「人手不足はチャンスだ」とする冷凍ケーキメーカーの五洋食品産業。なぜ同社はスマート工場化を進めるのか。同社のロボット活用とスマート工場化の取り組みを追う。
日本国内で人口減少局面にある中で多くの企業が人手不足に悩みを抱える状況が生まれている。その中で「人手不足は逆にチャンスです」と語るのが、冷凍ケーキを展開する五洋食品産業の代表取締役社長 CEOの舛田圭良氏である。同社では「Sweets Stock!」としてアイスクリームのようにスイーツを自宅にストックする生活を提案し、冷凍ケーキが食べられる世界を広げることを目指している。
一方で同社では現在、工場の自動化やスマート工場化を積極的に進めている。なぜ人手不足がチャンスになり、人手だけに頼らないモノづくりを目指すのか。五洋食品産業のロボット活用とスマート工場化の取り組みを追う。
五洋食品産業は1975年にナチュラルチーズ加工業として福岡市博多区で創業。1980年に本社と工場の移転を契機に洋菓子の製造を開始し、現在はフローズンスイーツ(冷凍ケーキ)の製造を行っている。チーズケーキ、モンブラン、ショートケーキ、ティラミス、ホールケーキなどを中心に業務用(ホテル、レストラン、個人飲食店向け)や、全国の生活協同組合(生協)などを通して個人用の商品提供をしている。
当初ナチュラルチーズを扱っていた五洋食品産業は、喫茶店でチーズケーキがブームになった際にケーキ事業に参入。物流や賞味期限の問題で冷凍ケーキが求められたために冷凍チーズケーキ事業を開始した。
そんな五洋食品産業が冷凍ケーキ事業で独自の地位を築くようになったのは、商品回収事故により“第二の創業”を余儀なくされたことがきっかけだ。事業継続が困難となる状況に陥り、現代表取締役社長 CEOの舛田氏が経営を引き継いで、再建を目指す形となった。必死であがく中で、生活協同組合(生協)が宅配事業を強化するために「宅配できるおいしいスイーツ」を求めていることを聞き付け、請け負ったのが復活の転機となった。
「生協側でもプロモーションの一環として女性をターゲットとしたスイーツを目玉として置きたいという思いがありました。ただ、目玉商品となるスイーツがおいしくなければ評判は得られません。当時の冷凍ケーキは、物流や賞味期限などの物理的な問題が優先され、味は二の次になっていましたが、あらためて“味の良い冷凍ケーキ”が求められたわけです。ただ、われわれにとっては大きなチャンスであり、挑戦する以外の選択肢はありませんでした」と舛田氏は当時を振り返る。
そこから「味の良い冷凍ケーキ」の実現に向けてレシピ開発チームを結成。それまでの製造方法を改め、解凍後の味にゴール(目標)を置くという発想で逆算して、製造工程を作り上げていった。「冷凍するとなぜ味が変わるかを最終的に解凍後に食べる場面から逆算して工程や要素の相関性を解き明かしていき、独自の『Best解凍時製法』を構築することができました」(舛田氏)。その結果、顧客からの味の要望に応えられる技術と、その製品を安定的に大量に生産できる能力を得ることができたという。
その後、本社および工場を現在の福岡県糸島市に移転し総工費7億5千万円を投じHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に対応した衛生品質管理工場を建設した。食品安全マネジメントシステム(FSSC22000)認証も取得し、スイーツを自宅にストックする生活「Sweets Stock!」のコンセプトを打ち出しつつ、冷凍ケーキの需要拡大に応じた順調な成長を遂げてきた。
冷凍ケーキ市場の動向について舛田氏は「好調が続くと見ています」と明るい見通しを語る。冷凍ケーキのメリットは、衛生的にも高品質で賞味期限が長く保存できることから、食品廃棄を削減できるなどの特徴がある。一般消費者のライフスタイルの変遷にも適合した商品であり、味の水準も向上したことからここ数年で市場は大きく拡大している。現在の洋菓子の国内需要は約4000億円でその内冷凍ケーキは1割の400億円を占めるまでになった。同社の業績も右肩上がりで伸長し、2019年5月期の売上高は21億円を記録している。
