日本企業の中国進出を支援してきたベンダ企業が見た中国本土の製造業事情とは? 日本企業、中国企業の違いや市場の変化などを事例を交えて紹介していきます。
今回、筆者は世界ナンバーワンの生産実績を誇る注サンテックパワー(太陽電池製造)のCIOである丘 立涛氏に会う機会を得ました。本稿の前半ではその概要を掲載いたします(通訳を介して会談したため、多少のニュアンスの違いはご勘弁ください)。
加えて、これまで、当社製品をご利用いただいた日系製造業のリーダークラスの方々から、各社のサプライヤ(数百人クラスの工場)の現状をヒアリングしてきてほしいとの要望を受け、10社を超える工場をヒアリングした結果も本稿で報告させていただきたいと思います。
注:米国の調査会社アイサプライが2009年8月10日に発表した調査結果によると、太陽光パネル生産量世界1位とされている。リンクは調査内容を報道したロイターの記事。
サンテックパワーのCIOである丘 立涛氏はオーストラリア国籍の華僑です。IT業界での優秀な業績が認められ、中国ERPワールドで「2006年度管理ソフトウェアTop10優秀マネージャー」を受賞、2009年度中国IDCおよびITマネージャワールドに「最も価値がある優秀CIO」として評価されたこともあります。オーストラリア、イギリスでの情報処理関連の資格を持ち、中国では工商管理マスターの資格も取得しています。
サンテックパワーが世界中の工場のITシステムを統合するに当たり立てた基本的方針は、極めて明快なものでした。
丘氏によると、まず、ものを作り利益を上げることを生業(なりわい)とする製造業において、財務会計システムの統一化は欠かせません。この部分を、グローバルに対応できる機能を持つERPで統一します。
おのおの異なる生産方式を支援する生産管理システムに関しては、新工場以外、現状の構築済みのシステムを利用させています。
コミュニケーションシステムについては、言語を英語に統一するのみで、現在各国で使用されているメールシステムは変更しないそうです。
丘氏は、おそらくシステム変更などに伴う現場の混乱リスクを最小限に抑えることを目指していると思われます。これらの方針に従えば、当面の現場の混乱は防止できます。
ただし、情報システム側としては、固有の既存システムと世界共通基盤のITシステムとの間には、インターフェイスを開発しなくてはなりませんが、製造業のITシステムはあくまでも本業の生産活動を支援する存在であり、サンテックパワーとしては、ITシステムによる製造現場の混乱をよしとしない考えも持っているようです。
買収対象となった同業他社が持つ有益なシステムに関しては、それを全社に展開することもいとわないラディカルさも持ち合わせています。
その1つの例として、同社のCRMシステムが挙げられるでしょう。
筆者がサンテックパワー本社にお邪魔したときには、世界中に分散する同社のERPシステムを統括するために社内に用意されたデータセンタの前に、顧客からのクレーム管理システムがあり、毎時間、顧客からコールセンタに入るクレームの内容・対応の緊急度・対応の内容などがひと目で分かるようになっていました。
これらは、日本や欧米の大手メーカーの多くが実現している取り組みですが、昨年(2009年)当社が生産スケジューラを導入した複数の大手中国民営企業の中では見られなかったものです。さらに、彼らは意欲的で、これらクレーム対応情報のデータベースをナレッジシステムへ昇華する取り組みも進んでいるそうです。
今年(2010年)に入って、中国製造業による日本の製造業の買収が多数発表されましたが、いまとなっては「中国の企業=国営企業で顧客満足や営業活動にうとい企業風土である」という固定観念は捨て去らなくてはならないようです。
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