スマート工場化が加速しているが、成果を得るためには多くの課題をクリアする必要があり、1社では難しい。さらに外部の力に頼るとしても、分野が多岐にわたり、こちらも1社に全てをお願いするのが難しい状況だ。そこで重要になるのが、ユーザーとパートナー、そしてパートナー同士が、複数社で協力して取り組む「共創(Co-Creation)」の考え方である。共創で実現するスマート工場成功の秘訣を3社に聞いた。
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの先進技術を活用したスマート工場への取り組みが加速している。多くの製造業が目標としているスマート工場だが、成果を出すまでに多くの障壁を乗り越えていかなければならない。さらにスマート工場ならではの難しさも抱えている。
1つ目は、取り組みの範囲が非常に広くなるということである。スマート工場化で成果を得るためには、製造現場などのOT(Operational Technology)領域での知見や技術だけでなく、IT(Information Technology)領域での知見や技術が必要になり、これらの両面をカバーするのが非常に難しいのである。これはスマート工場化を行う企業は当然だが、パートナーとなる支援企業などでも同様で、これらを1社でカバーできる企業はほぼ存在しない。
2つ目は、グローバル化である。製造業のビジネスは、今やグローバル化が必須となっているが、各地域の状況は大きく異なる。これらの違いの中で、IoT活用などにより通信やデータの取り扱いなども含めて対応していかなければならないのだ。
3つ目が、工場そのものが個別化されているという点だ。カバー範囲が非常に幅広い一方で、1つ1つの工場の姿や生産の在り方は固有のものとなっており、同じ工場というのは世界に2つと存在しない。そのため、ITとOTを組み合わせたシステムのフレームワークなどは構築できても、活用するためにはこうした個別対応を進めなければ成果を得ることが難しい。
これらを背景とし、スマート工場実現に向けて非常に重要になっているのが、「共創(Co-Creation)」の考え方である。これはスマート工場化を進めるユーザー企業が外部のパートナーだけの関係性ではなく、パートナー自身も複数の企業と組み、最適なスマート工場の実現に向けて、足りないところを補っていく必要があるということである。ユーザー企業にとってはこれらのパートナー企業の枠組みに入り一緒に課題解決に取り組んでいくという形になる。
このスマート工場の受け皿として進んだユニークな連携がある。富士通とマイクロソフト、シュナイダーエレクトリックの協業だ。システムインテグレーターとして多くの製造業との継続的な関係を構築する富士通と、クラウドからエッジまで幅広いカバー範囲で製造業のデジタル化を支えるマイクロソフト、そしてエッジ領域でさまざまな機器との連携を実現し「見える化」などを進めてきたシュナイダーエレクトリックという3社がそれぞれの特徴を発揮して実現した、まさに「共創」である。
なぜ、こうした枠組みが実現したのか。また、スマート工場化で成果を得る秘訣とは何なのか。それぞれのキーマンとなる、富士通 エバンジェリスト 及川洋光氏、日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナー事業本部 グローバルパートナービジネス本部本部長 佐藤久氏、シュナイダーエレクトリック インダストリー事業部 営業企画部 EcoStruxureマーケティング マネージャー 川田学氏に話を聞いた。
―― 現在のスマート工場化の動きをどのように感じていますか。
及川氏 富士通はIoTが登場する以前から製造業のITなどの導入を支援してきました。IoTについては、2、3年前までは、生産活動の自動化や効率化など現場レベルでの比較的規模の小さな「見える化」が中心でした。ただ、その規模が徐々に拡大してきたと感じています。従来は現場など部分最適となる取り組みが多かったのですが、今は工場長や経営層クラスが活用する動きになってきており、そういう広がりは感じています。
川田氏 日本においてシュナイダーエレクトリックが得意としてきたのは、Pro-faceブランドで展開しているHMIと呼ばれる機械の操作表示を行う機器ですが、製造業の自動化の結果、現場に人がどんどん少なくなってきており、「現場の機械そのものの見える化」ということの意味が小さくなってきています。そこで、機械から機械に情報を伝えたり、離れた場所に情報を伝えたり、多くの情報を集約して伝えたりするIoTへの取り組みが必須となってきたと感じています。シュナイダーエレクトリック全体としては、EcoStruxure(エコストラクチャー)と呼ばれる全体ソリューションを展開していますが、特に日本においては、顧客全てのご要望に応えきれていませんでした。
