工場内のさまざまな機器やロボットなどをつないで効率化や付加価値創出を行う製造現場のスマート化が加速している。「つながり」を実現するネットワーク技術の中でも、より現場に近いモーション制御領域で価値を発揮するのがMECHATROLINKである。センサーやカメラなどパートナーエコシステムの拡充が進み「つながる世界」を広げているMECHATROLINKの取り組みを追う。
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの技術発展により、製造現場のスマート化への動きが加速している。製造現場で生まれるさまざまなデータを収集して分析し活用することで、生産性や品質を改善する取り組みだが、この中で重要性が増しているのが、「つながり」を実現するネットワークである。
製造現場で使うネットワーク技術の中で、工場内でさまざま作業を行うロボットやモーターなどの末端情報を扱い、スマート工場の中で大きな役割を果たそうとしているのが、モーション制御ネットワーク「MECHATROLINK」である。MECHATROLINK協会では、新規格「MECHATROLINK-4」などによる制御技術の進化に加え、センサーやカメラなどパートナーエコシステムを構築することで「つながる世界」の拡充に取り組んでいる。
パートナーとの「つながり」を強く打ち出したのが、2019年11月27〜29日に東京ビッグサイトで開催されたオートメーションと計測の先端技術総合展「IIFES2019」での出展である。
MECHATROLINK協会は、エニイワイヤ、オリエンタルモーター、キーエンス、システック、日本テキサス・インスツルメンツ、ネクスコム・ジャパン、PFU、マイクロ・テクニカ、安川電機、横河電機のパートナー10社と出展。「スマートファクトリーを実現するカギがここにある!」をテーマに、第4次産業革命など産業や工場の変化をブースプレゼンテーションで訴えた他、スマートファクトリーの具体的な形として、モーション制御領域から上位のシステム、クラウドなどの情報の流れを紹介した。さらに、今回特に強調したのが、パートナーエコシステムによる「つながり」だった。
パートナーのソリューションにより、スマートファクトリー化をより容易に効果的に実現することが可能となる。MECHATROLINKに「つながる機器が拡充する」ことにより新たな価値創出が行える他、「対応制御機器の広がり」によりユーザーが求める制御環境をより作りやすくする。さらに「対応のデバイスやIPの拡充」が進むことでMECHATROLINK対応機器をより簡単に開発できるようになる。これらの「MECHATROLINKワールド」が広がることで、モーション制御データをより広く使うことができるようになる。
それでは、具体的にそれぞれの出展内容を見ていこう。「つながる機器」としてはカメラやセンサー、モーターなどをつなぐソリューションが見られた。これらの末端機器の情報を高精度に捉えることで、機器の保全だけでなく、品質向上などにも利用可能となる。
エニイワイヤは「MECHATROLINK-III」対応のI/O省配線システムを紹介した。機器のIoT化やスマートファクトリー化が進めば、製造装置内でも設置されるセンサー数は大幅に増加する。エニイワイヤの省配線ソリューションを使うことでセンサー配線を容易にできることに加えて、MECHATROLINK-III対応のI/Oターミナルに接続することで、MECHATROLINKを経由して一元的に情報収集が行えるようになる。「機器や工場内で使われるセンサー数が大幅に増える中で、省配線化へのニーズは高まっています。MECHATROLINKとの組み合わせで、制御データと合わせてセンシングデータを管理できるようになり、より便利にさまざまなセンシングが行えるようになります」(エニイワイヤ担当者)。
オリエンタルモーターは、MECHATROLINK-IIIに対応したセンサー内蔵ステッピングモーター「αSTEP AZ」シリーズを訴求した。「αSTEP AZ」シリーズは、外部センサーを装着しなくてもモーター情報を取得できる特徴を持つ。モーターの位置や速度、負荷などの基本情報の他に、温度や動作量もモニターでき、設備の状態監視や予知保全にも使える。
この「αSTEP AZ」シリーズがMECHATROLINK-IIIに対応したことで、モーターデータを直接MECHATROLINK経由で収集でき、より高精度な予知保全が行えるようになる。「工場においても設備の保全に対するニーズは従来以上に高まっています。その中でもモーターなど回転体は異常の影響が出やすいところであり、遠隔監視のニーズが強い領域です。『αSTEP AZ』とMECHATROLINKの組み合わせで、簡単に監視や保全が行えるという点は大きな価値を生むと考えます」(オリエンタルモーター担当者)。
画像認識ソリューションを展開するマイクロ・テクニカは、MECHATROLINK対応のスマートカメラ「SimPrun」を出展した。「SimPrun」は、小型軽量でロボットハンドなどにも設置できるビジョンセンサーである。新製品ではCマウントレンズや照明などが選択式となり、従来以上に多様な用途に対応する。一方でMECHATROLINK-III対応により、ビジョンの情報をリアルタイムで収集できる。MECHATROLINKの新規格であるMECHATROLINK-4の対応も検討している。「工場内のデータ取得を行う中でビジョンセンサーを活用する動きが非常に強くなっています。MECHATROLINKに対応することで画像データを制御データと組み合わせて収集でき、さまざまな用途での活用が期待できます。また、MECHATROLINK-4では、ソフトウェアプロトコルスタックに対応しているため、PCベースで情報処理を一元化できることも利点だと考えます」(マイクロ・テクニカ担当者)としている。
さまざまなデバイスからの情報収集を簡単に行えるようにするだけでなく、対応する制御機器環境の拡充も進む。工場などではさまざまな制御機器やシステムが複雑に連携し合って工程を組み上げているケースも多く、対応制御機器が増えることで、よりシンプルで使い勝手の良い工程を構築できる利点がある。IIFESでも各社がMECHATROLINK対応制御機器を紹介した。
