工作機械大手のヤマザキマザックでは、自社工場のスマートファクトリー化を推進するとともに、これらの実績を生かしたスマートファクトリーソリューションの外部展開を進めている。「生産性向上」と「環境配慮」の2つの観点で取り組む、ヤマザキマザックのスマートファクトリーへの挑戦を紹介する。
大手工作機械メーカーのヤマザキマザック。早くからグローバル市場を視野に入れ、1970年代には他社に先駆けて海外に生産拠点を構えるなど、常に時代を先取りしたビジネスを展開している。その同社が、現在、注力しているのがスマートファクトリーの実現である。工作機械の幅広いラインアップで多様な金属加工ニーズに対応するだけでなく、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)を活用して工作機械をネットワークで接続する。そこから生産データを収集して、生産活動の可視化や分析を行い、生産の最適化や製品の品質向上などに役立てるためだ。
「『Mazak iSMART Factory』と名付けて、まずは自社の本社工場である大口製作所で稼働を開始しています」とヤマザキマザック 常務執行役員 生産・品質革新本部 本部長の堀田政春氏は語る。その成果は同社が提供する製品やソリューションにも反映され、顧客のスマートファクトリー実現にも活用する方針だ。
現在の製造業にとってスマートファクトリーの実現は、市場での勝ち残りを左右する取り組みとなっている。1つは生産性の向上のためだ。これまでも製造業は、さまざまな工夫や改善によってQCD(Quality/品質、Cost/コスト、Delivery/納期)の向上を図ってきた。しかし、かつてないスピードで変化する市場環境、多様化するニーズ、人手不足といった社会課題などに対応するには、これまで以上に劇的な変革が求められるようになっている。
そして、もう1つが地球環境への配慮(グリーン)である。環境への配慮は、これまでも重要な社会課題だったが、「脱炭素」「カーボンニュートラル」という言葉が急速に社会に定着したように、危機意識は高まり続けている。国を挙げて目標やビジョンを定める動きも加速しており、今後、製造業は環境への配慮を成長戦略に盛り込まなければ、事業を継続することはほぼ不可能ともいえる状況になりつつある。
「ヤマザキマザックも『2030年までにカーボンフットプリント(製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示する仕組み)の50%を削減する』という目標を掲げています。この高い目標は、ただやみくもにエネルギー消費を節約するといった取り組みだけでは、到底達成できません。受注、設計、生産、納品、そして、顧客の工場での稼働という工作機械のライフサイクルのどこで、どれだけエネルギー消費が発生しているかを可視化して、ムダを洗い出し、プロセスを見直したり、製品の改善を図ったりしていく必要があります。環境への配慮もまた、生産の最適化と同様にスマートファクトリーというデータ中心の仕組みが必要不可欠なのです」と堀田氏は語っている。
工場で稼働する工作機械やその他の生産設備、IoTセンサーのデータを収集し、監視や可視化、分析のためのシステムに転送する。これらを実現するMazak iSMART Factoryのネットワーク基盤として、ヤマザキマザックが採用しているのがシスコシステムズ(以下、シスコ)のネットワークスイッチである。
具体的には、シスコの産業用スイッチを組み込んだ「Mazak SMARTBOX」というアプライアンスを開発し、このMazak SMARTBOXにより、複数の設備からのデータの集約と転送を行う仕組みを採用している。選定の理由は、シスコ製品の信頼性と安全性の高さだという。ヤマザキマザックでは、Mazak iSMART Factoryをデータの可視化・分析のためだけでなく、より高度な自律運用を実現するためのインフラとして位置付けている。そのためには、Mazak SMARTBOXに採用するスイッチは、工場の連続操業を支えうる高度な可用性を備えていなければならない。
「シスコ製品の信頼性と安全性は、数多くの実績が証明しています。Mazak iSMART Factoryを顧客にも提供していく上でも、シスコ製品を採用しているということは大きな安心感につながるはずです。そう考えてシスコを共同開発のパートナーに選定しました」とヤマザキマザック 上席執行役員 商品開発本部 副本部長 先行開発センタ センタ長で、FAソリューション事業部 事業部長の堀部和也氏は語っている。
