―― 今完全ワイヤレス型イヤフォンがブームとなっていますが、NFMIは接続の安定性アップにはキラーテクノロジーだと思うんです。ただ、技術用語としてNFMIって、読みにくいというか、発音しにくいんですよね(笑)。NXP社内でもよく使う言葉だと思うんですが、これ、普段はなんと読んでいらっしゃるんですか?
平賀浩志氏(以下、平賀) いや、普通に「エヌエフエムアイ」と(笑)。ただ弊社の商標としては「MiGLO(ミグロ)」という名称で訴求しています。技術名称がNFMI(Near Field Magnetic Induction)となりますね。採用製品ではMiGLOの名称を使って頂いているところと、単にNFMIとおっしゃっているところがありますが、技術的には全く同じものになります。
―― 今NFMIを研究開発している企業は、NXPだけなんでしょうか。
平賀 競合他社は今のところないですね。と言いますのも、弊社でパテントを取っておりますので、なかなか参入は難しい部分があるかもしれないですね。
―― そもそもこの技術、オーディオ向けの技術としては最近急速に出てきた印象がありますが、どういう経緯で生まれた技術なんでしょう。
平賀 われわれはフィリップス(Philips)から分社したという経緯がありまして、大本の技術の源流はフィリップスの医療機器部門にあったようです。補聴器の音を取り込んで、聞こえやすくするためのものだったと。10年ほど前から開発が始まったと聞いています。
―― イヤフォンの左右間を伝送する技術が、どうして補聴器に必要なのでしょうか。
平賀 私も当初のことは存じ上げませんが、右と左で集音した音を、それぞれ分離して聞くのではなくて、バイノーラル(人間の頭部による音響効果を含めて臨場感を持たせること)と言いますか、より自然に周囲の音が認識できるように、右と左を同調させて聴かせるということが重要だったようです。
―― そうした補聴器の技術が、音楽用に転用されていくわけですが、これは何かブレークスルーがあったんでしょうか。
平賀 音楽の再生用途としては、2016年にドイツのブラギ(Bragi)というメーカーさんが「Dash」という製品で採用したのが最初の例となります。ブレークスルーという意味では、やっぱり帯域の問題が解決したところが1つあるんじゃないかと思います。
われわれの半導体チップとしては「NxH22XXシリーズ」が徐々に性能を上げていきまして、初期の「NxH2280」ではコーデックがG.722で音声周波数が16kHzまでだったものが「NxH2281」「NxH2261」と進むにつれ、コーデックはSBCにも対応、帯域も20kHzまで拡張してきました。ビットレートとしては、論理値596kbpsとなります。ただし片側から片側へ伝送するだけですので、ステレオ2チャンネルではなく1チャンネルでこのビットレートが使えるということですね。
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