アステラス製薬 専務担当役員 研究担当 CScOの志鷹義嗣氏は、2019年から進めてきたAI創薬の取り組みについての合同取材に応じた。AI創薬の大きな成果として、STING阻害剤として有効な「ASP5502」を創出するとともに、その最適化研究の期間を従来比で3分の1以下となる7カ月で完了することに成功したという。
アステラス製薬は2024年10月24日、東京都内で、2019年から進めてきたAI(人工知能)創薬の取り組みをテーマに、同社 専務担当役員 研究担当 CScO(Chief Scientific Officer)の志鷹義嗣氏への合同取材に応じた。大きな成果として、STING(Stimulator of interferon genes:DNAウイルスの感染に応答して自然免疫/炎症応答を活性化するタンパク質)阻害剤として有効な「ASP5502」を創出するとともに、その最適化研究の期間を従来比で3分の1以下となる7カ月で完了することに成功したという。今後は、低分子化合物だけでなく、タンパク質分解誘導剤や抗体など他のモダリティの創薬にも適用していく方針だ。
同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、2019年ごろからAI創薬の取り組みを進めてきた。その最大の特徴は「人×AI×ロボットのコラボレーション」にある。志鷹氏は「AIについて単なるブームとして対応するのではなく、実活用するために取り組んできた成果として、ASP5502という端的な事例が出てきた」と語る。実際に、人である研究者にAIをいかに使ってもらうか、AIの力をさらに強化するロボット技術をどのように組み合わせるかなど、AIそのものにとどまらない取り組みがあって、AI創薬の成果が生まれているという。
創薬のプロセスは、活性や薬物動態に課題があるものの一定の効果が想定される「医薬品の種」を起点に、研究者がAnalyze(分析)、Design(設計)、Make(合成)、Test(試験)のサイクルを回して医薬品候補を導き出すことで進んでいく。AI創薬では、医薬品の特性予測やデザインにAIを活用して、研究者が人手で行うよりもはるかに多くの医薬品候補を導き出して提案できる。研究者は、これらの提案の中から、AIの解析結果と自身の経験と知見を組み合わせて総合的に判断して、有力な医薬品候補を絞り込む。
これらはAnalyzeとDesignのプロセスに対応しているが、アステラス製薬では、絞り込んだ有力な医薬品候補をロボットで自動合成するシステムや、AIとロボットの組み合わせで細胞への影響や薬効を評価するシステムも導入している。創薬プロセスの後段であるMakeとTestも自動化できるようになっているのだ。
創薬プロセスの前段に当たるAnalyzeとDesign向けには、ADMET(吸収、分布、代謝、排せつ、毒性)特性、薬理活性特性、オフターゲット予測、化合物構造生成といった4つのAI機能を含めた統合プラットフォームを2020年から構築してきた。志鷹氏は「導入当初は研究者からの反発もあったが、現在は低分子創薬ではほぼこの統合プラットフォームを使うようになっている」と説明する。なお、統合プラットフォームの利用率向上に一役買ったのは、4つのAI機能ではなく実験結果の一覧をスライド資料にまとめて自動作成してくれる機能だった。「研究者が会議などで開発成果を報告する際に実験結果をスライドにまとめる必要があるが、非常に手間が掛かっていた。これを自動化する機能が便利ということで統合プラットフォームに触れると、同じ画面の中にあるAI機能にも興味がわき、自然に利用が浸透して行くというきっかけになった」(同氏)という。
AI機能についても、特性予測などの結果を十数秒で出力できるようにしたり、大量の医薬品候補を提案する際にも独自スコアでランキングして研究者に把握しやすくしたりなど、さまざまな工夫を凝らしている。志鷹氏は「結果を出すのに何時間もかかったりすると研究者は使ってくれない。候補提案でも研究者とAIがコラボレーションできることが重要だ」と強調する。
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