで製品コストを算出する。そして、それが予想以上に高額になっていることにその時点で初めて気が付き、製品化を断念するか、新たに設計し直すことになってしまうのだ。
治具や展示品のような“1個生産”の製品を設計するのに対し、家電や雑貨のような“大量生産”の製品を設計するには、“コスト管理“の知識が必要だ。設計構想の段階で全部品の目標コストを設定し、製品化プロセスの各イベントで部品の見積もりを行う。そして、その見積コストが目標コストから大きく外れることがないように、コスト調整して管理していくのである。
部品コストは設計次第でいかようにもなり、また部品コストは設計者しか管理できない。その管理を怠ると、目標コストを大幅に逸脱することになりかねない。
今回は、部品コストがどのような要素で成り立っているのか、適切な見積もり依頼の方法と見積コストの確認の仕方についてお伝えする。これらを理解することによって、設計している部品が目標コストから外れてしまった場合の対処の方法も知ることができる。
見積もり依頼の前提条件
見積もり依頼の準備で一番大切なものは、3Dデータと2Dデータである。基本的に3Dデータは部品の形状しか表していない。公差や材質、表面処理(塗装/印刷/シボなど)、加工方法(金型成形/切削など)、部品の接合方法(溶接/リベットなど)、品質基準(傷レベルなど)、納品形態(ラベルなど)といった要素は2Dデータに記載されており、それらは部品コストを大きく左右する。
見積もり依頼をするタイミングでは、部品仕様がまだ完全に決まっていないことが多い。例えば、最終の印刷仕様がまだ決まっておらず、印刷仕様を2Dデータに記載せずに見積もり依頼をしてしまった場合、それが目標コストに入っていたからと安心したり、相見積もりで部品メーカーを選定したりしてはいけない。その後に、印刷仕様を追加して再度見積もり依頼をすると、大幅にコストアップしていることがあるからだ。印刷仕様の詳細が決まっていなくても、想定される印刷の大きさや印刷色数などを仮に決めて、2Dデータに記載すべきなのである。
数点の部品をまとめて「一式」の形にして見積もり依頼するのは、後々トラブルになる場合があるのでやめておきたい。設計過程や量産後に、部品点数の削減やその中のある部品の仕様を変更してコストダウンしたとしても、単品の部品コストを把握しておかないと、いくらのコストダウンになるかが分からず、部品メーカーの言い値となってしまう。
見積明細書を出してもらうことも大切だ。材料費や加工費、管理費、不良費、利益率などを記載した明細書だ。これを入手しておかないと、例えば塗装をやめてコストダウンしようとしても、塗料代と塗装費を把握しておかなければ、いくらのコストダウンになるか分からず、これも部品メーカーの言い値となりかねない。
これら2つの内容は、部品メーカーとの信頼関係の問題に発展する可能性もあるので注意したい。日本であれば、見積コストに疑問を感じても話し合いで解決できる場合が多いが、海外の部品メーカーに見積もり依頼した場合はそうはいかない。たとえ通訳がいたとしても、通訳はただの伝言者となってしまう場合が多く、交渉にはならない。海外で見積もり依頼をするときには、ぜひとも気を付けておきたい。
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