IoTの進展により工場の見える化ソリューションなどに大きな注目が集まっているが、多くの製造現場にとっては機器のコストやノウハウなどの点で、まだ難しい場合が多い。そのハードルを一気に下げる可能性を示すのが、東京エレクトロンデバイスが展開するBluetoothを活用した“簡単IoTキット”である。
多くの製造業がスマート工場化への取り組みを進めているが、その最初の一歩と位置付けられているのが、“見える化”である。しかし、実際にはその最初の一歩でさえもつまずくケースも多い。そのハードルを下げようとさまざまな取り組みを進めているのが東京エレクトロンデバイスである。
半導体製造装置大手の東京エレクトロンのグループ会社である東京エレクトロンデバイス(以下、TED)は、技術商社として高度な技術サポート力と徹底した品質管理体制を武器に成長してきた。一方、半導体の技術開発を積み重ねる中でメーカーとしての機能も発揮するようになり、「inrevium(インレビアム)」ブランドのもと、自社開発商品や設計や量産受託サービスの提案を加速させている。
そしてこれに続く3つ目の事業の柱に発展させるべく注力しているのが、クラウドIoTソリューションである。マイクロソフトとのCSP(Cloud Solution Provider)プログラムに基づいた協業に端を発するもので、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を組み合わせることでIoTシステム構築を支える包括的なソリューション提供を進めている。また、Microsoft AzureをプラットフォームとするIoTプロジェクトのコミュニティーである「IoTビジネス共創ラボ」でもTEDは幹事を務めており、500社を超える会員企業とのコラボレーションを通じて、IoTおよび関連ソリューションの可能性を拡大することを目指している。
ただ、TEDがターゲットとする製造業全体を考えれば、IoTはまだまだ発展途上の市場だ。スマートファクトリーを照準とした高度なIoTシステムの構築を進めている先進企業もあれば、手探りを始めたばかりの企業もある。
TED EC BU クラウドIoTカンパニーのカンパニー バイスプレジデントである西脇章彦氏は、「IoTに関してはさまざまなステージの顧客が混在しているのが実情です。その意味では、まず身近なところにあるデータをクラウドに上げることから始め『IoTとはいかなるものか』を実感してもらえる仕組みを提供することが、市場拡大のためには欠かせません」と語る。
そうした中で注目されたのが、2017年1月より発売を始めた「TED Azure IoT PoCキット」である。Texas Instruments製マルチセンサータグ、アットマークテクノ製Armadillo-IoTゲートウェイ G3開発セット、NTTコミュニケーションズ OCNモバイルONE(プリペイドSIM)、Microsoft Azureクラウドサービス、セットアップガイドを1つにパッケージングしたもので、IoTを簡単かつスピーディーに体験できることを訴えた。
さらにTEDでは、2018年11月初旬から、IoT活用のハードルを下げる、新たなIoTスターターキットの販売を開始する予定だ。それが、Cassia NetworksのBluetoothルーターを用いた「Cassia BLTキットfor Azure」である。
Cassia BLTキットfor Azureの特徴は、その名の通り、BLE(Bluetooth Low Energy)を用いて、さまざまなデバイスからデータを集めることにある。
ちなみにBLEとは2009年にBluetooth4.0として公開された通信規格で、ボタン電池1つでも数年間の駆動が可能な低消費電力と低価格を実現したことを最大のセールスポイントとしている。実際、BLE対応デバイスの普及は著しく、全世界で既に80億台が普及しているという。Bluetooth無線技術の標準化を推進する業界団体Bluetooth SIGによれば、2017年の単年度だけを見ても36億台のBLE対応デバイスが出荷され、2018年度の出荷予測も39億台と普及スピードはさらに加速する勢いだ。
「無線LANやモバイル通信でもさまざまな新たな技術が登場しているものの、工場内に分散する多様な機器からのデータ収集を想定した通信手段の標準規格はまだ決まっていません。そうした状況を考慮すれば、既に身近なところに存在しているBLEデバイスをIoTに活用しない手はありません」と西脇氏は強調する。
もっとも、にわかには納得できないのも事実だろう。BLEを含めたBluetoothの一般的なイメージは、「通信距離が短く、せいぜい10m程度しか届かない」「1対1でしか通信できず、ケーブル接続の代わりにしかならない」「ローカルで利用するもので、リモート管理ができない」といったものだからだ。無数のデバイスからのデータ収集を前提とする製造業のIoTシナリオに適用するのは不可能と諦めてしまうのも無理はない。
こうしたBluetoothの既成概念を払拭し、革新を起こしたのが、米国シリコンバレーに本社を構える中国発のベンチャー企業Cassia Networksが開発したBluetoothルーターなのである。
TED EC BU クラウドIoTカンパニー エンベデッドソリューション部 東日本営業推進グループのセールスプロフェッショナルである加藤勝広氏は、「通信環境がよければ300mを超える距離でも通信を行うことが可能です。加えて最大40台のデバイスを同時接続することができます。もちろんBLE規格を独自に改良したわけではありません。基本的にCassia Networksの高度なアンテナ技術と信号処理技術、ノイズリダクションの技術によって実現されたものであり、既存のBLEデバイスを一切変更せずにネットワークに接続し、双方向通信を行うことができます」と訴求する。
合わせてCassia NetworksはソフトウェアベースのIoTアクセスコントローラーを通じて集中管理機能を提供し、Bluetoothルーターとクラウド間の通信の暗号化、BLEデバイスの位置の計測やローミング、ロードバランシング、エッジコンピューティングなどの機能を提供する予定だという。
