人手不足や環境対応、地政学リスクなど、製造業を巡る課題が複雑化している。その解決策の一つが工場のスマート化だ。各設備を緻密に同期制御し、そこから質の高いデータを集めて利活用することで、変化に素早く対応できる。そういった製造現場をつなぐ産業用ネットワーク規格の一つが「MECHATROLINK」だ。
スマート工場を実現するためにまず必須となる「つなぐ」技術の中で、MECHATROLINKは各種機器とコントローラをつなぐ日本発のオープンなモーションフィールドネットワークだ。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の技術の発展とともに、工場のスマート化の裾野は広がっている。MECHATROLINKは高速通信と同期性の確保により、システムの高速化、高機能化に貢献する。
スマート化の本質は、データを集めて解析し、それを生産性向上や予防保全、さらには経営判断につなげることだ。つまり装置制御の精度やスピードだけでなく、最下層のデータを吸い上げて活用することがカギとなる。その中で、エンコーダー通信を利用してサーボと各種センサーの情報を一本化して収集できるネットワークがΣ-LINK IIだ。
MECHATROLINKの普及推進を行うMECHATROLINK協会は、オートメーションと計測の先端技術総合展「IIFES 2024」(2024年1月31日〜2月2日、東京ビッグサイト)において、「新世代産業用ネットワークによるスマートファクトリ実現のカギ」をテーマに、スマート工場を実現する最新版のMECHATROLINK-4やΣ-LINK IIの特徴、優位性を紹介した。MECHATROLINK対応製品を開発するメンバー企業による紹介コーナーも設けられ、安川電機やモベンシス、オリエンタルモーター、横河電機、キーエンス、マイクロ・テクニカ、システックの製品展示やデモも行われた。
安川電機は、2024年1月にリリースした最新製品を中心にMECHATROLINK-4対応製品を展示した。セルを統合的に制御すると同時に同期性の高いデータをリアルタイムに収集してフィードバックし、“動きに変える”YRMコントローラの最新機種が「YRM1010」だ。同製品は分散アーキテクチャを採用し、データドリブンなセルの自律分散制御を容易に実現する。処理性能は従来機種比で約1.5倍。通信も強化し、MECHATROLINK-4では最大128局を接続できる。
マシンコントローラMP3000シリーズの後継機種であるMPX1000シリーズの「MPX1310」は大幅な性能および機能向上を実現し、従来機種比でモーション処理性能を8倍に高速化、制御可能軸数は16軸から128軸に拡張した。展示では、YRM1010とMPX1310×2台をMECHATROLINK-4で接続して各コントローラが同期し同じタイミングでモーション動作、協調制御できるという開発中の機能を紹介した。
安川電機の担当者は「ソリューションコンセプト『i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)』の実現に向け、生産現場や企業の課題を解決し、お客さまに最適なソリューションを提供し続けます」と話す。
オリエンタルモーターは、3つの円盤(モーター)の回転と直動(スライダ)が同期動作するロータリーナイフをイメージしたデモ機でMECHATROLINKの高速通信と同期性を示した。
デモに使用した「αSTEP AZシリーズ」は、モーターにバッテリーレスの機械式アブソリュートセンサーを搭載している。電源オフ時でもモーターの位置を把握しており、原点復帰は不要。装置の立ち上げ時間短縮やチョコ停からの早期復旧に貢献する。従来の多軸ドライバよりも60%小型化した新商品も追加しており、オリエンタルモーターの担当者は「小型化を実現した新商品でお客さまの配電盤内の省スペース化に貢献し、MECHATROLINKの市場拡大を狙います」と話す。
モベンシスは、同社のソフトモーションコントローラー「WMX3」と安川電機のサーボドライブ「Σ-X」を使用した直交ロボットのデモを披露した。
WMX3は、独自開発したMECHATROLINK-4のソフトマスターが搭載されており、市販のWindows PC1台で最大127軸の制御が可能。WMX3はMECHATROLINK-IIIにも対応可能であるため、柔軟にシステムを構成することができる。
従来のモーションボードやPLCなどハードウェアベースの制御から、PCを中心としたソフトウェアベースの制御に急速に移行しつつある中、WMX3は半導体製造装置、多関節ロボット、自動倉庫、OHT(天井走行式無人搬送車)、二次電池製造ラインなど幅広い分野で採用されている。「今後、Linux版に対応したり、MECHATROLINK-4のプロトコルスタック単体での提供をしたりすることで、さらなる適合分野の拡充を図ります」(モベンシスの担当者)。
横河電機は同社の産業用AIプラットフォーム「e-RT3 Plus」で、MECHATROLINK-IIおよびMECHATROLINK-III対応の位置決めモジュールを通して安川電機のサーボモータを動かすデモを展示し、ITとOT(Operational Technology)の枠を超えた、産業用AIプラットフォームを訴求した。
