ソフトバンクの次世代電池が、寿命より質量エネルギー密度を優先する理由:材料技術(2/2 ページ)
ソフトバンクは2021年3月15日、次世代電池の評価や検証を行う施設「次世代電池ラボ」を同年6月に開設すると発表した。環境試験器を手掛けるエスペックのバッテリー安全認証センター内(栃木県宇都宮市)に設ける。
質量エネルギー密度1000Wh/kgを実現する6つの技術
ソフトバンクは、幾つかの段階を経て質量エネルギー密度1000Wh/kgを実現する考えだ。まずは、負極をリチウム金属とすることで質量エネルギー密度550Wh/kgを達成。その次の第2段階として、正極材や電解質も新材料を採用する。こうした新たな材料を取り入れる中で正極や負極、セパレーターの多孔度を下げて「無駄な部分を減らしていく」(齊藤氏)。
こうした取り組みの中で、ソフトバンクでは6つの技術がカギを握るとしている。1つ目がすでに成果を挙げ始めているリチウム金属負極だ。電解液への添加剤ではなく、表面処理によってデンドライトを防ぐアプローチをとる。
2つ目が集電体の軽量化だ。集電体は電池の重量のうち21%を占めており、集電体の軽量化がバッテリーそのものの重量削減にも貢献する。電池の重量の15%を占めるのが銅集電体だが、薄膜化するだけでは破断が起きる。こうした課題を受けて、銅フリーのアルミニウム合金箔や樹脂箔の開発を進めている。これにより、電池としてエネルギー密度を10%向上できるとしている。
質量エネルギー密度向上の第2段階で取り入れる正極活物質で、軽元素をメイン骨格とすることが3つ目のキーテクノロジーだ。具体的には、コバルトフリーもしくはコバルトの使用量を減らした無機材料の他、安価な有機材料やコストのかからない空気を検討している。質量エネルギー密度600Wh/kgの電池で次世代の無機正極材を、800Wh/kg以上の電池で次世代の有機正極材を採用する。なお、正極材に硫黄を使用するリチウム硫黄電池については、検討を進めているが、すでに先行している企業がいるため「動向をウォッチングして、いいものが出てくれば取り入れたい」(齊藤氏)という考えだ。
電解質は、高濃度の電解液もしくは固体電解質を採用することで、高密度化と安全性を両立する。これが4つ目の技術だ。電池の構造も変える。従来の電池はセルを重ねた積層型で、質量エネルギー密度800Wh/kgまでは積層型だが、質量エネルギー密度1000Wh/kgを達成する上ではバイポーラ構造の採用が必要になる。これが5つ目の鍵となる技術だ。軽量な集電体や有機正極材、バイポーラ構造はコスト低減に直結する技術である。
バイポーラ構造は積層型と比べてタブやリード、ケースなどの部材を減らして小型軽量化でき、生産工程を少なくしてコスト低減も図れる。また、抵抗が減少するためハイレート化もできる。ただ、バイポーラ構造は液体の電解質では短絡が起きるため、固体電解質が必須だという。セルの内部を均質にする生産技術も不可欠だ。難易度の高いバイポーラ構造を新材料で実現するというハードルもある。長期的な取り組みで解決していく考えだ。
6つ目のキーテクノロジーが、正極活物質と導電助材、バインダーなどの隙間を減らすアプローチだ。電池容量に寄与しないデッドスペースを減らすことで高容量化につなげるが、技術的なハードルが高い。まずは、固体電解質の採用によってバインダーを減らす。導電助材も、同様に使用量を減らす。また、従来はリチウムイオンの伝導度によって、電解液のために確保しなければならないスペースが決まっていたが、固体電解質で電解液の数倍から10倍の伝導度が得られれば、用途にもよるがさらにデッドスペースを減らすことができるという。バイポーラ構造と同様に長期戦で開発に取り組んでいく。
こうした技術テーマへの取り組みは高密度化を最優先しており、サイクル寿命が短くても製品として世に出す方針だ。「長寿命化は、高密度化を達成した後に数年かければ対応できるだろう。長寿命化が図れたら、EV向け電池にも参入していく」(齊藤氏)。
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