なお、各BLEデバイスから収集したデータやBluetoothルーターのステーツはIoTアクセスコントローラーが標準提供するダッシュボードで確認できる他、SDK(ソフトウェア開発キット)を用いてMicrosoft Azure上のさまざまなPaaSで提供されている機能を組み合わせながら、ユーザーが求める可視化/分析アプリケーションを開発することが可能だ。
Cassia BLTキットの組み合わせについて、西脇氏は「BluetoothおよびCassia Networksの通信技術を活用することで、簡単に手軽にデータの収集までは行えるようになります。さらに集めたデータの活用についてはMicrosoft Azureを組み合わせたことでデータ活用の成果をより短期で出せるようになります。PaaSとしてのさまざまなツールが使用できる他、SaaSですぐにデータ活用に入ることもできます。とにかく簡単に手軽にIoT活用の感触をつかんでもらうことが重要です」と述べている。
Cassia NetworksのBluetoothルーターおよびIoTアクセスコントローラーを用いて構築された、さまざまなIoTシステムのユースケースを見てみよう。
ヘルスケアの分野では、患者や要介護者が身に付けているウェアラブル機器から血圧や呼吸回数、心拍数などの数値を集めてリモート管理したり、転倒を検知したりするコネクテッドヘルスシステムなどで活用されている。さらに、病院内の各所に2000台を超えるBluetoothルーターを配置し、病棟や病床を移動する機器の所在をリモートで一元的に把握するアセット管理の事例もある。
また、中国のある私立学校が推進するスマートキャンパスプロジェクトでは、キャンパス内に数千台のBluetoothルーターが配置され、リストバンド型のBLEデバイスを装着した約4000人の生徒の登下校確認や出席管理、健康管理(バイオデータのモニタリング)、行動追跡などが行われている。
グローバルな重電メーカーであるABBも顧客先で稼働する自社のさまざまな機械にBLEデバイスを装着し、リモートで状態監視を行うことで故障が起こる前に兆候を察知して対処する、予測的メンテナンスのシステムの実証を進めているという。
同様のIoTシステムはこれまでもスマートフォンやSIMカードを装着した専用デバイスなどを用いて実現されてきたが、「それらに比べてBLEを用いたIoTシステムは、デバイスの初期コストやランニングコストを数分の1に削減するという圧倒的なインパクトをもたらしています」と加藤氏は価値を強調する。
上記のようなユースケースを参考にすると、日本の製造業の現場においてもCassia BLTキットfor Azureが普及していく可能性は非常に大きいといえる。実際、TEDが試験的に打診している多くの製造業が高い関心を示しているようだ。
TED EC BU クラウドIoTカンパニー エンベデッドソリューション部の梶原隆志氏は、「データ収集の手段としてこれまで選択肢として捉えていなかったBLEが使えるという話に、多くの顧客が身を乗り出してきます。そして工場内で働く作業者やさまざまモノの“見守り”にこの仕組みを利用できないか、というご相談をよくいただきます」と語る。
例えば、夏場の熱中症対策には多くの製造業が頭を悩ませており、ポイントクーラーや冷水器を設置したり、休憩所を用意したりという対策を行っている。ただ、熱中症は個人の体調に大きく左右されるため完全に防ぐことは難しい。そこで先述のスマートキャンパスプロジェクトでも用いられたようなリストバンド型のBLEデバイスを作業者に装着させれば、身体的な負担が大きい過酷な環境のエリア内でどれくらいの時間にわたって働いているか管理する他、呼吸回数や心拍数などのバイタルデータの変化を監視して体調の悪化を防ぐことが可能となる。
また、共用している治工具や複数の製造ラインをまたいで移動する仕掛品などの管理にIoTの仕組みを導入したいというニーズにも、Cassia BLTキットfor Azureならば容易に応えられる。「市販のBLEタグを管理したい対象物に取り付けるだけで、すぐにクラウドと連携したデータ収集が可能となります。今回のキット付属のセンサーを使えば標準のダッシュボード上で可視化するだけの簡単なIoTシステムなら、1日もあれば完成します」と梶原氏は語る。
Cassia BLTキットfor Azure自体についても「2万円のMicrosoft Azureの利用料金(※)を含め、1セット9万9800円での提供を予定しています」と西脇氏は語っており、これならば中小規模の製造業でも比較的容易にトライアルを開始できそうだ。
(※)2万円の利用期限は購入月を含めた3カ月後の月末まで
一方では、BLEのさらなる進化も進んでいる。次期バージョンとしてリリースされる予定のBluetooth 5規格では、これまで1Mbps固定とされていたBLE に2Mbpsの倍速モードが追加される他、メッシュ機能が取り入れられて通信可能距離は従来の約4倍となる。特にペアリング不要の一方向通信(Connection less broadcast)については容量が従来比約8倍になることが示されている。
Cassia NetworksのBluetoothルーターもBluetooth 5規格に対応することが既に発表されている。アンテナ技術や信号処理技術、ノイズリダクション技術などのアドバンテージも、そのまま新しいBLE環境に生かされるのだ。そうなるとBLEは、一気にIoTデバイスとルーター間通信の“主役”に浮上するかもしれない。
今後に向けては「IoTビジネス共創ラボのメンバーをはじめ、さまざまなパートナーと協業しながら、Microsoft Azure上での業種別、用途別の可視化アプリケーションの拡充にも注力します」と西脇氏は新たな戦略を示している。Cassia BLTキットfor Azureから始めるIoTシステムは、データを収集するBLEデバイスの足回りと、ビジネス視点に立ったアプリケーションの両面から継続的な発展を遂げていくことになる。
IoTをより安価に、Bluetooth通信の制約に捉われないシステム構築の方法は?
安価なIoTシステム構築手段としてニーズが高まる一方、通信距離や接続数など制約も多いBluetooth通信。そこで注目されているのが、従来の制約を克服し、かつBLEデバイスのセンサー情報を見える化するIoTシステム構築キットだ。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年11月22日