次世代電池開発に役立つCNTシート、リチウム空気電池でもブレークスルー:nano tech 2023
日本ゼオンは、「nano tech 2023」において、単層カーボンナノチューブを用いて作製したシート材料(CNTシート)の次世代電池開発への適用例を紹介した。
日本ゼオンは、「nano tech 2023」(2023年2月1〜3日、東京ビッグサイト)において、単層カーボンナノチューブを用いて作製したシート(以下、CNTシート)の次世代電池開発への適用例を紹介した。
同社は産業技術総合研究所が開発したスーパーグロース法による単層カーボンナノチューブの量産を行っている。さらに、この単層カーボンナノチューブをシート状に成形したCNTシートを開発し、2021年ごろからサンプル提供を始めた。今回の展示では、次世代電池であるリチウム空気電池とリチウム硫黄電池に適用した研究開発成果の他、リチウムイオン電池の高容量化につながるリチウム負極への応用についても紹介した。
NIMS(物質・材料研究機構)とソフトバンクが研究開発を進めているリチウム空気電池向けでは、新開発のCNT電極シートを用いることにより、ドライエア環境で8mA/cm2以上の高い放電容量を実現した。リチウム空気電池は、正極活物質となる酸素の濃度が高い空気を使わなければ高い放電容量を確保できないという課題があった。しかし、新開発のCNT電極シートは、酸素輸送パスである20n〜100nmのスケールの空隙を多く有しているため、大気と同じ酸素濃度20%のドライエア環境でも高い放電容量が可能になった。
早稲田大学が研究開発を進めリチウム硫黄電池では、CNTシートに多硫化リチウム溶液とリチウム塩溶液をしみこませてから溶媒を乾燥除去することで、高容量の正極のシート電極を簡単に作成できるという成果が得られている。従来のリチウム硫黄電池の正極材料では、硫黄を中核とした合材電極を集電体上に形成していたが、硫黄が電解液に溶け出し容量が低下することが課題だった。今回のシート電極は、そういったリチウム硫黄電池の課題解決につながるものだ。
産業技術総合研究所が研究開発を進めているリチウム負極は、エネルギー密度が高いものの充放電時に成長するデンドライトによるリチウムイオンの失活やショートなどリチウムイオン電池の耐久性や安全性の確保が難しいという課題がある。そこで、高比表面積と高空孔率を有する低密度のCNTシートを開発し、セパレーターとリチウム金属電極の間に挟み込むことでデンドライトの成長を抑制することに成功した。電流密度で10mA/cm2、循環容量で10mAh/cm2、耐久時間で1000 時間以上を達成したという。
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