配線レスで広がる新たな工場の姿、無線化がもたらす価値とは工場セキュリティ

スマート工場化の動きが広がる中で、ネットワークの無線化への関心が高まっている。有線が中心だった工場内ネットワークが無線化すればどのような価値を生み出せるのだろうか。

» 2021年11月04日 10時00分 公開
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最大で20億〜30億円かかる配線コストを削減

 工場のネットワーク環境について、ネットワーク専門企業であるシスコシステムズの荒谷 渉氏(エンタープライズ事業 シニアプロダクトセールススペシャリスト)は、無線化への関心の高さについて指摘する。

photo シスコシステムズ エンタープライズ事業 シニアプロダクトセールススペシャリストの荒谷渉氏

 「工場ネットワークは信頼性が最重視されます。その点に関しては、新たな技術が登場したとしても有線技術にかないません。ただ、有線ネットワークはケーブルの敷設や配線に多大な費用と負荷が必要となります。例えば、膨大な敷地面積を持つ製油所では、有線ネットワーク構築に20億〜30億円の配線コストが必要なケースもあります。そのためIoTなどを活用したくてもできないケースも存在しました。こうした背景から、無線ネットワークに期待が集まっています」(荒谷氏)

 では、工場ネットワークの無線化には、どういう利点があるのだろうか。製造業を担当する、シスコシステムズの西村克治氏(デジタルトランスフォーメーション事業部 インダストリー事業推進部)は「一つは、先述したような大きな敷地面積の工場でネットワーク環境を整備するケースがあります。この場合は配線コストが膨大になるために、無線ネットワークを採用するコスト面でメリットが生まれます。もう一つが、人やAGV(無人搬送車)やフォークリフトなど移動体の情報活用や管理ができるという点です。スマート工場化で工場内の移動体の情報を活用したいニーズも高まっています」と語っている。

 工場では現在も部分的に無線ネットワークの活用が進んでいる。ただ、スマート工場化の進展でネットワークを使用する機器が増加する中で、今後求められているのが工場全体を見据えたネットワーク環境の再整備だ。

 例えば、現在の工場を見ても、電子工具用、AGV用、ハンディー端末用などネットワーク活用を前提にした機器の導入は増えている。Wi-Fiを活用する場合、これらの用途に合わせて別個のアクセスポイントを設置しているのが一般的だ。しかし、工場内では、個々の生産ラインや製造製品ごとにWi-Fiなどを個別で設置するケースも多く、全体的なネットワーク管理ができていないために、干渉問題などで、工場運用に影響を与えるケースも少なくない。

 こうした現状を踏まえてシスコシステムズは「統合ワイヤレスネットワーク」の構築を提案する。「これまではサイロ化した物理ネットワークを敷設し、さらにその先の『ラスト10m』の領域も生産ラインなどが個別で設置するケースが多くありました。しかし、工場全体がネットワークを前提としたスマート化へと進む中、個別化のデメリットがありました。将来を見据えた場合、有線も無線も含め全てのネットワークを一元化し、柔軟に管理・運用していくことが必要になります」と荒谷氏は工場ネットワークの将来像を訴える。

photo 図1:生産現場を支える統合ワイヤレスネットワーク[クリックで拡大] 出典:シスコシステムズ

ネットワークを一元化する「統合ネットワーク」

 従来の工場ネットワーク環境では、OA、保全、品質、生産指示、稼働監視がそれぞれ個別でネットワークを構築し、個々で運用している状況だった。これらの用途別にサイロ化していたネットワークを単一ネットワークに統合することで、情報の収集や利用を容易にできる。また、ネットワークの仮想化技術により、さまざまな用途に最適なネットワークリソースを振り分けることができるようになる。新たな情報活用が必要になった場合の新規ネットワーク構築も容易になる。

photo 図2:工場ネットワークインフラの現状と今後[クリックで拡大] 出典:シスコシステムズ

 これらを実現する統合ワイヤレスネットワークの構造として、シスコシステムズが訴えているのが、「ラスト10m」のPAN(Personal Area Network)とそれ以上の上位のバックボーンネットワークを切り分けた2層構造だ。「ラスト10m」については、Wi-FiやBluetooth Low Energy(BLE)、Zigbeeといった免許不要で使用できるネットワークも含めて用途に最適な形で構築し、バックボーンのネットワークについては、有線や5Gなども含め免許が必要な信頼性の高いネットワークを活用するという形だ。