キーエンスはドライブレコーダー機能を搭載したプログラマブルコントローラー「KV-8000」シリーズを出展した。「KV-8000」はMECHATROLINK-IIIでの高速制御に加えて、ドライブレコーダー機能によるダウンタイム削減がポイントだ。設備の情報を常に記録しているため、トラブルが発生した際に設備停止前後のラダー動作や作業者の操作履歴を確認し、すぐに原因を突き止めることができる。またカメラ映像も同じ時系列で再生でき、復旧時間の短縮や原因の根治が可能となる。「MECHATROLINK-IIIでの高速制御動作も記録・再生でき、トラブル時の装置状態を詳細に確認できます」(キーエンス担当者)。
ネクスコム・ジャパンは、MECHATROLINK-III対応のハイブリッドコントロールボード「MCB355」などを出展。機械制御とロボット制御を単一ボードで行える利点などを訴えた。また、ネクスコム・ジャパンはMECHATROLINK協会においてPC技術部会にも参加しており、PCベース制御の価値を強く打ち出してきた。その中でMECHATROLINK-4でソフトウェアプロトコルスタックに対応し、PCベース制御でもハードウェアとソフトウェアの両方が選択できるようになったことで「既にデモ用の展示などでも協力していますが、開発にも積極的に対応していくつもりです。あらためてPCベース制御の価値を示していきたいと考えています」(ネクスコム・ジャパン)という。
PFUは、MECHATROLINK-III対応のPCIeカードと産業用コンピュータを紹介。PFUの組み込みコンピュータにMECHATROLINK-IIIのマスターカードを搭載し、一体提供をするという利便性を訴えた。「製造現場ではさまざまなフィールドネットワークが使われていますが、機械メーカーなどではこれらに対応するのが負担になっているケースもあります。一体提供できることでより開発の負荷を下げられる点を訴求したいと考えています。MECHATROLINKは駆動系やリアルタイム性が特徴で、よりシビアな制御が求められるところで強みがあると考えます」(PFU担当者)。
安川電機は、MECHATROLINKの新規格である「MECHATROLINK-4」対応のコントローラーやサーボドライブ、入出力モジュールを参考出品した。MECHATROLINK-4は、1周期当たりの取得データ項目が従来に対して5倍となっている他、1度の通信で接続できる局数が2.5倍に拡大しており、データをさまざまな領域で活用するスマート工場化に大きく貢献する。「スマート工場化に向けた課題として予防保全などのために大容量データを収集したいというニーズや、多くの軸を監視して装置全体の稼働状態を監視したいとするニーズが高まっています。MECHATROLINK-4を使うことでこれらのIoTによる新たなニーズに対応できると考えます」(安川電機担当者)。
横河電機は、MECHATROLINK-II/III対応のエッジコントローラー「FA-M3V」を出展した。半導体や電子部品の組み立て工程を対象に提案を進めており、MECHATROLINK-IIIに対応することで、装置の制御性能やタクトタイム短縮、生産品質アップなどを実現し、生産性向上に貢献できているという。「半導体などの高速・高精度な制御が要求されるところでは、オープンなモーションフィールドネットワークであるMECHATROLINKの強みが発揮できると考えています。仕様がオープンで、サポートも充実しており、製品開発などが進めやすい点も利点です」(横河電機担当者)としている。
MECHATROLINKで実現するこれらの機器同士のつながりや制御環境の構築しやすさなどの価値だが、そもそも対応製品の開発が進まなければこれらを実現することはできない。こうした「MECHATROLINK対応」を容易にするデバイスの提供なども広がっている。
システックはFPGAをベースとしたMECHATROLINK用のIPを提供。MECHATROLINK-IIIコントローラー向けのIPに加えて、ボードとしての提供も進めMECHATROLINKの対応製品開発を支援している。「モーション制御領域でMECHATROLINKは強みを持ち、高速、高精度を要求されることから、ハードウェアの開発ニーズも根強く残ると見ています。これらの支援を進めていきます」(システック担当者)としている。
日本テキサス・インスツルメンツは、マルチプロトコル対応の汎用プロセッサ「Sitara AMIC110」を出展。低価格のスレーブ向け汎用プロセッサでシステックのソフトウェアIPを活用することでMECHATROLINK-IIIに対応できる。同じハードウェアで各種産業用プロトコルに対応できるため、機器メーカーなどが地域対応のために個別に開発する負荷を低減できる。「今まではMECHATROLINK-IIIではASICやFPGAが必要でしたが、安価な汎用プロセッサでも対応可能となり、汎用性が高まっています。アジアでは強い引き合いがあり、開発負荷を低減することで用途が広がる可能性もあります」(日本テキサス・インスツルメンツ担当者)としている。
ここまで見てきたように、MECHATROLINKはパートナーエコシステムの拡充により「つながる機器を拡張」し、「対応制御環境を拡大」することで、スマート工場化に向けたデータ活用のさまざまなニーズへの対応を進めている。さらに「開発のしやすさ」なども高めており、利用しやすい環境が広がってきているといえる。MECHATROLINK協会 事務局代表 下畑宏伸氏は「今回のIIFESではスマートファクトリーの全体像から、具体化する価値まで一気通貫で示すことができたことがポイントです。その中で、パートナーエコシステムが広がり、利用しやすい環境が整ってきていることを訴えました」とブース展開について述べている。
スマートファクトリー化の流れの中で「つながる」世界はさらに広がりを見せている。産業機器開発を進める中でモーション制御領域からの幅広いデータ活用を進めていくためには、これらの幅広いMECHATROLINKのエコシステムを活用するのは1つの手なのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:MECHATROLINK協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月31日