「次世代電池」はこれまでと何が変わるのか、何がスゴイのか:今こそ知りたい電池のあれこれ(21)(1/3 ページ)
今回は「次世代電池」や「革新電池」について、背景技術の理解に関わる要点を整理し、解説していきたいと思います。
突然ですが「佐吉電池」という電池をご存じでしょうか。佐吉電池とは、トヨタグループ創始者である豊田佐吉が発案した電池を指す言葉です。
大正13年(1924年)、初の世界1周飛行を試みた米国陸軍航空隊の飛行機に感銘を受けた豊田佐吉は日本人の手でそれをしのぐ動力の開発をすべきであると考え、「飛行機に載せて太平洋を横断できる性能の蓄電池」を発案し、当時100万円の賞金をかけて公募しました。つまり、佐吉電池とは実際に存在する高性能電池ではなく、豊田佐吉が開発目標として掲げた性能を満たすことができるような電池のことを指すビジョンや概念のようなものです。
当時、豊田佐吉が設定した性能目標値は以下の通りでした。
100馬力で36時間運転を持続することができ、かつ重量60貫、容積10立法尺をこえないもので、工業的に実施できるもの。
馬力を現在一般的に用いられるエネルギーの単位に換算するには幾つかやり方がありますが、佐吉電池が発案された当時に日本で用いられていた値は「1馬力=750W」とされているので「100馬力=75kW」、この動力を36時間連続で運転可能なので「75×36=2700kWh」と換算することができます。
「重量60貫=225kg」「容積10立法尺=0.28m3」なので、先ほど算出した電池容量と併せて考えると、重量エネルギー密度は「2700/225=12kWh/kg」、体積エネルギー密度は「2700/0.28=9642.9kWh/m3=9.6kWh/l」となります。
現在一般的に用いられているリチウムイオン電池の重量エネルギー密度が約0.2kWh/kg、体積エネルギー密度が約0.5kWh/l程度ですので、比較すると佐吉電池の開発目標値はとても高い要求水準であることが分かります。
ちなみにガソリンの重量エネルギー密度も約12kWh/kg程度であるといわれていますので、この佐吉電池の目標値というのは、液体燃料を用いた内燃機関動力を電動化によって完全に置き換えるために必要な電池の目標スペックであるという見方もできます。
さすがに先ほどご紹介した佐吉電池とまではいきませんが、電池というものは日々着実に開発や改良が進められています。昨今の報道をみても、いわゆる「次世代電池」や「革新電池」と呼ばれるものが取り上げられることが増えているように感じます。
全固体電池、ナトリウムイオン電池、フッ化物電池、亜鉛空気電池、ナノ界面制御電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池などなど……報道の見出しに踊る名称は実にさまざまです。
しかし、それだけ多種多様であるがゆえに、その詳細を個別かつ事細かに追うのが難しい面があることは否めません。
「次世代」や「革新的」だという言葉からは、それが従来の電池よりも進歩した新しい技術であるという印象は伝わってくるものの、そもそもどういう仕組みで、何がどう優れているのか。実現に向けた取り組みの中で何が課題となっており、技術的に何が難しいのか。そういった点が読み取りにくいと感じる方も少なくないのではないでしょうか。
今回はこれら「次世代電池」や「革新電池」について、背景技術の理解に関わる要点を整理し、解説していきたいと思います。
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