 「『ラスト10m』については用途に応じて信頼性やネットワーク品質など求められる条件が大きく変わっていきます。これらについては免許や必要な技術、免許不要で活用できる技術、有線、無線など、用途に合わせて柔軟に採用できるようにします。一方でこれらのアクセスポイントからインターネットや各種WANサービスに接続するネットワークについては、高い信頼性や品質が求められることは共通であるため、有線や免許が必要な信頼性の高い技術を活用します。こうした構造とすることで、それぞれの技術が進展した場合でもこれらを柔軟に取り入れた形で進化させていくことが可能となります」と荒谷氏は語っている。

photo 図3:IoT時代の統合ワイヤレスネットワーク環境[クリックで拡大] 出典:シスコシステムズ

ワイヤレスネットワークの安全かつ安定的な利用のポイント

 シスコシステムズは、ネットワーク専門企業として、ネットワーク環境を総合的にカバーする製品やソリューションを用意している点が特徴だ。例えばWi-Fiを安全かつ安定的に利用するには「セキュリティ対策」「干渉対策」「電波の到達範囲」という3点を考える必要がある。「セキュリティ対策」については、WPA2やWPA3を採用したり、認証サーバを利用したりすることで情報漏えいなどを抑える必要がある。「干渉対策」については、干渉源を正確に検知し、自動回避する技術を採用することで対策できる。

 また、工場での安定的な通信環境を阻害する要因として意外に多いのが「電波の到達範囲」の問題だ。「工場の広い敷地では、アクセスポイントの出力を最大化し、カバーエリアを広げようとする傾向がありますが、実は、端末からの電波はそんなに飛ばないため、電波の到達範囲に不均衡が起こり、適切なローミングができずに通信が安定しないケースが見られます。こうした場合は、双方向通信を意識した送信電力の最適化が必要となります」と荒谷氏は語る。シスコシステムズのアクセスポイントでは、通信用とは別に監視専用ラジオを搭載し、干渉状態を正確に検知し、最適に制御できる。また、通信障害の発生したパケットを自動取得し、問題箇所を詳細に可視化する仕組みを備えている。

 上位の無線ネットワークは先に述べた通り信頼性が重要となり、ここにはローカル5Gが期待されるが、直近のソリューションとして、干渉がなく長距離通信が可能な4.9GHz帯を利用(注)することで、高い信頼性と低コストでのバンクボーンネットワークの構築が可能だ。

(注):利用には第三級陸上特殊無線技士(三陸特)の資格が必要。

将来的な最新技術にも対応できる柔軟性

 一方、アクセスポイントとインターネット接続するバックボーンとなる無線ネットワークについては、先進技術の進化に合わせた対応を用意する。

 上位の無線ネットワークとして期待が大きいのが5Gもしくはローカル5Gだ。ただ、現時点では技術面やコスト面の問題もあり、本格的に工場で活用できるまでにはまだまだ時間が必要だ。「製造業の工場はセキュリティの観点から公衆サービスを使うことに対して消極的であるため、ローカル5Gへの期待値も非常に大きいものとなっています」(荒谷氏)

 さらに、5Gと同等の高速高容量通信ができる無線LAN規格であるWi-Fi6(IEEE 802.11ax、11ax)も注目されている。OFDMAによる低遅延技術を採用しており、高密度環境を作ることができるのが特徴だ。

 これらの新技術に対しても、シスコシステムズが提案する統合ワイヤレスネットワーク構造により、技術進化や環境整備に合わせて最適な技術が選択できる。「シスコシステムズは、ローカル5Gは将来的に大きな価値を持つネットワーク技術だと考えています。しかし、現状ですぐに活用することは難しいため、まずは免許が必要で信頼性の高い4.9GHz帯高速通信技術を活用して進めておくことが重要だと考えます。基本的な仕組みを構築しておけば、基地局のコストや免許の問題など、環境が整った場合に迅速にローカル5Gに切り替えるということが可能となります。これらの移行にもシスコシステムズは総合的なサポートができます」と荒谷氏はその価値について訴えている。

スマート工場化で無線ネットワーク構築を進めるために

 スマート工場の実現に必須となる工場内ネットワークの構築において、無線ネットワークへの期待は非常に高まっており、配線コスト低減や移動体との情報連携など、実際に得られるメリットは非常に大きい。しかし、先進技術へのキャッチアップや、信頼性や用途などに合わせたネットワーク技術の選択、干渉などのさまざまな問題への対応、ネットワーク機器の管理や整備など、実現に向けてはさまざまな課題があるのが現実だ。

 こうした中、ネットワークの専門企業として、バックボーンの上位ネットワークから、「ラスト10m」に関連するさまざまなネットワーク技術まで幅広い技術をそろえるシスコシステムズの知見は大きな価値を持つ。シスコシステムズは現在、「カントリー デジタライゼーション アクセラレーション(Country Digitalization Acceleration:CDA)」プログラムを通じて、日本政府と連携しながらデジタル化支援を強化する動きを進めており、製造業へのサポートにも力を入れている。工場の無線ネットワーク構築に悩む場合、一度相談してみるのも一つの手だろう。

photo シスコシステムズの荒谷氏(左)と西村氏(右)

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年12月3日