革新者に共通する着眼点の1つが「ニーズを探すのではなくウォンツを創造する」ということだ。
「ニーズは表面的で今見えている価値。誰でも考えられるためコモディティ化(一般製品化)し、最終的には価格勝負になる。今見えていない価値(=ウォンツ)を創造することが必要。もしウォンツを創造できればユーザーにとって『他に代わりのないもの』を作り出すことができる。新たな価値創造が可能な他オンリーワンの価値を訴求でき、ビジネスとしての競争力も保てる」と齊藤氏は語る。
例えば、インタビューを行った「東京R不動産」では、駅からの距離や広さ、間取りなどの条件で価格が決まっていた不動産業界に新たな価値観を持ち込み、倉庫やレトロな建物などに、ストーリーを付加して販売する一種のキュレータービジネスを行っているという。高度成長期以来の都市部への大量人口流入の反動で、大量の中古物件が発生しているが、従来型のスクラップ&ビルド型のビジネスモデルではなく、付加価値を作るストックリノベーションビジネスへの転換を図っているという。
「従来不動産はスペックで価格が決まっていたが『レトロ』や『秘密基地風』や『湖が美しく見える』などストーリーを生み出しそれに沿った物件にリノベーションすることで、求める人にとっては唯一の物件になることができる」と齊藤氏は話す。
またウォンツを求める考え方について齊藤氏は「よく『社会問題を解決するところから考えてウォンツを求めなさい』というようなやり方が語られているが、今までに話を聞いた革新者たちの中で、そのアプローチで成功した人はいない」と指摘する。
社会課題から入る考え方は企業の在り方としては正しいが、非常に理性的なもので、新たな方法を考えようとしても必ず行き詰まり、独自性のあるものが生まれないからだ。「成功している革新者たちは間違いなく自分の好きなものややりたいことから入っている。そこで成し遂げたものを社会的課題に後で結び付けるというアプローチだ。まずは個人的な欲求からスタートしないと、現状を打破する突破力は生まれない」と齊藤氏は語っている。
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