さらに、人手不足が追い風になっている面もあるという。舛田氏は「人手不足の影響により、従来は一からケーキを作っていたケーキ屋や小売店が、スポンジ土台部分や一部で冷凍ケーキを使うケースが増えています。冷凍ケーキを使うことで作業の負荷を減らせるだけでなく、廃棄ロスの量を減らすことができます。今後もさらに冷凍ケーキの市場は広がると予測しています」と冷凍ケーキの価値について述べる。
しかし、こうした追い風を受け今後の成長も見込まれているからこそ、同じ「人手不足」が課題としてものしかかってくる。生産能力の拡張については工場の増設などで補ってきたが「現在の本社工場でも、6〜7年前から徐々に働き手が集まらなくなり、一人当たりの残業時間が増えるなど、従業員への負担も大きくなってきていました。市場のニーズはますます大きくなっているのにわれわれ自体が対応できない状況が生まれ始めていました」(舛田氏)。
2021年度までの3カ年の中期計画「Rebuild GO!YO! - MIRAIE 2021」では、「将来的な人手不足・賃金上昇に対応するための、省人化計画の推進」「さらなる進化形として、品質向上/標準化を実現するロボット化・AI化など模索」という対策を掲げ、生産技術革新に本格的に取り組む姿勢を打ち出した。舛田氏は「これまでは、生産量に合わせて人を増やすというアプローチで生産能力拡大に取り組んでおり、ロボット導入や自動化による生産性向上への取り組み意欲はそれほど高くありませんでした。人員を確保できれば生産性は上がると考えていました。しかし、その人が採用できなくなる中で、人は人がやらなければならないところに集中し、人がやらなくてもよい領域は機械に任せるということが必要になります」と方向転換について語っている。
そこで、まず経済産業省が実施していた「ロボット導入実証事業」に応募し「幸いにも認可を受けることができました」(舛田氏)。これをきっかけに産業用ロボット導入をまず試すことにした。2018年には3700万円を投資し、最初のロボット導入となるオムロン製のアーム型ロボットを製造ラインに採用した。
ロボットはケーキの焼き型にクッキングシートを敷く工程に導入した。2本のアームの先端に側面側と底面用のハンドを装着し、側面側のアームは巻き付け、底面用のアームは吸着して焼き型に敷き詰めるという作業だ。2本のアームでシートを敷く時間は約6秒で、1時間あたり約600個の作業が可能となった。また、大きさの異なる焼き型にクッキングシートを敷く際はタッチパネルでアームの先端部分を取り換えて対応している。導入にこの工程を選んだのは「同じ形でくり抜いたり、絞り出したり、飾りを付けたりする定型の作業はロボットに任すことができると考えていました。その視点で工程を見た際に、一番導入しやすいと考え、この工程に導入しました」と舛田氏は考えを述べる。
また、オムロン製ロボットを採用した理由としては「生産ラインの機械化を検討し始めたタイミングでロボット関連の展示会に伺い、オムロンの展示ブースを見たことがきっかけです。具体性のある話を熱心に提案いただき、こちらの要望にもきめ細かく対応いただいた点が採用のポイントになりました」と、五洋食品産業 執行役員 技術戦略室長の田村勇気氏は語っている。
焼き型にシートを敷く作業は既に本格稼働しており、生産量をそのままに3人分の省力化を実現。作業者の負担軽減の効果が得られているという。そこで次のロボット導入工程として現在取り組んでいるのが、同社の主力商品であるモンブランの生産工程への導入である。
同社のモンブランの製造数は1日4万2000個にも及ぶ。モンブランの製造でポイントとなるのが、生クリームの上に糸状のマロンクリームを絞る作業である。同作業には4〜5人のスタッフが手作業で行っており、1.5秒に1個のペースで仕上げている状況である。ただ、熟練作業者たちがさまざまな理由で欠けてしまうと、売り上げの柱であるモンブランの製造に影響が出る可能性がある。
そこで、舛田氏は「シートを敷く作業のように付加価値の低い仕事をロボットに担わせることはロボット活用の1つの方向性だと考えています。一方で、人が欠けた場合に企業リスクが大きくなる作業についても、ロボットを導入する大きな理由になると考えました。機械化を進めることで企業リスクを低減するという考え方です」と同工程へのロボット導入を進める理由について語る。
