ソフトバンクの次世代電池が、寿命より質量エネルギー密度を優先する理由:材料技術(1/2 ページ)
ソフトバンクは2021年3月15日、次世代電池の評価や検証を行う施設「次世代電池ラボ」を同年6月に開設すると発表した。環境試験器を手掛けるエスペックのバッテリー安全認証センター内(栃木県宇都宮市)に設ける。
ソフトバンクは2021年3月15日、次世代電池の評価や検証を行う施設「次世代電池ラボ」を同年6月に開設すると発表した。環境試験器を手掛けるエスペックのバッテリー安全認証センター内(栃木県宇都宮市)に設ける。
ソフトバンクは次世代電池の開発に向けて、物質・材料研究機構や産業技術総合研究所(産総研)、電池の材料メーカーやセルメーカー、大学などと連携してきた。ただ、これまでは評価や検証で第三者機関を頼っており、時間やコストに制約があった。次世代電池ラボの開設により、開発をスピードアップさせる。
同社がこだわるのは、電池の質量エネルギー密度(Wh/kg)を向上させる高密度化だ。一般的な電池開発では何度も充電できる長寿命化を優先しながら質量エネルギー密度を高めていく傾向にある。「高密度化と長寿命化はトレードオフの関係にあり、両方を追求すると実現まで時間がかかる。われわれは長寿命を実現してから質量エネルギー密度を高めるのではなく、高密度化を実現してから長寿命化に取り組む」とソフトバンク 先端技術開発本部 先端技術研究室 室長の西山浩司氏は語る。
すでに、質量エネルギー密度450Wh/kgの電池を試作し、コイン型リチウム対称セル(ラボ測定用電池)で連続500時間経過しても過電圧を低く維持できることを確認した。この電池は、負極にリチウム金属を用いた。
リチウム金属負極は、充放電でデンドライト(樹枝状結晶)が発生して短期間で電池容量が減少するという課題があったが、共同研究のパートナーであるEnpower Greentechとともに対策した。リチウム金属表面に無機物で極薄(10nm以下)のコーティングを施し、電解液とリチウム金属が直接接触しないようにすることで安定した固体電解質界面を形成できるようにした。携帯電話機向け電池並みのサイクル寿命も確保できる見通しだ。
西山氏は「以前、われわれが思い描く電池の高密度化についてセルメーカーや材料メーカーに相談しても『それはかなり先の将来のことですよ』と笑われたこともあったが、反応は変わってきている」と高密度化の実現に自信を見せる。
開発後の次世代電池は、内製せずセルメーカーに生産を委託する。現時点では特定の企業と生産でパートナーシップを結ばず、次世代電池の“レシピ”を広く提案していく。「ソフトバンクは電池メーカーになるつもりはない。電池の生産は利益率がとても低い。また、電池メーカーの勢力図がめまぐるしく入れ替わるので、次世代電池が完成したときの生産パートナーを今決めるのも難しい。ソフトバンクのために電池を作ってくれるのであれば、積極的に協力していく」(ソフトバンク 先端技術開発本部 先端技術研究室 担当部長の齊藤貴也氏)。
「寿命より質量エネルギー密度」はどんな製品のため?
ソフトバンクが次世代電池の研究開発の出口として想定するのは、成層圏通信プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」(※)や、物流用ドローン、“空飛ぶタクシー”など新しい分野だ。中でもHAPSは、半年の飛行を想定しており、充放電サイクルは200サイクルで対応できると見込む。電気自動車(EV)のように長寿命が重視される分野には、すぐには参入しない。
(※)高度20kmほどの空域に、通信基地局の設備を搭載した無人航空機を飛ばす。無人航空機はソーラーパネルで発電し、プロペラや基地局の電力を確保する。
物流用のドローンや空飛ぶタクシーは空を飛ぶために軽量化のニーズが強いだけでなく「1回の充電で飛行時間1時間は欲しいと言われている」(西山氏)といい、バッテリーの高密度化によってニーズを満たすことができる分野だとしている。飛行時間1時間を確保するには、ドローンの場合で質量エネルギー密度が500Wh/kg、時速120kmで移動する空飛ぶタクシーは400Wh/kgが必要だとしている。
バッテリーの高密度化が進めば、家庭用の蓄電池を小型軽量化することも可能だ。5人家族で必要になる1日の電気15kWhをまかなう蓄電池の場合、質量エネルギー密度1000Wh/kgを達成できれば30kgまで小型軽量化できるという(質量エネルギー密度250Wh/kgでは蓄電池は120kgとなる)。家庭に蓄電池の普及が進めば、電力の需要や再生可能エネルギーでの発電量に合わせたエネルギーマネジメントが実現する。
長寿命化よりも質量エネルギー密度を優先することで、現状のリチウムイオン電池よりもリサイクルが課題になるように見える。これについて齊藤氏は「リサイクルでの処理方法は材料によるところが大きく、ウォッチングしている段階だ。既存の無機物質のリサイクルは硫酸を使うなど環境負荷とコストが高い処理が必要になるが、有機材料になれば溶媒で低温で抽出し再利用するなどリサイクルのハードルが下げられるのではないかと考えている」とコメントした。
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