仮想ECUから人材育成まで、日本の自動車産業のソフトウェア開発を総合的に支援車載ソフトウェア

自動車の機能や性能でソフトウェアが果たす役割が増している。SDVやソフトウェア定義車両という言葉が注目を集めているが、それらを実現するための課題は多い。一社単独では開発リソースの確保も難しい。SDVを実現するにはどのようなパートナーと協力すべきなのか。

» 2024年02月22日 10時00分 公開
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 「Software Defined Vehicle(SDV)」への注目が高まっている。ソフトウェア定義車両とも呼ばれる通り、ソフトウェアによって自動車の機能や性能を高めていくことを指す。販売後も車両の価値を維持、向上させ、ユーザーのさまざまなニーズに応えられるかどうかが課題となっている。SDVはクルマの使われ方だけでなく、機能や性能の基盤となるE/E(電気電子)アーキテクチャやそれらの開発の在り方も変えていく。

 大きな変化は、ハードウェアとソフトウェアの分離だ。これまではECUのハードウェアに合わせてソフトウェアを開発しており、SDVの核となる「購入後のアップデート」が難しかった。コストなどの要因でハードウェアの処理性能に余裕がないことや、E/Eアーキテクチャの中でECUが機能ごとに整理されておらず、相互に依存して動作する状態であることなどがネックになっていた。

 SDVの実現に向けて、E/Eアーキテクチャをドメインやゾーンの単位で整理する。無線ネットワークでのアップデート(OTA:Over-The-Air)による機能の追加や更新を前提にしたクラウドネイティブな開発の推進も重要だ。ソフトウェア開発の人材を確保することも欠かせない。実現のための課題は多いが、SDVに取り組むことで開発コストの低減や試作期間の短縮、スケーラビリティの拡大などのメリットも期待できる。では、どのように推進すべきか。

SDV実現のカギを握る要素とは[クリックで拡大] 出所:FPTオートモーティブ

自動車のソフトウェア開発に特化した新会社を設立

 有効なアプローチの一つは、SDVに対応できる開発パートナーとの協力だ。約18年間にわたって自動車向けソフトウェアを手掛けてきたFPTソフトウェアは、SDVの開発を加速してより包括的なソリューションを提供するため、2023年12月に完全子会社「FPTオートモーティブ」を設立した。スマートモビリティー社会の発展に積極的に貢献することをミッションに掲げるとともに、投資やM&A、パートナーシップの経営判断もスピードアップするとしている。

 FPTソフトウェアは、ベトナムのICTビジネスをリードするFPTコーポレーションのグループ会社で、グローバル市場を対象にITビジネスを展開することを目的として1999年に設立された。そこからさらに自動車のソフトウェアに特化した新会社FPTオートモーティブが誕生した格好だ。新会社は米国や欧州、日本、韓国、中国、ベトナムを主な市場として設定し、2030年までに10億ドルの売り上げを目指している。FPTコーポレーションの2022年の売上高が18億7000万ドルなので、自動車向けのソフトウェアで大きく成長を図ろうとしていることが分かる。

 FPTオートモーティブは4000人のエンジニアを抱えている。このうち、メカ系やエレクトロニクス系などハードウェアのエンジニアは1割程度で、残りは全てソフトウェアエンジニアだ。組み込みソフトウェアだけでなく、クラウドやモバイルアプリまでもが守備範囲だ。インフォテインメントシステム、UI(ユーザーインタフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザイン、モデルベース開発(MBD)などのデジタルエンジニアリングまで、包括的なエンジニアリングサービスを提供する。

 自動車向け機能安全規格ISO 26262や車載システム開発のプロセスモデルAutomotive SPICE、車載ソフトウェアの業界標準であるAUTOSARにも準拠できる。開発拠点をインドやルーマニア、メキシコ、中国、フィリピン、ベトナムに構え、本社は米国テキサス州だ。

 FPTソフトウェアは、日本国外に本拠を置く企業だが、2023年度の売り上げにおいて日本市場が最も大きなシェアを占めており、日本向けの投資や人的リソースの投入に重点を置く。その背景には、日本とベトナムの友好的な関係や長年の事業展開による日本の企業文化への適応力の高さがある。日本に興味関心を持ち、日本語を勉強するエンジニアも多いという。

グループを挙げてクルマの中も外もカバー

 FPTオートモーティブのCEOで、FPTソフトウェアのエグゼクティブバイスプレジデントを兼務するグェン・ドック・キン氏は「自動車市場は地政学的な問題や環境規制などに左右されており、パワートレインは全方位の戦略が求められています。電動化がどの程度のスピードで進むかは不透明ですが、SDVは間違いなく避けては通れません。車内での体験や空間としての価値が重要になり、ソフトウェアがなくてはできないことが増えていきます」と語る。

FPTオートモーティブのグェン・ドック・キン氏

 FPTソフトウェアグループは総勢3万人超の従業員を抱え、このうち4000人がFPTオートモーティブで車両本体や車内の機能などインカー(In Car)の領域に携わる。その他にも多くのクラウドのエンジニアを擁し、クラウドサービスなど車外の機能であるアウトカー(Out Car)でのサポート力が強みだ。