ただ、同工程は製品の仕上がりに直結する付加価値の高い作業である。人の技術をロボットに移転し、自動化するには難易度が高いという。「実は今回のロボット導入の以前にも、モンブランの製造工程には専用装置の導入を検討したことがありました。しかし、動きが機械的で人間の手でもたらされるような品質を確保できずに導入を見送った経緯がありました」と田村氏は過去を振り返る。
さらに舛田氏も「ロボットが作る製品は結果的にA品(売り物になる製品)かB品(破棄される製品)に分かれ、B品が出るのは仕方ないという発想になります。しかし人が作業する場合は、作業しながら、目視検査を行い、作業を修正しながら、B品にならないように品質を確保していることが分かります。こうした動きを再現できなければ人の作業をそのまま置き換えることはできません」と難易度について語っている。
同ロボットの開発はオムロンが顧客と共に課題解決を推進する拠点「オートメーションセンタ TOKYO(ATC TOKYOのPOC LAB)」で進めているところだという。実際にロボットを稼働させ、一定期間の実証を行い、人と同じような作業品質を維持できるかどうかを検証し、調整などを行う。「実際に1.5秒に1個の頻度でマロンクリームを絞り、品質を維持するのはロボットに担わせるのは難しく、共同で開発を進めなければ求める品質はできないと考えています。さまざまのロボットやオートメーションベンダーとも話はしましたが、オムロンはすぐに『一緒にやりましょう』と言ってくれました。共に挑戦し課題解決を進めていくという姿勢を見せてくれた点が、オムロンと共創を進める大きな理由になりました」と舛田氏は語っている。
モンブラン製造工程では、マロンクリームを絞る作業のロボット化だけを進めているわけではない。「ロボット化した後に、前後の工程も自動化し製造工程全体の生産性を高めたいと考えています。この中には、製品をラックに一度片付けて引き出すというような人が行うからこそ必要な、無駄に見える工程があります。また、重い入れ物を洗浄する作業や間を搬送するような作業も含まれており、それらが解消できるようになれば、従業員の負担軽減にもつながります。ロボット導入だけでなくライン全体の効率化をできる限り早く実現したいと考えます」と田村氏は工程全体の効率化を進める方針を示している。
舛田氏も「可能な限りロボット化を進める方向です。大半が自動化できると考えます」と語る。特に搬送部分は工場のレイアウト上でも課題となり、冷凍庫への出し入れが必要なことから「早期に自動化を進めたいと考えています」(舛田氏)。さらに、画像監視による検査工程にはAIを採用することも検討する。食品業界の最大の課題となる雑菌の検査なども、現在のアナログな検査から、AIを活用した効率的な検査の実現に向けて検討を進める。加えて、製造現場のIoT(モノのインターネット)活用についても現在、製造工程における各データの取得に取り組み始めている。
ただ、これらの自動化を強力に推進したとしても「工場の主役は人です」と舛田氏は強調する。「われわれは人々の身近な生活を豊かにするスイーツメーカーです。自動化は進めていくものの、工場ではあくまで主役は人間でなければならないと考えています。仕上げ作業など、人のぬくもりを伝わらなければならない部分は人の仕事として残り続けます。この人と機械のバランスが最適化した姿が、当社におけるスマート工場です」と強く訴えている。
さらに「こうした機械と人のバランスが最適化した工場が実現できれば、場所にしばられずに工場を展開できるようになります。日本のケーキ作りの技術を自由に世界に広げていけます」と舛田氏は将来の夢を描く。これらスマート工場化の取り組みにより、五洋食品産業では本社糸島工場の生産性を将来的には4倍に高める方針を示している。
ただ、こうした取り組みは1社で行えるものではない。「われわれは冷凍ケーキ作りの専門家ですが、ロボットやオートメーションの専門家ではありません。目指すところから逆算して考えると、既存の技術だけでは実現できないようなことも数多く存在します。オムロンのようなパートナーがいるからこそ乗り越えられるのだと考えます」と舛田氏はパートナーの重要性について強調している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:オムロン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年3月31日