安全性については、さらに「通信プロトコルの限定」や「設備台数の限定」などの工夫も行っているという。
工場の操業を脅かすリスクの1つにサイバー攻撃がある。工場のネットワークが完全にクローズドだったころは、大きな脅威ではなかったが、Mazak iSMART Factoryのように、工場ネットワークが外部のシステムやネットワークとつながるようになった現在はそうではなくなっている。
「すでに世界中の工場でサイバー攻撃の被害が発生しています。それに対して、脅威を検知してブロックするものなどさまざまな対策が提供されていますが、10年、20年と長く利用する工場の設備は、それらの対策を簡単に導入できません。そこで考えたのが原則通信させないという方法です。IPなどのプロトコルは通信させず、製造業向けオープン通信プロトコルである『MTConnect』だけを通信させることで、脅威の侵入を防ぐ仕組みとなっています」と堀部氏は語っている。
こうした通信プロトコルの制限に加えて、Mazak SMARTBOXの収容台数を制限することで、セグメントを細かく分離し、万が一、サイバー攻撃により侵入を許してしまった場合でも被害を最小限に抑えることができる。「ある装置が感染しても、それを工場全体には拡散させないような仕組みとしています。Mazak iSMART Factoryは、セキュリティの観点で分散型のアーキテクチャを採用しています」と堀部氏は安全性について語っている。
Mazak iSMART Factoryが導入された最初の工場である大口製作所では、スマート化によるさまざまな成果が生まれている。
まず挙げられるのが物流の最適化だ。生産プロセスの中には、部材の搬入、移動など「モノを運ぶ」動きが多く存在する。当然、運ぶ回数は少ない方が二酸化炭素の排出量は少なくなるが、現場でモノの到着を待つ時間が発生してしまうと、生産性の観点ではムダが発生していることになる。「そこで、運ばれるモノにRFIDタグを付けて、その流れを可視化。同時に設備の稼働状況も合わせて分析することで、いつ、どこから、どこにモノが移動して、どこに、どれくらい滞留していたかを把握。最適な回数とタイミングを算出して、物流の最適化を図っています」(堀田氏)。
また、工作機械の性能強化にもつなげた取り組みも進めている。ヤマザキマザックの工作機械には、以前から消費電力を可視化する仕組みが備わっているが、そのデータと工場の製造データなどを合わせて分析し、工作機械の省エネ性能を高めることができたという。「加工を行っていない時間のエネルギー消費を抑えたり、最もエネルギーを消費するモーターの加速を緩やかにしたりするなど、エネルギー消費と生産性の最もよいバランスを算出し、製品の改良を進めています」と堀部氏は取り組みについて語っている。
ヤマザキマザックでは、大口工場でこのようなMazak iSMART Factoryの成果を顧客にも提供するため、広く提案活動を行っている。「われわれの工作機械の多くの顧客が、同じように生産性の向上やカーボンニュートラルといった課題に向き合っています。大口工場の成果を伝えしながら、Mazak iSMART Factoryでそのお手伝いができればと考えています」(堀部氏)。
また、ヤマザキマザックでは、その一環としてIoTを活用した「Mazak iCONNECT」という新しいサービスも開発している。これは、顧客工場で稼働する工作機械の稼働データをクラウドに集約し、その情報をヤマザキマザックと共有することで、適切なアドバイスやサポートを受けられるというものである。そのための通信設備としてもシスコ製品が採用されている。
「クラウドに集約した情報を活用して、効率的に工作機械をメンテナンスできるだけでなく、当社がリモートから工作機械の状況を詳しく把握した上で、適切なサポート行うことができます。顧客企業とヤマザキマザックをつなぐ接点として強化を図り、より多くの価値を提供していきたいと考えています」と堀部氏は訴えている。
このようにヤマザキマザックは、シスコとのパートナーシップを生かして自社のスマートファクトリー化だけでなく、スマートファクトリーソリューションを開発し、データを生かした生産性向上と環境配慮への取り組みを加速させている。これにより、あらゆる製造業の課題解決に貢献していく方針だ。
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提供:シスコシステムズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年4月30日