出光は2001年から、トヨタは2006年から「全固体電池」を研究してきた:自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)
日頃、新聞やテレビ、インターネットなどを見ていて、「ニュースになるということは新しいものだ、今始まったことだ」と思ったことはありませんか? 放送時間や紙面の文字数に限りがある場合、これまでの経緯が省略されるため、新しくて今まさに始まったかのように見えてしまいます。その例の1つが電池の話題かもしれません。
柔らかい粉が全固体電池を支える
料理をする方、お化粧する方であれば、モノによって粉質が全く違うことをご存じかと思います。片栗粉と小麦粉、あるいは塩と砂糖はかなり違った質感の粉ですよね。化粧に使うパウダー類もブランドが違えば仕上がりが別物です。出光興産とトヨタ自動車の協業の対象となる全固体電池の固体電解質も粉末です。耐水性やイオン電導性、柔らかさを持った微粒子の粉なのだそうです。
トヨタ自動車は、全固体電池の課題として耐久性を挙げています。長く使うと固体電解質と正負極の間に隙間や亀裂が生まれてしまい、イオンが行き来しにくくなるため性能が低下します。柔らかく密着性が高い粉末が全固体電池の使用過程で生まれる形状変化を受け止められれば、耐久性の低さの原因が解決できると見込んでいます。
隙間や亀裂の原因は、固体電解質と正負極の界面が剥離したり、電池が膨張/収縮したりすることです。1つ1つに対応する必要がありますが、“柔らかい粉”は電池の変形を抑制する手法を変える可能性を持っているとトヨタ自動車は期待しています。
固体電解質には出光興産とトヨタ自動車の協業で扱う硫化物系以外にも選択肢がありますが、トヨタ自動車は今回、最終製品から逆算した最適な性能や、市場投入や普及のしやすさを踏まえて、出光興産とこれまで共同研究してきた硫化物系を最優先に検討することを決めました。硫化物系は、柔軟性とEVに必要な高容量化に優れているためです。
出光興産は微粒子の素材の取り扱いや高純度化の技術を磨いてきましたが、全固体電池を実用化するにはトヨタ自動車にとって電池を作りやすい材料であることが重要です。また、全固体電池が電池として性能を発揮できる材料でなければなりません。そのため、固体電解質の成分や組成だけでなく、均一に並べられる微粒子であること、密着性が高く形状変化に追従できる柔らかさであることがカギを握ります。
硫化物固体電解質の候補となる成分の基本特許はトヨタ自動車が持っており、それを製造するノウハウや技術、選択的な特許を出光興産が持っています。単に新材料を開発してもらって仕入れるのではなく、違う業種の両社が協力することによって全固体電池の実用化をより確実なものにしようという狙いです。
次世代EVのさらに上を行く性能を実現
出光興産とトヨタ自動車の協業では、まず2027〜2028年に硫化物固体電解質の量産実証(パイロット)装置を立ち上げます。この硫化物固体電解質を使ってトヨタ自動車が全固体電池を生産し、EVに搭載します。全固体電池の生産設備は、工法の開発などを進めやすいトヨタ自動車の本社地区に設けます。
トヨタ自動車は2026年には新開発の高性能型液系リチウムイオン電池を搭載したEV(1回の充電で1000km走行)を導入しますが、全固体電池を搭載したEVはそれよりさらに走行距離を20%向上させ、10%から80%までの急速充電にかかる時間は10分以下を目指します。
これに向けて、出光興産は出資しているオーストラリアのリチウム鉱山を通じてリチウムを入手し、水酸化リチウムを調達します(水酸化リチウムの自社製造については検討中)。オーストラリアでは石炭鉱山を長年経営しており、その採掘技術をリチウムやバナジウムの採掘に生かします。
製油所から得られる硫黄を水酸化リチウムに組み合わせることで、硫化物固体電解質の中間原料となる硫化リチウムが製造されます(硫化リチウムは自社製造)。ここからさらに複数の成分を加えることで、硫化物固体電解質が完成します。
2030年以降の固体電解質の本格的な量産は、出光興産の研究所がある千葉の同社事業所が有力候補となっています。2027年ごろに稼働する量産実証装置は年産数百トンクラスですが、本格的な量産は1ライン数千トンクラスで、EV数万台分に相当します。実用化した後も、化学プラントとしてのスケールアップや、よりシンプルな製造方法の検討などチャレンジは続きます。
今週はこんな記事を公開しました
- 船も「CASE」
- 電動化
- ジャパンモビリティショー2023
- 安全システム
- 組み込み開発ニュース
- サステナブル設計
- 電子ブックレット
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