e-RT3 Plusは豊富なI/Oを備え、データ収集から解析、制御まで1台で実現できる上、現場の装置と上位システムをシームレスにつなぎ、AI開発に広く利用されているプログラム言語であるPythonを標準装備し、機械学習ライブラリを用いて課題に合わせた「AIアプリケーション開発」ができる、Linux搭載オープンプラットフォームだ。2023年には、自律制御AI※1を活用できるe-RT3 Plusオプションサービスの開始を発表している。
「制御箇所に応じて、パッケージあるいは導入支援のコンサルティング、トレーニングプログラムを提供します。パッケージはグローバルで、コンサルティングサービスとトレーニングプログラムは国内から順次展開を予定しています」(横河電機の担当者)
※1 強化学習AI、アルゴリズムFKDPP(Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)。「第52回 日本産業技術大賞」の「内閣総理大臣賞」を受賞。
工場のスマート化に伴って、カメラが人の目の代わりとなって検査やデータ収集を行うようになる。検査精度に結び付くカメラと機器間の高い同期性と高速通信の重要性は高まるばかりだ。
キーエンスは、高性能PLC「KV-8000シリーズ」を紹介。モーション制御周期は125μs/5軸。計測機器からのデータのばらつきは1μs以下と装置の高性能化を支援する。また、標準搭載のドライブレコーダ機能で、トラブル時の要因究明はもちろん、装置の挙動を振り返りながらタクトや精度を追求することができる。
会場では、PLCとサーボモータをMECHATROLINKでつなぎ、テーブルを低速から高速に回転させながらカメラでワークの外観を検査するデモが行われた。回転速度が変化しても検査位置がずれない様子が示された。
「KV-8000シリーズは高速、高精度な制御を実現できるPLCです。お客さまの課題を解決し、付加価値を上げる提案をしていきます」(キーエンスの担当者)
マイクロ・テクニカは、MECHATROLINK-IIIに対応したスマートカメラ「SimPrun-200」を紹介した。エンジンとしてARMを搭載しており、カメラ内部で画像検出、画像処理を行うことができる。
会場では、SimPrun-200と安川電機のPLCをMECHATROLINK-IIIで接続し、QRコードを読み取るデモが披露された。マイクロ・テクニカの担当者は「生産現場のスマート化を進めるためには、画像情報に基づく制御がますます必要とされ、小型スマートカメラの導入が進むと考えられます。今後はSimPrun-200のシリーズ化、ラインアップを増やし、高解像度対応やさまざまなフィールドネットワークとの接続を推進します」と話す。
MECHATROLINKを活用したスマート工場の実現には、対応製品の拡大が何より欠かせない。その開発ハードルを下げる取り組みも進んでいる。システックは、テキサス・インスツルメンツ製Sitara(AM243x/AM64x)の産業用通信サブユニットPRU_ICSSGを使用したソフトスタックとして、MECHATROLINK-IIIのマルチスレーブ機能に対応した通信デモを展示した。
従来の製品はシングルスレーブのみの対応だったが、マルチスレーブに対応したことによってマスターからの複数の指令を1つのコントローラで受信できる。多軸サーボのような複数モーターを制御する製品など、より多くの製品に適用できる。
「強みである高速通信制御技術を活用し、MECHATROLINK-IIIおよびMECHATROLINK-4のFPGAやCPU向けのさまざまなデバイスに対応した製品を拡充し、今まで以上にお客さまの課題解決に貢献します」(システックの担当者)
モーションコントロールに特化しているMECHATROLINKは進化し、さまざまな製品に広がっている。最下層のΣ-LINK IIとの高い親和性により、データを生かしたスマート工場に適したネットワークとなっている。
MECHATROLINK協会もプレス工場をイメージしたデモを出展。模擬のプレス機には金型の表面温度やトルク値を測るセンサーなどが付けられており、得られたデータはΣ-LINK IIとMECHATROLINK-4を経てコントローラに伝達し、上位層でデータを活用するという一連の流れを示した。
MECHATROLINK協会 事務局代表の下畑宏伸氏は「センサーからのデータをエンコーダーのデータとともに上位につなぐΣ-LINK IIのようなネットワークはこれまでありませんでした。スマート化において最下層からデータを吸い上げる仕組みは絶対に欠かせないため、皆さまの関心も非常に高いです。性能の向上と同時に開発ハードルを低くすることも重要です。ASICだけでなくソフトウェアでも実現可能にしたように、今後も幅広い環境に対応していきたいと考えています」と語った。
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提供:MECHATROLINK協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月22日