日本触媒と理研がPESを用いた新規海洋生分解性プラスチックの開発に成功:材料技術
日本触媒は、理化学研究所とともに新規海洋生分解性プラスチックの開発に成功したと発表した。
日本触媒は2024年1月18日、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター バイオプラスチック研究チームとともに、2021年度から参画している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」で、新規海洋生分解性プラスチックの開発に成功したと発表した。
なお、理研のバイオプラスチック研究チームはチームリーダーの阿部英喜氏や上級研究員の竹中康将氏などから構成される。
天然アミノ酸ユニットを組み込んだ新規化学構造の海洋生分解性ポリマーも
両者は、ポリエチレンサクシネート(PES)を基本骨格とするポリマーに焦点を当て、新規海洋生分解性プラスチックの構造設計および開発を進めてきた。PESは、高いガスバリア性をもち、土壌や河川で生分解されることが特徴だ。
日本触媒は、過去にPESのパイロット生産を実施するなど製造ノウハウを有しているが、これらの取り組みではPESが海洋で分解されにくいことが課題となっていた。解決策として、海洋生分解性プラスチックに関する豊富な知見を持つ理研と連携し、PESの特徴を有する海洋生分解性プラスチックの開発を進めた。
開発を推進していく中で、ポリエチレンサクシネート(PES)骨格に長鎖ジカルボン酸※1ユニットを導入したポリマーが、海洋で容易に生分解されるセルロースと同等の海洋生分解性を発現することを発見した。このポリマーから成る新規海洋生分解性プラスチックは、高いガスバリア性などPES本来の特徴を有するとともに、ポリマー中に導入するユニットの組み合わせによって幅広い機械特性を実現する。
※1 長鎖ジカルボン酸:素鎖が長いジカルボン酸化合物。今回の場合、炭素数10のセバシン酸、炭素数12のドデカン二酸などを指す。
これらの特性から、包装材料や農業関連資材、土木建築資材などさまざまな用途展開が期待される。今後、スケールアップの検討によって量産体制の確立を進めるとともに、その用途開発を加速する。
また、PESを基本骨格とするポリマーに天然アミノ酸ユニットを組み込んだ新規化学構造を有する海洋生分解性エステルアミドポリマーについても今回の事業内で開発しており、こちらも高機能な海洋生分解性プラスチックとして展開することを検討している。
新規海洋生分解性プラスチックの開発背景
プラスチックは、軽量かつ丈夫で加工性に優れるため、日常生活に利便性などをもたらす素材として幅広く活用されているが、化学的安定性の高さから自然環境下では分解しにくく、海洋に流出したプラスチックによる海洋汚染が深刻化している。
一方、現在生分解性プラスチックは、一般的でない上、陸域の土壌あるいは堆肥を作るコンポストでの分解を前提としたものが主流で、海洋生分解性のあるプラスチックはごくわずかだ。
そこで、今回の事業では、海洋で生分解されるプラスチックを開発し社会実装することで、将来的に新たな海洋プラスチックごみ発生ゼロの一助となることを目指し世界に先駆け研究開発を行っている。
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