海外展開に早期から取り組んできた日本の製造業にとって「グローバル化」は長年取り組んできた課題である。しかし「今求められているグローバル化は過去のものとは異なる」と、タタコンサルタンシーサービシズでエンジニアリング&インダストリアルサービス事業部門副社長兼グローバルヘッドを務めるレグー・アヤスワミー氏は指摘する。
インドTATA(タタ)グループのITコンサルティング企業であるタタコンサルタンシーサービシズ(TATA CONSULTANCY SERVICES、以下TCS)は、米国ゼネラルモーターズや米国GEをはじめとした多くのグローバル製造業を顧客に抱えている。2012年2月にはITサービス事業会社「日本TCSソリューションセンター」を三菱商事と設立するなど、日本企業の海外展開の推進支援を進めている。
同社が日本企業の“グローバル化”において重要性を訴えるのが「新興国市場の視点」だ。“リバース・イノベーション”などで注目を集める新興国視点での製品開発をどのように実現すべきか。TCSエンジニアリング&インダストリアルサービス事業部門副社長兼グローバルヘッドを務めるレグー・アヤスワミー(Regu Ayyaswamy)氏に話を聞いた。
MONOist TCSの製造業向けの取り組みの概要を教えてください。
アヤスワミー氏 TCSはITコンサルティング企業で、製造業向けでは主に、製品設計、R&D、エンジニアリング関連のコンサルティングとソリューションを担当している。自動車、航空・宇宙・防衛、産業機械、エネルギー設備、ハイテク・通信、医療機器の6つのセグメントでサービス展開を行っている。
主に提供するサービスとして、製品開発期間の短縮、イノベーション、グローバル展開などの支援を行っている。特に新興国での製品展開のサポートでは多くの実績を持つ。
MONOist 日本の製造業の現状についてどう見ていますか。
アヤスワミー氏 日本の製造業は、技術、エンジニアリング、製造などの面で卓越した成熟度を誇っている。欧米などのマーケットでは既に大きな実績を残しているが、今起こっていることは成熟している先進国だけを見ていればいいというものではない。多様に成長する新興国を含めたグローバル化が求められている。この新しいグローバル化を推進する中では、多くの日本企業に課題があると見ている。
新興国市場を攻略するには、見極めなければならない3つのポイントがある。それは人口動態などの「消費者の属性」と「機能」と「コスト」だ。これらのポイントを最適な形で組み合わせて製品投入をしなければならない。先進国の製品をそのまま新興国市場に投入しても多くは成功しないだろう。
例えば、TCSが関わったケースでは、あるグローバル医療機器企業の手術用ステープラーの例がある。この企業ではインドへ手術用ステープラーを展開することを検討していたが、従来先進国市場で展開していた製品を持ち込もうとするとコストが高くなりすぎるという問題を抱えていた。そこで、TCSではその企業と共に顧客の声をインタビューして、マーケットのニーズを把握しようとした。
そもそも先進国の手術用ステープラーのコストが高いのは、ステープラーそのものが衛生面の問題から使い捨てになっていたことが要因の1つだ。豊かな先進国市場では、それでも問題ないが、新興国ではそのままでは難しい。TCSでは、これらの顧客ニーズから、手術用ステープラーを再設計し、刃を殺菌して再利用できるような形にした。これによりコストを大幅に削減することに成功し、新興国市場でも展開できるようにすることができた。
同様の問題を日本の多くの製造業が抱えている。設計プロセスの中でさまざまな機能を加えていくというような設計方法があるが、先進国では許されても新興国では許されないケースが多い。コストに対して影響が出ないように機能を設計するという“フルーガルエンジニアリング”の考え方が重要だ。
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