洋上風力発電とは、海岸から数kmの海上に風車を建てて発電する方式で、欧州を中心に広がっている。ではなぜ欧州で、洋上なのか。理由はいくつかある。
一般に欧州における風力発電所の規模は、日本のように小ぢんまりと10基20基の風車が建つようなレベルではない。1カ所に100基レベルで建つものがざらにある。当然、それに見合うだけの土地が必要だが、風力発電の場合、土地があればどこでもいいというわけではない。効率のよい発電、設備の安全性を考慮するならば、安定した風向、風量が必要だ。
そのような条件のいい場所は、陸地では飽和しつつある。そもそも、欧州は高緯度に位置する国が多く、偏西風が強く吹くため、風力発電に向いた条件がそろっている。とはいえ、周囲に山や建物などがあると気流が乱れるため、風力発電に向いた土地は限られてくるわけだ。
一方、海上であれば周りに障害物が何もないため、風量が陸地より多く、風向も安定するというメリットがある。そもそも風の運動エネルギーは、風速の3乗に比例するため、ちょっとでも風速が高ければ、得られるエネルギーも跳ね上がる。
加えて欧州の海は、遠浅の海岸が多く、陸地から相当離れても着床型の建造物が作れる利点がある。また、内海が多く波のうねりが少ない、台風のような大型熱帯性低気圧が発生しないというメリットもある。
このような地理的条件に加え、技術的条件もいい。というのも、1980年代からイギリス、ノルウェー、デンマークなどに囲まれた北海の油田開発が進んだため、それらの国では海洋建造物の構築技術が発達した。技術者も多く、洋上風車の建設に使える建造船も多く所有している。
その北海油田が近年では衰退が始まっており、労働力が余っていること、さらに従来北海油田を開発してきた油田会社が、新エネルギー産業として洋上風力発電の開発に転換しつつあることなど、人的要因もマッチしている。
現在、洋上風力発電の世界で「ぶっちぎり」にトップを走るのが、イギリスである。これは北海油田の開発に最初に着手した実績と、最も早く保有油田が枯渇することと無縁ではないだろう。
ところがイギリスには、風力発電機のメーカーがない。当然国外メーカーからの買い物になるわけだが、製造工場をイギリス国内に作るという条件で、国内雇用を創出するなど、発電だけではない経済政策と組み合わせている。
さらにイギリスでは、国の計画として期間と場所を3つ指定し、それぞれの計画に基づいて洋上風力発電の構築を進めているところも大きい。
フェーズ | 発電能力 | 期間 | 主力機 |
---|---|---|---|
Round 1 | 1.2GW | 2003〜2010 | 2.0~3.6MW |
Round 2 | 4.9GW | 2010〜 | 3.0〜3.6MW |
Round 3 | 32GW | 2015〜 | 5.0〜7.0MW |
洋上風力発電は、風力発電のベストな解のように見えるかもしれないが、陸地での発電にはないハードルが3つある。1つ目は、風車の土台に掛かるコストが陸上の比ではないという点である。
いくら遠浅とはいっても、陸地に近いところが次第に埋まっていけば、いずれは沖合に出ることになる。沖合に出れば、いくら遠浅といえども設置場所はそれなりの水深になる。それだけ土台の工事は難しくなり、コストがかさむ。
高いコストを掛けて土台を作るならばそれだけ多く発電したいということになるわけで、風車が巨大化していくのは避けられない。イギリスの計画を見ても、主力機のサイズが次第に大型化していくのは、それだけ海岸からより遠い沖合に出て行くという意味でもある。
現在の主要な風車の発電能力は2.0〜3.6MWクラスである。それ以上の発電能力を求めて巨大化するならば、また新たな技術開発が必要になってくる。
もっと沖合に出て行けば、もう着床型で土台を作ることができなくなる。そうなると、風車を海上に浮かせる必要がある。これを「浮体式」という。浮体式洋上風力発電はまだ実証実験段階にあり、実用化は先となる見通しだ。
2つ目は、風車そのものにも、洋上ならではの工夫が必要という点だ。まず塩害に強いという条件は言うまでもないが、さらに陸上型よりも高い信頼性が求められる。それというのも、海上にモノがあるので、故障しても簡単に修理・交換などができないからだ。
3つ目は、漁業権の問題である。沖合で風車が林立すれば、工事期間も含めてそのエリアでは漁業ができなくなる。それに対する補償をどの程度行うのか。さらには、欧州は環境負荷に対する条件が非常に厳しい。環境アセスメントのために、海洋生物の生態系や、設置による影響などについて綿密に調査する必要がある。
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