リチウム空気電池の実用化へ一歩前進、サイクル寿命増加につながる初の研究成果:研究開発の最前線
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年8月12日、リチウム空気電池の充電電圧が上昇する現象に、放電時に生成される過酸化リチウム(Li2O2)の「結晶性」が深くかかわっていることを明らかにした。リチウム空気電池の実用化における課題点の1つが解決に向かう可能性がある。
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年8月12日、リチウム空気電池の充電電圧の上昇が、放電時に生成される過酸化リチウム(Li2O2)の「結晶性」に強く依存し、過酸化リチウムの結晶性が高いほど充電電圧も高くなるという研究成果を発表した。
今回の発表は、これまで解明されてこなかった充電電圧の上昇原因を特定するもので、リチウム空気電池の充電電圧を抑えるための重要な指針となる初の成果だという。
次世代電池として位置付けられるリチウム空気電池は、既存のリチウム電池と比較して高いエネルギー密度を有することから、ドローンやIoT(モノのインターネット)デバイス、電気自動車(EV)、家庭用蓄電システムなどへの応用が期待されている。
だが、リチウム空気電池の実用化には課題もある。その1つが、充電電圧の上昇で誘発される副反応によるサイクル寿命の劣化だ。これまで、サイクル寿命の劣化を招く充電電圧の上昇原因についてはほとんど解明されておらず、リチウム空気電池を実用化する上で最大の課題となっていた。
これに対し、研究チームは放電生成物である過酸化リチウムの結晶性に着目。結晶構造の乱れが大きい(結晶性が低い)方がより低い電圧で充電(分解)できるということを初めて明らかにした。
過酸化リチウムの生成(放電反応)には、(1)カーボン電極上での反応、(2)電解液を介した反応(不均化反応)の2通りあることが知られている。
今回の研究により、カーボン電極上での反応では過酸化リチウムは3.5V以下で充電できるのに対し、不均化反応では4V以上の電圧が必要であると判明し、かつカーボン電極上での反応で生成された過酸化リチウムの方が、結晶性を低くできることが分かったという。そして、この結果から充電電圧の上昇原因は、不均化反応による高結晶性の過酸化リチウムに由来し、その生成を抑えることで充電電圧を下げることが可能であるという結論を導き出した。
NIMSは今回の研究成果を基に、低結晶性の過酸化リチウムを優先的に生成する手法を確立することで、リチウム空気電池のサイクル寿命の大幅な増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターにおけるリチウム空気電池の実用化研究の加速につなげていくとしている。
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