佐藤氏 情報システムやオフィスITなどを中心としてきたマイクロソフトにとって、スマート工場は新たな成長領域であると見ています。マイクロソフトとしては、日本のデジタル市場の規模を2倍以上に拡大したいと考えており、そのポイントとなるのがOTとITを融合させたスマート工場の“伸びしろ”だと考えます。実際にスマート工場化をする中で、従来関係を構築できていなかった企業や領域からの話も増えてきており、手応えは感じています。しかしマイクロソフトの弱みは、製造現場の“ラストワンマイル”にタッチできていないことです。そこについてはパートナーと組んで進めていく必要があると感じていました。
―― 自社およびそれぞれの強みと弱みについてどう見ていますか。
佐藤氏 先ほども述べた通り、マイクロソフトにとって、共創は大前提の取り組みとなります。私たちの弱みは、シュナイダーエレクトリックが提供しているような「OTのラストワンマイル」や、富士通が築いてきたような製造業との「緊密な関係性」を持たないことで、そうした部分をパートナーシップで補っていく必要がありました。逆にそうしたパートナーに対してマイクロソフトがどんなことで貢献できるかというと、グローバルに分散しているOTやITの情報基盤を、クラウドプラットフォームである「Microsoft Azure」を使ってシームレスにつなぐことができるという点があります。また、データ活用という観点でも進化を続ける「Microsoft Azure」の機能を自由に活用できるという利点もあると考えます。
マイクロソフトにとっての富士通は、「Microsoft Azure」の中でも、スマート工場実現のためのコアとなる「Azure Sphere」「Azure IoT Edge」「Azure Stack」「Azure AI」という4つのサービス領域全てをカバーすることができる数少ないSIベンダーです。このようなオールラウンダーはグローバルでも片手で数えるほどしかなく、さらに製造業のニーズを詳細まで把握しているため、幅広い領域での協力が可能になります。
一方で、私たちから見たシュナイダーエレクトリックの強みも明確で、それはマイクロソフトにはないエンドポイントを持っているということになります。デジタル変革の意味はデータ活用をより便利で簡単にしていくということで、産業全体の効率化や付加価値向上を実現することです。ただ産業の情報の多くはOT領域にあります。こうした発想からも、シュナイダーエレクトリックが持つOTのエンドポイント情報はわれわれにとっては大きな価値だと考えています。
川田氏 シュナイダーエレクトリックのPro-faceの強みはやはり世界的にも高シェアを確保してきたHMI機器での実績や知見になります。現場の環境ではさまざまな機器やシステムが稼働しており、これらの相互接続性は、残念ながら高いとはいえません。Pro-faceのHMI機器では、オープン性を重視し、現場におけるさまざまな機器と連携することで、これらの複雑な現場システムをリアルタイムに把握できる点が特徴になります。さまざまな現場情報を一元的に集めることを得意とする一方で、より上位のITシステムとのオープン性に乏しかったため、集めたデータをどう分析し、新たな価値を生み出すかという点が、今回の共創により実現したい点となります。
こういう点からすると、われわれの目から見た富士通の魅力は、ITとOTの両方の部門や担当者と緊密な関係性を持ち、アプローチできるルートを持っていることです。絶大なブランド力を持つ富士通とパートナーシップを結ぶことで、シュナイダーエレクトリックのビジネスチャンスも大きく広がります。
一方でマイクロソフトについては、IT系ベンダーでありながら、モノづくりの現場までカバーするソリューションを保有している唯一の企業であるという点があります。実際、多くの製造現場でWindowsベースのシステムが構築されていますし、組み込み機器の分野でも多くの実績があります。さらにこれらのエッジ側の機器と、Microsoft Azureが円滑につながるというのが大きいのです。Microsoft HoloLensのような新しいデバイスもあり、マイクロソフトと協業することで、先進テクノロジーへの対応も可能になる利点があります。
及川氏 富士通は顧客としっかり手を携えて、必要としている最適なシステムを一品一葉で作り上げていくことは得意です。しかし、そこで課題となるのがスピード感です。より短いスパンで、なおかつより安いコストで、求められる成果を確実に出してくためには、グローバル規模でデファクトスタンダードのソリューションを活用し、そのベストプラクティスを提供することが必須となります。その流れで、マイクロソフトとの協業が進みました。
