薬剤師不足にどう取り組むのか、薬局設備メーカーが取り組んだ自前主義からの脱却製品開発効率化

薬局や調剤の現場での人手不足が過酷化する中、単純作業の自動化ニーズが高まっている。このような中、設備メーカーには何が求められているのか。薬局設備メーカーのトーショーでは、自動化ニーズの高まりに対応するため「自前主義からの脱却」を進めた。トーショーの取り組みを追う。

» 2019年03月20日 10時00分 公開
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薬局設備の市場を切り開いてきたトーショー

 トーショーは1971年に創業して以来、病院薬局、調剤薬局の設備や機器に関わる事業を展開している。現在は、全自動錠剤散薬分包機、全自動散薬分包機、全自動錠剤分包機、注射薬払出システムなどの製造、販売を行っており、薬局や病院などに各製品を提供している。売上高は249億円(2018年9月期)で従業員数は585人である。

photo トーショーの本社外観(クリックで拡大)

 トーショーはもともと、薬を包む薬包紙を扱う問屋からスタートした。しかし、顧客である薬局の経営者や薬剤師などから「薬を包むのに時間がかかり、患者さんを待たせてしまったり、時には間違ってしまったりする」という課題を聞き、これらを解決する薬剤の分包機を開発。「機械にできることは機械に」という発想から薬や薬局に関連する自動化機器を展開してきた。最初は、内服薬に対応した装置だったが、その後病院からの要望もあり、注射薬向けの装置にまで製品ジャンルを広げており、現在は総合的な調剤機器メーカーとして高いシェアを持つという。

 新たなジャンルの開拓や新たな技術の採用などに積極的に取り組み、先進的な製品を業界に先駆けて投入し、市場をリードしてきた。特に、大幅な省力化を実現した注射薬払出装置は信頼性、冗長性、高速性に優れ、業界の課題である人材不足の解消に貢献する製品として導入が進んでいる。今後は、そのノウハウを他の内服薬などの装置にも水平展開し、薬局や患者の負担軽減に貢献することを指す。

人手不足が過酷化する薬局などの現場

 トーショーが積極的に自動化設備の開発や提供に取り組む理由として、国内の薬局や病院および薬剤師を取り巻く環境の大きな変化がある。特に顕著に現れているのが薬剤師の人手不足の問題だ。

 その背景には薬剤師国家試験の受験資格が、従来の4年制から6年制課程の卒業資格取得者に引き上げられたことがある(2006年度から)。改正の理由としては、薬学の分野が目覚ましい進歩を見せていることために従来以上に高度な知識が求められているということがあるのだが、難易度が上がったことから薬剤師の不足が深刻化し始めた。

 さらに、もう1つの背景となっているのが、病院の現場の変化である。病院現場で医療の質を求める動きが高まり、患者に対してそれぞれの専門家が1つのチームとして取り組む「チーム医療」化が進んでいる。以前は、薬剤師は薬局で患者ごとに薬を用意する業務が中心だったが、今では患者に適正に薬が処方されているかを臨床の現場で確認したり、患者に向き合って薬の意味などを説明したり、直接患者に向き合う時間を増やすことが求められるようになっている。

photo トーショー 技術企画室 室長の梅田潤一氏

 薬剤師そのものが不足する中で、従来以上の多くの役割が求められるようになってくると、従来業務の整理が求められることになる。そこで「薬品を棚から正確に取り出す」や「患者ごとにトレイに分ける」などの単純作業については、機械に置き換えようという動きが高まってきている。

 これらに応えていくというのがトーショーの取り組みである。「薬剤師が現在抱えている業務には、必ずしも薬剤師の知識や経験が必要でないものもあります。誰がやっても同じであるような作業については、できる限り機械に置き換え、薬剤師には、その空いた時間を活用して知見の生かせる領域で力を発揮してもらいたいと考えています。例えば、より患者に寄り添い、医療の質を高める方向に使ってもらいたいと考えています」とトーショー 技術企画室 室長の梅田潤一氏は述べている。

 トーショーが開発、製造している機器には、錠剤やカプセルなどさまざまな種類の薬を、さまざまな組み合わせで包装する全自動錠剤分包機「Xana」(ザナ)、錠剤やカプセルと比べると包装するのが難しい散薬を一定量ずつ分割し、包装する全自動散薬分包機「io」(イオ)、薬局における注射薬の自動払出装置「UNIPUL」(ユニプル)、さまざまな薬品が数多く置かれている病棟配置薬やオペ室の薬品を管理する「LITERA」(リテラ)などがある。

 この中で、最も自動化が進んでいるのが注射薬払出装置「UNIPUL」だ。UNIPULは1995年の販売開始からその高い機能や信頼性が受け入れられ、現在も数多くの施設に導入されている。処方データに基づき、アンプル、バイアル、輸液ボトル、キット製剤などの注射薬払い出しの他、ラベルなどの帳票類の印字などを、さまざまな機能を持ったユニットを組み合わせて患者単位にセットする。これまで薬剤師が行っていた投薬の準備をオートメーション化することで、注射業務の効率化を全面的にサポートする機能を持っている。

photo 注射薬払出装置「UNIPUL」の外観(クリックで拡大)

 同製品の特徴としては、4分割トレー方式、トレー方式でのさまざまな払い出しが可能なところにある。施用単位払い出しをはじめ、さまざまなバリエーションで注射薬の払い出しができ、顧客の幅広い要望に応える。また、注射薬は処方の変更が多く、病棟へ搬送してから返納されるケースが日常的に起こるが、UNIPULでは、返納薬品の管理に最適な「先入れ、先出し」のできる薬品カセットを採用し、この問題に対応した。さらに、取り外し可能な電子ペーパー式のネームカードを採用。視認性が高く、患者情報や病棟、施用日、「臨時/緊急」など、自由にレイアウトを組むことが可能だ。

photo 取り外し可能な電子ペーパー式のネームカード。自由にレイアウトを変更できる(クリックで拡大)

