通訳がいれば安心!? 実はあまり通じていない中国人通訳への日本語:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(3)(1/3 ページ)
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第3回では、日本語ができる中国人通訳を介した中国人とのやりとりに関する注意点や適切な対応方法について、具体的なエピソードを基に詳しく解説する。
筆者が中国に駐在していたときのエピソードである。大きさ約30cmの枠状のプラスチック部品の金型が完成し、その金型で製作した最初の部品が筆者の手元に届いた。その部品を確認したところ、わずかではあるが全体的に反っていたため、その修正が必要であった。筆者はすぐさま、この部品の成形メーカーの営業兼日本語通訳である黄さんに電話をして、反りの件を伝えた。そのときの会話は以下のようなものであった(図1)。
会話がこれ以上進まないことをお互いに理解したため、車で20分ほどの距離にある筆者のいる会社に黄さんが来て、現物を見ながら話すことになった。筆者が反っているサンプルを黄さんと一緒に見ながら話をしたところ、用件はすぐに伝わり修正をしてもらう流れとなった。
黄さんは若い頃、日本に10年弱住んでいたことがあり、日本語レベルは高い方であった。しかしながら、彼は「反り」という言葉を知らなかったのだ。筆者にとって、その単語は仕事でもよく使う言葉であり、漢字も難しいものではないため、当然、黄さんも知っていると思っていたのだ。
4年半の中国駐在が終わった後、日本語の上手な中国人のどのくらいの人数が「反り」の意味を知っているか確認してみようと考えた。筆者の友人で日本語レベルの比較的高い5人にWeChatメールで聞いてみたところ、何と全員が「反り」の意味を知らなかったのだ。この5人は全員筆者の仕事の友人であり、モノづくりに関わっている人たちであるため、知っていてもおかしくはない。これは筆者にとって非常に驚きであった。このとき感じたのは、“会社ではこのような分からない言葉があっても、会議は進んでいく”ということだ。
前職を退社した後に、筆者はヘアアクセサリー製造のメーカーを支援していた。そのメーカーは中国企業と取引をしており、日本在住5年になる日本語通訳が社員として在籍していた。ある日、筆者が黄さんの話をしたところ、この日本語通訳も「私も『反り』の意味を知らないです」と言い出したのであった。周りにいた社員全員が驚いた顔をしていたのをよく覚えている。
日本語通訳は通訳のプロではない、日本語が上手なだけ
筆者が中国に駐在していたとき、日本語の上手な中国人の日本語レベルを確認するために、ちょっとした遊び心で次の3つの言葉の意味を質問していた。それらは、「しょっちゅう」と「輪ゴム(わごむ)」「厄介(やっかい)」である。どれも簡単な日本語ばかりであるが、これら3つを全て知っていた中国人は100人中3人くらいであった。
ここで私たち日本人が知っておくべきことは、ビジネス上で接する日本語通訳は決してプロの通訳ではないという点だ。日本語を勉強してきた人で、日本語が上手なだけである。筆者の知る範囲では、大学の日本語学科で4年間日本語を勉強し、その後は日系企業やローカル企業で日本語通訳を4〜5年していた人だ。中には日本に2年くらい留学していた人もいる。それでも、プロの通訳とはレベルが違うのだ。英語の上手な日本人を思い浮かべれば、想像できると思う。
これら3つの言葉がなぜ中国人にとって難しいのか。その理由は次の通りである。「しょっちゅう」は口語であり学校では習わない。「輪ゴム」は「輪」の漢字が中国語で“輪ゴム”を意味する「橡皮筋」には含まれていないため覚えにくい。そして、「厄介」は過去に日本語検定1級(最上級)に出題された難易度の高い言葉であるからだ。
これらの言葉以外にも、図3のようなものがある。ぜひ参考にしてほしい。前述した「反り」を中国人が知らなかった理由は、中国では「反」の漢字は“反対”の「反」の意味しかなく、形状的な意味は含まれず、覚えにくい言葉であったからだ。
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