ソフトバンクは2021年11月2日、次世代電池の実用化に向けた進捗を発表した。
同社は成層圏通信プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」(※)や、物流用ドローン、“空飛ぶタクシー”など新しい分野のデバイスに向けた次世代電池の材料の検討を進めている。電池の性能向上では質量エネルギー密度(Wh/kg)と長寿命化がトレードオフの関係にあり、両立には長い開発期間を要する。ソフトバンクでは長寿命化を待たずに新分野のデバイスを市場展開するため、質量エネルギー密度の向上を優先している。
(※)高度20kmほどの空域に、通信基地局の設備を搭載した無人航空機を飛ばす。無人航空機はソーラーパネルで発電し、プロペラや基地局の電力を確保する。
今回、質量エネルギー密度500Wh/kg超の達成に向けた試作セルや、1000Wh/kgの実現に貢献する材料の検討状況について明らかにした。
リチウム金属電池は2022年に製品化か
ソフトバンクでは、質量エネルギー密度1000Wh/kgの実現に向けた幾つかのステップを定めている。まずは、負極をリチウム金属とすることで質量エネルギー密度550Wh/kgを達成する。その次の第2段階として、有機系の正極材や、固体電解質といった新材料を採用する。全固体電池やバイポーラ構造は第2段階での取り組みとなる。
従来より電池の開発を進めている企業に新たな材料の活用を提案して、性能アップの共同研究を進めている。試作や将来の量産もセルメーカーと協力する。
現在、リチウム金属電池ではセルでEnpower Greentechと、モジュールでSion Powerと連携している。リチウムイオン電池ではAmprius、有機電池ではORLIB、リチウム硫黄電池ではENAX、全樹脂電池でAPBと共同研究している。
今回発表した成果の1つは、2020年4月から行っている米国Enpower Greentechとの共同研究の進捗だ。両社は2021年3月に質量エネルギー密度450Wh/kg級のリチウム金属電池の実証に成功したと発表。このほど、質量エネルギー密度520Wh/kgに高めた試作セルでサイクル寿命100サイクル以上を達成した。Enpower Greentechは2022年に市場投入を目指している。
リチウム金属の界面制御技術と電解液技術によって、非活物質の使用比率を低減しながら充放電安定性を維持したとしている。試作したセルの性能実証では、環境試験器を手掛けるエスペックのバッテリー安全認証センター内(栃木県宇都宮市)に設けたソフトバンクの評価施設「次世代電池ラボ」を活用した。
また、軽量集電体として樹脂箔の開発も進めている。既存の負極用集電体と置き換えるだけで50Wh/kgの改善が見込まれるという。
全固体電池向け正極材で高容量化にめど
質量エネルギー密度1000Wh/kgの実現に向けた第2段階に関わる取り組みとしては、住友化学や東京工業大学と共同研究している全固体電池向け正極材料がある。液体の電解質に匹敵するイオン電導度を持つLi10GePS12系固体電解質と、リチウム過剰系正極活物質を採用することにより、高い安定性と高容量化を両立できる見込みが立った。
このセルを試作し、容量試験を実施した。3者で開発している正極活物質は250mAh/gを超える高容量だ。既存の高容量タイプの正極材料であるニッケル酸リチウム(NCA)や三元系正極材料(NCM)などの容量が約220mAh/gなので、大きく上回っているとしている。
マテリアルズインフォマティクス(MI)による有機系正極材の性能予測も進めている。慶応義塾大学との共同研究だ。有機化合物の総数は膨大で、その中から電池に使用可能な化合物を絞り込み、その全てで性能を検証するのは困難だ。共同研究では、マテリアルズインフォマティクスと化学的考察によって重要度の高い記述子を絞り込み、少ない文献データから優れた外挿精度を持つ性能予測モデルを構築した。電位や容量、エネルギー密度を予測するモデルにより、質量エネルギー密度1000Wh/kgを超える可能性のある正極材の候補となる化合物を複数発見したとしている。
成層圏を再現したバッテリー評価も
電池の質量エネルギー密度向上だけでなく、安全性も検討するため、ソフトバンクはエスペックと協力しており、エスペックはソフトバンクにバッテリー充放電用の恒温槽を提供している。また、エスペックはバッテリー安全認証センター(栃木県宇都宮市)に車載用バッテリーの認証に対応した試験設備を備える。今後は大型の評価設備や、HAPS向けに成層圏の環境を再現する設備なども増強していきたい考えだ。
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