「次世代電池」はこれまでと何が変わるのか、何がスゴイのか:今こそ知りたい電池のあれこれ(21)(3/3 ページ)
今回は「次世代電池」や「革新電池」について、背景技術の理解に関わる要点を整理し、解説していきたいと思います。
発生界面
従来、電池の充放電に伴う化学反応は電池容量を担う電極と電荷担体(キャリア)を媒介する電解液の間、つまり「固体」と「液体」の接触界面で進行するものでした。しかし、次世代電池や革新電池と呼ばれる電池系においては、反応が発生する接触界面自体が変わるものも含まれます。
反応発生界面の変化を示す代表的な事例が、電池の話題ではもはやおなじみともいえる「全固体電池」です。種々の電池特性が注目されがちな全固体電池ですが、電解液(液体状の電解質)ではなく固体電解質を用いることで、主たる電池反応の発生箇所が「固体/固体界面」になるというのが、従来の電池系と比較すると最も大きく異なる点といえるかと思います。
また、次世代電池の1つとして、容量を担う正極材料に空気中の酸素を用いる「空気電池」もしばしば挙げられます。空気中の酸素を正極材料として用いることで電池容器内に充填する必要が無くなるため、電池容器内の大部分の空間に負極側の材料を充填することができ、電池容量を大きくすることができるという特徴があります。
反応発生界面の観点から考えると、「固体/液体」「固体/気体」「液体/気体」といった複数の接触界面が共存し、寄与している状態でもあります。原理的には化学電池の中で最も大きなエネルギー密度にすることができる空気電池ですが、より多くの反応界面の制御が必要であることが、実用化に向けた技術的難易度を上げる一因にもなっています。
今回は、一般的に「次世代電池」や「革新電池」と呼ばれる電池について、その背景技術の理解に関わる要点を整理してみました。従来のリチウムイオン電池と比較したとき、最も変化している点は充放電に伴う化学反応自体の「反応機構」と「発生界面」であり、それぞれの変化には特性向上をもたらすメリットと実用化に向けて克服すべきデメリットが両立しています。
新しい電池技術がどれだけ革新的な性能向上に寄与するものであるのか。また、どれだけ実用化に向けた難易度が高いのかといった点は、今回ご紹介した「反応機構」と「発生界面」の変化点に着目してみると、また違った理解が得られるかもしれません。読者の皆さまの情報整理や理解の一助となり、何かのお役にたてれば幸いです。
日本カーリットの受託試験部では、今後も多種多様な電池やデバイスの性能評価を通し、電池技術の発展に貢献できるよう努めて参ります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
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