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電気自動車の走行距離を3倍に、ナノ多孔質グラフェン採用のリチウム空気電池電気自動車(1/2 ページ)

科学技術振興機構と東北大学 原子分子材料科学高等研究機構は、3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンを正極材料に用いたリチウム空気電池を開発し、高いエネルギー利用効率と100回以上の充放電繰り返し性能を実現した。このリチウム空気電池を使えば、電気自動車の走行距離を現在の200km程度から500〜600kmに伸ばせるという。

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 科学技術振興機構(JST)と東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は2015年9月2日、次世代の二次電池として期待されているリチウム空気電池について、3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンを正極材料に用いることにより、高いエネルギー利用効率と100回以上の充放電繰り返し性能を実現したと発表した。電気自動車に用いられているリチウムイオン電池に替えてこのリチウム空気電池を使えば、満充電からの走行距離を現在の200km程度から500〜600kmに伸ばせるという。

 リチウム空気電池は、正極で空気中の酸素、負極で金属リチウムを用いる二次電池である。正極でリチウムと酸素が反応し過酸化リチウム(Li2O2)を生成すると放電し、過酸化リチウムをリチウムと酸素に分解することで充電する。

リチウム空気電池の動作原理
リチウム空気電池の動作原理(クリックで拡大) 出典:JST、AIMR

 現行のリチウムイオン電池と比べて5〜8倍のエネルギー容量を実現できる次世代の二次電池として開発がすすめられている。ただし現時点では、充電した電力を放電して利用できる比率を示すエネルギー利用効率や、充放電を何度も行える充放電繰り返し性能をはじめ実用化に向けた課題は多い。

課題は正極材料

 リチウム空気電池は、金属リチウムと空気を電極として固体、液体、気体の三相界面上で電子のやりとりが行われる。このため、正極(空気極)は、液体と気体を効率よく混ぜることができ、かつ、触媒上で効率よくリチウムイオンの酸化(放電)と過酸化リチウムの分解(充電)を起こせる電気伝導性多孔質体が用いられている。

 今回のリチウム空気電池を開発したAIMR教授の陳明偉氏の研究グループは、正極に用いる電気伝導性多孔質体として、酸化ルテニウム(RuO2)ナノ粒子触媒をグラフェンで挟んだ窒素ドープナノ多孔質グラフェンを採用した。

3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンを正極材料に用いたコイン型のリチウム空気電池
3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンを正極材料に用いたコイン型のリチウム空気電池(クリックで拡大) 出典:JST、AIMR
正極のナノ多孔質グラフェン上で行われているとされる化学反応
正極のナノ多孔質グラフェン上で行われているとされる化学反応(クリックで拡大) 出典:JST、AIMR
ナノ多孔質グラフェンの前駆体となるナノ多孔質金属の3次元立体図(クリックで拡大) 出典:JST、AIMR

 このナノ多孔質グラフェン電極には、100〜300nmの大きさの微細孔を持ち、このナノサイズの微細孔を介してリチウムイオンや酸素、電解質を円滑に輸送する。また、大きな空隙の中に、放電反応の生成物である過酸化リチウムを貯蔵できる。さらにその大きな表面積の効果により、充電時における過酸化リチウムの分解反応を促進する機能も有している。

 実際に走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ナノ多孔質グラフェン電極の充電前と充電後の状態を確認したところ、充電前に存在していた過酸化リチウムが充電後に消失するとともに、放電によって元の状態に戻ることが明らかになった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、使用前と充放電を50サイクル行った後の酸化ルテニウムナノ粒子触媒の状態を原子レベルで観察した結果、触媒である酸化ルテニウムナノ粒子のサイズは変わっておらず、充放電で触媒に大きな変化や劣化が起こらないことを確認できたという。

酸化ルテニウムナノ粒子触媒を挟んだナノ多孔質グラフェン電極のSEM画像とTEM画像
酸化ルテニウムナノ粒子触媒を挟んだナノ多孔質グラフェン電極のSEM画像とTEM画像。(a)50サイクル充電前のSEM画像。円盤状の過酸化リチウムが生成していることが確認できた。(b)50サイクル充電後のSEM画像。(c)充電試験後のナノ多孔質グラフェン電極のTEM画像。100〜300nmの孔サイズを持つ。2〜3層のグラフェンに覆われた5nmの酸化ルテニウムナノ粒子が壊れずに存在していることが確認できた(クリックで拡大) 出典:JST、AIMR

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