 FPTソフトウェアはGoogleやMicrosoft、AWSのクラウドサービスをカバーしている他、NVIDIAのネットワーククラウドパートナー(NCP)に選出されている。NCPとして自動運転システムのAI(人工知能)に必要なクラウド上での学習から車両へのAIの実装までサポートする。DevOps(開発と運用が緊密に連携して開発する仕組み)やCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)、モバイルアプリケーションにも対応できる。金融系などミッションクリティカルな領域や大規模開発の経験もあり、SDVにも生きるノウハウが蓄積されている。

SDV開発を支援する仮想ECUを準備中

 FPTオートモーティブは、仮想ECU(電子制御ユニット)の準備を進めている。ECU単体だけではなく車両1台を仮想化し、ハードウェアと切り離してソフトウェアを開発できるようにする。

 これにより、ECUの実機やテストベンチなどのハードウェアが利用可能になる前にソフトウェアを早期に立ち上げることができる他、不具合の再現や高度なデバッグによって効果的なシステムテストも可能になる。実機では難しいフォールトインジェクションなどを利用した機能安全やセキュリティの検証にも対応。サプライヤーとの共同開発もしやすくなる。

 FPTオートモーティブの仮想ECUは、実際の車両でも採用されるAUTOSARのClassic Platform(CP)とAdaptive Platform(AP)に準拠している。開発に使用する仮想ECUと実機のECUに互換性を持たせ、今後のE/Eアーキテクチャの主流になるゾーンアーキテクチャ向けのECUの開発にも対応する。仮想ECUではAUTOSAR APに準拠したソフトウェア開発ツールチェーンも提供する予定だ。開発プロセス全体をサポートし、CI/CDに基づき統合や検証のプロセスを自動化する。開発対象のECUに対応したDockerコンテナも利用できる。

 仮想ECUは、対応するシミュレーションやテストの複雑さの他、ECUの実機にどの程度近いかによって5段階に分けられる。FPTオートモーティブの仮想ECUは中間地点のレベル3にあるという。CANやLINなどの基本的なインタフェースを仮想化しており、仮想ECUを開発するPC上でBSWの最下位のレイヤーであるMCAL(マイクロコントローラーアブストラクションレイヤー)のI/O制御をマッピングできる。仮想ECUと仮想CANの通信の診断も可能だ。

 販売後のモデルに追加する新機能の開発でも仮想ECUは有効だ。クラウド上で新機能を開発した後、それを仮想ECUにインストールして実世界を再現したシミュレーションでその機能が動作するかどうかを確認できる。開発から車両への実装までデジタルツインを活用して行う環境を、仮想ECUによって提供する。

 キン氏は「仮想ECUを使用した開発は、ECUの実機を試作するよりも効率的です。バーチャルで開発したソフトウェアは、他のモデルにもプラットフォームとして展開しやすくなるというメリットもあります」と言う。仮想ECUは自動車メーカーやサプライヤーのニーズに合わせてオーダーメードで製作する他、FPTオートモーティブとして提供することもできる。

 仮想ECUの開発には数年前に着手した。自動車メーカーやチップベンダーと協業して開発を進め、仮想ECUの“部品”をチップ単位でそろえてきた。今後は、仮想ECUで開発したものをそのまま実際のECUとして実装できることを理想型に、自動車メーカーやサプライヤーの考えるECUの在り方を踏まえてリアルとバーチャルの垣根をなくしていく。

AUTOSARに関しては長年の実績がある

人材確保へ、大学に自動車ソフトウェア学科を開設

 FPTオートモーティブの発足により、自動車向けソフトウェアの人材育成にも一層力を入れる。FPTグループは教育事業も展開しており、その一つにFPT大学がある。この大学は、FPTオートモーティブと協力して自動車ソフトウェアエンジニアリング学科を開設する。2024年9月に講義がスタートする予定で、定員は約500人だ。車両本体や車内の機能をつかさどるソフトウェアは人命にも関わるため、品質や安全の重要性について時間をかけて学んでもらうという狙いがある。

 ベトナムは国を挙げてソフトウェア産業を後押ししているため、ソフトウェアエンジニアという仕事に対する若年層の関心は高い。キン氏は「ベトナム発の自動車メーカーの成長によって、ソフトウェアエンジニアを目指す若者が自動車に注目しています。自国の自動車メーカーの存在が、自動車産業で働くことをよりリアルに感じさせるようです。AIによって自動化され得るプログラミングだけを学ぶのではなくエンジニアリングに携わりたい学生は、自動車産業を目指すケースが多いです」と述べる。

 FPTオートモーティブはM&Aや経験者採用でエンジニアを確保するだけでなく、数年先を見据えて大学での教育やリスキリングを通じて優秀な人材を一から育てることで安定的に人材を確保していく考えだ。

車載ソフトウェアだけでなく、クラウドやVR/ARまで得意分野は幅広い

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