MS-DOSに敗れしCP/Mの落とし子「Real/32」はRTOSとして生き抜いたリアルタイムOS列伝(53)(2/3 ページ)

» 2024年12月02日 08時00分 公開
[大原雄介MONOist]

NovellによるDigital Research買収後は3社がビジネスを受け継ぐ

 話をDigital Researchに戻すと、こうしたDOSの改良と並行して、1985年にはGUI環境の提供も開始する。元々はGKS(Graphical Kernel System)と呼ばれる、1977年に開発された比較的原始的なグラフィックライブラリの規格があり、これをPC向けに移植したGSXと呼ばれるグラフィックライブラリを開発。このGSXを利用して作られたのがGEM(Graphics Environment Manager)である。

 GUIといってもタイルベースのもので、IBMのTopView(キャラクターベースのGUI)よりは洗練されてはいたし、Windows 1.0よりは実用的ではあったが、結局あまり普及しないままであった。ただタイルベースであっても複数の処理が同時に動くというのはConcurrent DOSやFlexOSと相性の良い特徴であって、Digital Researchは当時GEMと一緒にConcurrent DOS/FlexOSを普及させる目論見を持って色々プロモーションなどを企画していたが、肝心のGEMの売れ行きが芳しくないことでこれは夢と終わった。

 ただ1990年あたりからMicrosoftはDigital Researchつぶしに本腰を入れ始める。IBM PC/AT互換機における、MicrosoftのMS-DOS 5.0/6.0とDigital ResearchのDR-DOS 5.0/6.0の争いは、技術的にはDR-DOS側の勝ちとして良いのではないかと思うが、ビジネスそのものはMS-DOS側に軍配が上がり、結局Digital Researchはビジネスを継続していくのが難しくなった。最終的に同社は1991年にNovellに8000万米ドルで買収される。

 さて、Novellは当時Network Clientのトップシェアを握っていたが、いわば一本足打法だっただけに、第2第3のビジネスの柱を立ち上げるべくさまざまなソフトウェア企業を買収し、その製品を自社のラインアップに加えている。Digital Researchの買収もこの一環であり、DR-DOSがもちろん目玉だったわけだが、その一方でConcurrent DOS/FlexOSのビジネスは長期的な収入にはなるものの、金額そのものは大きくない。ただし、逆に長期のビジネスなので、いきなり販売やサポートを止めると大変なことになる。

 最終的にNovellは1994年、FlexOSをISI(Integrated Systems)に売却した。また、Digital ResearchはConcurrent DOSの後継である「Multiuser DOS」も開発していたが、1992年に開発そのものを中止する。ただしこのMultiuser DOSのVAR(付加価値再販業者)であったDataPac AustralasiaとCCI(Concurrent Controls)、IMS(Intelligent Micro Software)の3社に対してシステムのソースコードがライセンス供与される。以後この3社は独自にConcurrent DOSというかMultiuser DOSの後継製品を開発することになった。

 まずDataPac Australasiaは、DataPac Multiuser DOS 5.0/5.1とDataPac System Manager 7.0をリリースするが、同社は1997年にCitrixに買収され、System Managerはすぐに販売終了となる。Multiuser DOSの方はCitrixから引き続き提供されたが、2002年にDataPac AustralasiaのビジネスがCitrix Advanced Products Groupに移管され、同Groupは2016年に大幅に縮小されてしまった。もっともCitrixが1995年にIPOを行ったときの主力製品がWinFrame(Windows NT 3.51互換のThin Client向けOS)だったことを考えると、2016年を待たずにフェーズアウトしていたものと思われる。

 CCIは、CCI Muliuser DOS 7.xを少なくとも2005年までリリースしていたことは確認されている。同社は1999年に社名をApplicaに変更して、単にMultiuser DOSだけでなくインターネット向けのソフトウェアやハードウェアなどにも手を出したようなのだが、これが2002年に丸ごとAplycon Technologiesに買収されたらしい。ところがそのAplycon Technologiesも2005年を最後に消息が不明となっている。

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