協業においてまず挙げておきたいのがMicrosoft AzureにおけるPaaSの魅力です。今後、製造業のニーズに応えていくためには「より短いスパン、より安いコストで、求められる成果を確実に出してく必要がある」とされています。Microsoft Azureは、必要な機能をAPIで呼び出し、組み合わせることで、目的のソリューションを簡単に構築することができます。さらに、そこにはOffice 365や、複合現実テクノロジーの「HoloLens」などを連携させることも可能となります。顧客と向き合う中で、ソリューション提案の“引き出し”が増えるのは非常に大きいことだと考えます。
一方でシュナイダーエレクトリックの一番の魅力は現場情報の収集にあると考えます。製造現場に設置して電源を入れれば、すぐにデータ収集を開始することが可能となるというのは、非常に大きな価値となります。特にPLCに関して国内外の主要な製品に対応するとともに、GUI上で可視化するという点で圧倒的なアドバンテージを誇っています。シュナイダーエレクトリックと手を組むことが、現場のデータと連携する1番の近道だと考えたのが協業の理由となります。
――スマート工場を見据えた3社の共創ができたことで、今後はどのような活動を展開したいと考えていますか。
川田氏 複雑な現場システムを、できる限り分かりやすい形で見える化することが、Pro-faceの一貫したミッションです。IoTでは、どこから、何から、手を付けたらいいのか分からない、開始してみたけれど、思うような成果を上げられないという製造業が少なくありません。また、私たちも国内において単独ではそうした顧客を支援しきれませんでした。富士通、マイクロソフトとしっかり手を携えることで、これまで困難だったOTからITまで全方位で包括したサポートを提供し、顧客のデジタル変革を後押ししたいと考えています。
及川氏 富士通が目指すのは“Co-creation for Success”です。顧客が成功するということが共創の本当の価値だと考えます。シュナイダーエレクトリック、マイクロソフトとのパートナーシップは、まさにこのコンセプトをグローバルで体現するものです。世の中があっと驚くようなスマート工場を3社がスピード感をもって実現し、事例化して広く公開し、デジタルトランスフォーメーションの新しい流れを作っていきたいと思います。
佐藤氏 マイクロソフトとしても、OTとITをつなぐ新しい価値を提供し続けていきたいと考えており、その手段としてこの3社の共創があります。その先で何を目指すかといえば、伝統ある日本の製造業を、再びグローバルで最強のカードに復権させることが私たちの共通の目標です。現在は第4次産業革命ともいわれる大きな変化にありますが、変化があるからこそ、大きなチャンスも生まれています。日本の製造業にももう1回大きなチャンスが生まれており、これらをつかめるように3社で支援したいと考えます。
さて、ここまで共創を進める3社のそれぞれの位置付けや実現したい将来像などについて見てきたが、この枠組みを実現したことで進化を遂げたのが、富士通が展開する「FUJITSU Intelligent Dashboard」である。このソリューションは、工場の現場から取得した、機械の稼働状況や、製品品質、プロセス効率性、エネルギーコストなどの情報を統合して表示することで、現場だけでなく、工場レベルや企業レベルでの情報の見える化を実現するものである。
この見える化を実現するためには、まずは、現場のデータをより詳細にあらゆる機器から取得できなければならない。従来はコントローラーなどが限定されるケースや、取得したくてもできない機器のデータなどもあったが、シュナイダーエレクトリックとの協業により、求めるほとんどの機器から円滑に負担なく、情報を収集できるようになり、導入への負担を軽減することができるという。
これらを通して、集めたデータは膨大なものになるが、PaaSとしてMicrosoft Azureを活用することで、システム構築の負担や期間を軽減できる。また、複数工場など遠隔地やマルチデバイスでも情報を確認できるというクラウドの利点を活用できる他、次々に進化を続けるMicrosoft Azureの新たな機能を次々に使うことが可能となる。例えば、先進のAI(人工知能)関連技術やMR(複合現実)なども簡単に活用可能となる。まさにデータを活用して新たな価値につなげることを短期化できるというわけである。さらに、クラウド環境上で進化し続けるために、分析などの機能も次々に最新のソリューションを活用することができる。
長らく自前主義の傾向が強かった日本の製造業だが、第4次産業革命などの変革の流れに合わせて、オープンイノベーションなど、外部の力をうまく生かす方向性も生まれ始めている。そういう意味では発想をさらにもう一歩進め、スマート工場化についても実現のために1つのパートナーに頼るというものではなく、こうしたオープンイノベーション型の枠組みを生かすという発想が重要になるのかもしれない。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月13日
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