クルマが文化としていつまでも豊かなものでありますように:自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)
これを書いている金曜日は、千葉の海風に吹かれて凍える思いをしていました。海風に吹かれながらどこに行ってきたかというと、この週末に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれる「東京オートサロン2022」です。
走って作り込むのはエンジン車もEVも同じ
オートサロンの話題を続けますが、皆さんはニュルブルクリンクサーキット(北コース)最速のEVをご存じでしょうか。現在のところ、2021年9月にテスラが「モデルS Plaid」で記録した7分35秒579という公式タイムが、量産されているEVでは最速です。最高速度は時速279kmでした。EVレーシングカーの公式記録では、フォルクスワーゲン(VW)の「ID.R」が2019年6月に6分5秒336を達成しています。
モデルS Plaidと同じく7分30秒前後の記録を持つ量産車は、「Mercedes-AMG GT 63 S 4MATIC+」(7分27秒800、エグゼクティブカー部門の首位、2020年11月)や「Porsche Panamera Turbo S」(7分29秒81、エグゼクティブカー部門2位)、「Porsche Cayenne Turbo GT」(7分38秒925、SUV/オフロード/バン/ピックアップ部門の首位、2021年6月)があります。ID.Rはプロトタイプ部門の記録ですが、その上を行く記録は「Porsche 919 Hybrid Evo」の5分19秒546です。
スバルとスバルテクニカインターナショナルも、EVでニュルブルクリンクでのタイムアタックに挑みます。その車両のコンセプトが「STI E-RA CONCEPT」で、システムは出力800kW、1088馬力を発揮し、4モーターで四輪を独立制御するEVです。モーターユニットはヤマハ発動機が提供します。ニュルブルクリンクでのタイムアタックは2023年の予定で、最初の目標は6分40秒とのことです(なお、中国のEVメーカーNIOは「EP9」で6分45秒900という記録を残しています)。
ニュルブルクリンクでのタイムアタックほどの過酷な環境でも安定して走ることができれば、その中で培った制御などの技術は当然量産モデルにも生きてきます。そうやって作り込まれた安全な走りは、タイムアタックほどの速度で走らない人にも恩恵となります。
今でも時々、「EVは作るのが簡単だ」という主張を見かけますが、走って作り込む作業はこれまでと同じく、地道で時間がかかるものですよね。
セキュリティで、いじりにくい最近のクルマ
走って作り込まれたクルマといえば、トヨタ自動車の「GRMNヤリス」もオートサロンで注目を集めていました。500台限定で、2022年夏ごろに発売されます。購入後も、モータースポーツの現場で日々行われているクルマの進化やドライバーに合わせたカスタマイズが体験できるなど、クルマ本体以外の付加価値も見どころです。
アップデートはハードウェア(パーツ)とソフトウェア(制御)の両面で提供します。また、サーキットで走行データを分析してもらい、ステアリングやエンジンの制御、駆動配分などを細かく調整する機会も提供されます。アブソーバーの減衰力やバネレートの最適化などのカスタマイズもサポートします。
こうした取り組みは、今までチューニングの経験がない初心者への間口を広げるだけでなく、経験者に向けたものでもあります。これまで、お好きな方々は自動車メーカーにおぜん立てされるまでもなく、こうしたカスタマイズや性能アップに慣れ親しんでいます。しかし、セキュリティ向上などによってソフトウェア面をチューニングすることが難しくなっており、トヨタ自動車にも「GRヤリスはいじる余地が少なくてつまらない」という声が寄せられていました。
単に初心者向けにおぜん立てするだけでなく、これまでと同様にチューニングを楽しめる環境を提供するためにも、自動車メーカー自らが関わっていかなければならないのです。そうでなければ、走りを楽しめるのは中古車だけ……となってしまいますよね。
クルマをいじる人、いじらない人、純正仕様がいいと思う人、自分好みにカスタマイズしたい人、速く走りたい人もそうでない人、さまざまな人たちが自由にクルマを楽しめる時代が長く続いてほしいですね。「カーボンニュートラルの観点では個人でクルマを持つなんてけしからん、シェアリングに移行すべきだ」という過激な主張をまた見かけたので、クルマが単なる移動手段にとどまらず、文化として豊かなものであってほしいと思います。
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