本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げて、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第6回は木村石鹸が開発した、こだわりの石けん製品を取り上げる。
市場環境が変わる中、B2B事業で培った技術を生かして新たにB2C製品を作るモノづくり企業が増えている。大きなチャンスだが、今までと異なる機軸で新製品を作る上では大変な苦労もあるだろう。本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」のプロジェクトをピックアップし、B2C製品の企画から開発、販売に至るまでのストーリーをお伝えしたい。
OEMメーカーが自社ブランドを設立する場合、「OEM事業からの脱却」という文脈で語られることが多い。利益率向上のために自社ブランドを立ち上げ、その結果として利益率の低いOEM事業の割合が縮小していくというシナリオだ。しかし、両方の事業が共存して好循環を生むケースも存在する。大阪府八尾市に本社を置く木村石鹸の取り組みがその好例だ。
木村石鹸は大正13年創業の老舗石鹸メーカーで、2024年には創業100周年を迎えた。創業当初は化粧石けんや固形洗濯石けん、粉石けんを製造していたが、戦後はバス/トイレ/キッチン専用洗浄剤など、家庭用市場に進出した。その後、長年にわたりOEMメーカーとして衣類の洗浄剤やトイレ、風呂などの洗浄剤の商品開発と製造を行ってきたが、2015年に自社ブランドを立ち上げた。この取り組みがOEM事業にも良い影響を与え、現在では両事業ともに成長している。
今回は自社ブランドの設立がOEM事業にもたらした好影響について、木村石鹸 代表取締役社長である木村祥一郎氏に話を聞いた。
――長らくOEM事業をメインにしていた中で、自社ブランドの立ち上げに踏み切りました。きっかけは何だったのでしょうか。
木村祥一郎氏(以下、木村氏) 理由は大きく分けて2つあります。1つは利益率の悪化です。私が会社に戻ったのが2013年ですが、それ以前の7〜8年間にわたって、売り上げはほぼ横ばいでした。しかも、売り上げの約70%はOEM事業の取引先2社に依存している状態だったのです。
当時はデフレの時期でもあり、商品の値上げがなかなか難しい状況でした。しかし、売り上げを確保するためには、何かしら新機能や効果を備えた新商品を生み出していく必要がありました。モノの価格は下がっていくのに、性能はアップさせることが求められるわけです。難しい状況ですが、売上高の大半を占めていた2社の要望には応えていかなければなりません。原料費などは基本的に上がっていく一方なので、結果、どんどん利益率が悪化していきました。
もう1つは、OEMでは必ずしも「良いもの」が売れるわけではないということです。過去に、価格はやや高めではあるものの、手肌に優しい石けん由来の台所洗剤をOEMで出しました。自信作だったのですが、全く売れないという結果に終わりました。
その理由をよく考えました。製品の質には自信があります。であれば、製品の売り方や販路の面で工夫が必要なのではないか、と考えました。自社で企画から開発まで全部担当していながら、最後の「売る」という部分を覚悟を決めてやっていなかったがゆえに、低利益率に苦しんでいたのです。
そのため、自分たちで販路を開拓し、自社ブランドとして売り上げにつなげていった方がいいだろう、という結論を出しました。ちなみに、その時の商品は現在「SOMALI(そまり)」という最初に立ち上げた自社ブランドの、台所用洗剤として販売しています。
――自社ブランドを始めたことで、OEM事業に変化はありましたか。
木村氏 一番驚いたのは、OEM事業の売り上げが伸びたことです。そもそも、OEM事業の利益率の悪化をきっかけに自社ブランドを始めたので、僕はむしろOEM事業は縮小していくだろうと予測していたんです。ところが、自社ブランドの成長に伴って、OEM事業の売り上げも伸びたんですよ。
要因として考えられるのは、自社ブランドによって僕たちの技術が可視化され、OEMの問い合わせが増えたという可能性です。以前のOEM事業はどちらかというと下請け色が濃くて、お客さんの販路に合わせた価格帯の商品を作っていました。ですが現在は、私たちのことをあらかじめ理解した上で、「一緒に新しい商品を作ろう」とお声がけいただくケースが多くなりました。これにより、2社に依存していたOEM事業も、現在は10数社程度に分散し、だいぶ安定感が出てきました。
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