 最新シリーズである「UNIPUL5000series」では、オペレーターの安全に配慮し、機械災害を防ぐ「危険ゼロ設計」を採用。また、信頼のおける部品とデバイスの採用により、高速で正確な払い出しと優れたメンテナンス性を実現している。さらに、さまざまな機能を持つユニットをラインアップに加え、運用に応じて自由に組み合わせることができる高い拡張性が備わっている。

 梅田氏は「基本性能を高めながら、病院の規模や注射運用にかかわらず柔軟に対応できることをコンセプトに開発を進めました。各機能を個別のユニットとしていることから組み合わせにより注射業務全体をより安全で効率的に運用できるようになります」と述べている。

「柔軟性」を実現した「脱自前主義」

 トーショーではこれらの新製品開発において「信頼性と安定性、高速性の3つをより高めることを重視して取り組んだ」(梅田氏)とする。

 装置が使われる医療および薬剤関連の現場では、信頼性の確保が最重要ポイントであることは今も昔も変わりがない。さらに、病気やけがと向き合う現場であり365日、24時間の対応が基本であり、安定した薬剤の供給を維持するための冗長性も必要だ。さらに、人手不足の影響を含めて、業務を素早くこなすためのスピードも従来以上に求められるようになってきているという。

 これらに対応するために、トーショーが取り組んだのが「自前主義からの脱却」である。具体的な取り組みとしては、電子制御部品などを従来は内製化していたが、外部調達に切り替えた。

 梅田氏は「外部調達をすると短期の視点では費用がかかるように見えてしまいますが、製品ライフサイクルの短期化が進んでいる半導体部品のディスコン対応や問い合わせ、不具合時の調整などの総合的なコストを考えると、信頼性が確保されている外部の部品を調達した方が実質的にはコストを下げられると考えました。われわれの強みでもある“薬にかかわる技術”については自社開発で、差別化を進めたいと考えていますが、そうではない領域は、新たな開発が必要ないところは外部調達で進めるという基本方針を立てました」と考えについて述べている。

 この方針の基、電気制御機器としてメインで採用したのがオムロンの製品である。オムロンのPLC(プログラマブルロジックコントローラー)を採用した他、装置全体のマネジメントにもオムロンのIPC(産業用PC)を用いた。

photo 採用されているオムロンのIPC(クリックで拡大)

 オムロン製品を選択した理由について梅田氏は「最も大きかった理由は、ラインアップが豊富であるところでした。PLCだけでなく、モーター、センサー、セーフティ関連機器、電源など幅広い品ぞろえがありました。各部品で信頼性が確保されている他、組み合わせでの相性などについても検証してもらえます。手厚いサポート体制も含めて総合力の面で採用を決めました」と述べている。

 さらに、機能として大きかったのが、フィールドネットワークとしてのEtherCAT対応である。「医療現場の機器は止まることなく何年間も使い続けるものです。モデルチェンジも数年間は行いません。そのため開発時期で将来を見渡した最新の技術を採用することは必須となります。開発のポイントとして信頼性、冗長性に加えて今後スピードが重視されると見ていた中で、高速性に優れるEtherCATの採用は必須だと考えていました。加えて、今後海外への出荷なども増えると見ており、その意味でもグローバルでの標準的な規格の採用は必要だとも考えていました」と梅田氏は語る。

 当時はEtherCAT対応のPLCはまだ少なかったが、オムロンはいち早くPLCでEtherCAT対応を打ち出しており、その点も「オムロン製品を採用する決め手になった」(梅田氏)としている。

photo コントローラーなどオムロン製品を中心として採用を進めたという(クリックで拡大)

脱自前主義で得られたもの

 メーカーとしては自分たちの手で製品開発を進めたいという思いもあるのが当然ではあるが「脱自前主義により、想定通りの成果が出ています」と梅田氏は語る。

 成果については、従来内製していた時にあった電子系のトラブルについては「半分以下に減りました。その対応の時間を削減できたと考えています」(梅田氏)。さらに、従来は開発していたものが、信頼性の高い部品として納入されることになるので「開発および組み立てのリードタイムも削減できています」と梅田氏は述べている。

 「自動化はもちろんですが、薬局装置に今後より求められてくるのは『柔軟性』だと考えています。1機種で対応できるものを増やすのはもちろんですが、カスタム製品をより早く求められるタイミングで世に出すのかということを考えれば、一から全てを開発するのではなく、できる限り組み合わせで解決していくのが重要だと考えます」と梅田氏は開発の考え方について語る。

 この柔軟な製品作りの取り組みは、同社の強みとなっている。さらに、高い評価を受けている装置のソフトウェアや予防保全などのメンテナンス分野にも力を注ぎ、他社との差別化をさらに進めていく方針である。

 今後の製品開発としては、UNIPULだけでなく、他の装置の自動化にも取り組む方針である。薬剤師や薬局には注射薬以外にも内服薬などもあり、これらの分野の装置は自動化が進んでいない。そのため、顧客からの自動化への要望が寄せられているという。「薬局の負担と共に薬局の待合所で、患者さんが待つ時間をできるだけ少なくすることに貢献できれば、患者さんのメリットにもなります。柔軟性を生かしてこうした現場での課題を解決していきたいと考えています」と梅田氏は述べる。さらに、グローバルでの展開にも積極的に取り組む方針である。既に欧州などでは分包機を展開しているが、今後は他の地域にもさまざまな製品を展開していく方針だとしている。

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提供:オムロン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日