出光興産とトヨタ自動車は2023年10月12日、全固体電池の量産に向けて協業を開始すると発表した。トヨタ自動車は2027〜2028年に全固体電池を実用化する目標だ。出光興産との協業により実用化をさらに確実にし、その後の本格的な量産に備える。
計画、目標 | 関連記事 | |
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トヨタ | ・2027〜2028年の実用化 | ・トヨタの国内工場で進む「次世代EVの準備」と、「匠の技の継承」 ・全固体はHEVではなくEVで、トヨタが技術開発の進捗を発表 ・実車で走って分かった全固体電池の課題は「寿命の短さ」、EVよりもHEV向き? |
日産 | ・2024年までに横浜工場にパイロット生産ライン ・2028年度に全固体電池搭載EVを市場投入 ・コストは2028年度までに1kWh当たり75ドル、その後さらに65ドルまで低減 |
・日産は半固体ではなく「全固体」電池、懸念される低寿命をNASAや大学と克服 |
ホンダ | ・2024年に社内に実証ライン ・2020年代後半に採用 |
・ホンダが日本のEV投入計画を更新、2025年に軽乗用、翌年にも2車種 ・「ホンダはチャレンジングな目標にこそ奮い立つ」、2040年に四輪はEVとFCVのみに |
協業では、EV(電気自動車)向けに高容量や高出力といった性能を発揮しやすいとされる硫化物系の固体電解質を扱う。硫化物固体電解質は、柔らかく他の材料と密着しやすいため量産にも向くと見込む。本格的な量産に向けて、技術や調達、物流、生産技術など数十人規模のタスクフォースを立ち上げ、協業を3段階のフェーズで進める。タスクフォースは、量産に向けて組織体制などを柔軟に見直していく。
第1フェーズでは、硫化物固体電解質の開発と、量産実証(パイロット)装置の準備を行う。第2フェーズが量産実証装置を用いた量産、第3フェーズが将来の本格的な量産の検討となる。
まずは双方の技術領域にフィードバックと開発支援を行い、硫化物固体電解質の品質/コスト/納期を作り込む。量産実証装置の製作、着工、立ち上げは出光興産が担当(投資額は未定)。トヨタ自動車は、硫化物固体電解質を用いた全固体電池と、搭載する電動車の開発を推進する。量産実証装置での量産の実績を基に、将来の本格的な量産と事業化に向けた検討を両社で行う。
全固体電池の耐久性向上へ
トヨタ自動車は全固体電池の課題として耐久性を挙げる。2021年に全固体電池の取り組みを発表した時点では、全固体電池を長く使う中で固体電解質と正極や負極の間に隙間が生じてしまうことで性能が低下し、低寿命であることに言及。HEV(ハイブリッド車)からEVに展開する方針を示していた。その後、低寿命の克服にめどをつけ、EV向けに搭載することを決めた。
出光興産は、2013年からトヨタのパートナーとして全固体電池の課題解決に取り組んできた。出光興産が開発する要素技術の1つが、柔軟性と密着性の高さを備えた割れにくい固体電解質だ。これにトヨタグループが持つ正極と負極、電池としての技術を組み合わせることで、量産に向けて全固体電池の性能と耐久性を確保する。
出光興産では、石油製品の品質を向上させる精製の過程で得られる副産物の硫黄成分を利用して、固体電解質の中間材料である硫化リチウムの製造技術を培ってきた。また、硫化リチウムの安定供給体制の構築に向けた量産技術の開発、小型実証設備の能力増強、量産装置の建設計画なども進めてきた。
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