製造業におけるサイバーリスクとセキュリティトレンドおよびそれらの課題と対策について説明する本連載。第2回は、日本の製造業をけん引する自動車業界の工場におけるOTとITの統合に向けたサイバー攻撃への対策を取り上げます。
第一次世界大戦後に始まった日本の自動車産業は、今や世界最大級の規模を誇り、多くの尊敬を集めています。現在日本の大手自動車メーカーの一部は、年間数百万台もの乗用車を生産しており、2018年の1年間だけでも約840万台の乗用車が日本で生産されました。
新製品の強化、技術革新、安全性機能の市場投入を巡る競争ラッシュの中、自動車メーカーは、IT環境をOT(Operational Technology:制御技術)に接続することで、効率性と顧客の利便性の向上を図っています。
しかし、OTネットワークのほとんどは昔に構築されたものであるため、インターネットに接続されることを前提とせず、セキュリティを最優先していません。全てのネットワークから完全に切り離された状態で設計されたOTを、インターネットからアクセス可能なITシステムに接続することで、物理的に隔離されていたOTシステムをサイバー攻撃の脅威にさらすことになるのです。
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現在、自動車はかつてないほど高度な技術と精度で製造されており、製造工程のわずかなズレが、壊滅的な欠陥や大規模なリコールを引き起こす可能性があります。そこで、ICS(産業用制御システム)に支障を来す恐れのある条件の具体例を幾つか紹介しましょう。
ITとOTの融合を進める中で、自動車製造におけるこれらのサイバーリスクはどのようにすれば軽減できるのでしょうか。以下に幾つかの施策を挙げます。
自動車メーカーは調達、製造、組み立てプロセスを制御する全てのアセットを完全に可視化することでリスクの軽減を図ろうとしています。従来のコンピューティングプラットフォームだけでなく、機械を制御するOTデバイスに至るまで、あらゆるタイプのデバイスに対する深い知識が必要となります。
この可視性には、構成、脆弱性、脅威に関する情報が含まれており、これらを組み合わせることで、メーカーは自社のサイバーエクスポージャー※)を完全に理解することができます。この可視化はオンプレミスまたはクラウドベースのソリューションを使用して実現することができます。
※)サイバーエクスポージャー:サイバー攻撃に対するリスクを客観的に把握し、ビジネスに与える影響を分析すること。金融資産における価格変動リスクの度合いを示す経済用語の「エクスポージャー」をセキュリティに取り入れた考え方。
リスク、脆弱性、脅威を特定するプロセスは、定期的だけでなく、連続的なものでなければなりません。これにより、悪用される可能性のあるリスクをいち早く発見することができます。脆弱性は可能な限り早期に排除しなければならず、パッチを当てるか、設定ミスを修正するなどして対処するのが理想です。
しかし自動車の組み立て作業は途切れることなく継続しなければなりません。パッチを適用してリスクを取り除くには稼働停止が避けられず、常にこの方法をとれるとは限りません。OT固有のセキュリティと、パッチ適用ができない場合のリスク軽減についても考慮する必要があります。
複数の検出エンジンを組み合わせることが脅威の検出における最も効果的なプロセスです。
顧客の要求を満たし、息をのむようなスピードで革新を続けるためには、メーカーは能力とセキュリティのギャップを絶えず縮めていく必要があります。ITとOTの融合は、確実にメリットがある一方で、自動車メーカーをサイバー攻撃の脅威にさらすことになります。悪質な攻撃者の一歩先を行くためにも、現代の組織は、完全な可視性、セキュリティ、コントロールを提供する健全なサイバーセキュリティ計画を備えることが必要不可欠です。
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