製造業を取り巻く厳しい経営環境の中で、高い次元のQCDを達成するにはITツールによる業務支援が不可欠である。本連載はPLM、ERP、SCMなど製造業向けの代表的な業務支援ソフトウェアの特徴をレポートしていく。
フランスに拠点を置くダッソー・システムズは、世界で最も環境意識の高いヨーロッパ企業らしく“エコ・デザイン”を企業メッセージとして打ち出した。それを実現する機能の1つが今回紹介する「ENOVIA V6」に搭載されたビジネス・プロセス・アプリケーション「Materials Compliance Central」である。2008年9月9〜10日に東京・台場で開催された「ENOVIA Customer Conference Asia Pacific 2008」で明らかにされたENOVIA V6の概要と環境コンプライアンス(法令順守)支援機能をお伝えしよう。
同社では、同一アーキテクチャ上で各製品群がシームレスに稼働するよう製品を提供しているため、個別製品のリリースアップ管理のほか、製品およびソリューション群もアーキテクチャの進化に伴いバージョンアップするよう管理されている。最新の世代は2008年1月に発表されたバージョン6(以下、V6)だ。ダッソー・ブランド全体の土台となる新プラットフォームのコンセプトが先行して発表された後、新たなV6アーキテクチャに対応した個別の製品は6月より提供開始されている。本稿ではまず、V6で打ち出された同社のバージョン・コンセプトから確認してみよう。
現在、日本のほとんどの設計現場には3次元CADが導入されているというが、すべての設計業務を3次元のみで製作しているところは少なく、適材適所で2次元と3次元の設計データを使い分けているのが現実だろう。これに対して、製品開発のライフサイクル全体をすべて3次元データとして取り扱おうとするのが同社の基本コンセプトである。そして、これをさらに推し進めたのがV6のコンセプトだ。
V6の目指す世界を理解するには、
という2つがキーワードとなる。オンライン・コラボレーションとは、Webに対応した製品を利用することで、製品ライフサイクル全般に登場する各プレーヤ(商品企画、設計、品質管理、製造、サプライヤなど)のコミュニケーションを向上させること。これは、単に製品がWeb対応になったというだけでなく、製品ごとのデータが一元的にデータベースで管理され、全世界から24時間いつでも参照や変更を可能にした。さらに遠隔地の設計者同士が、設計変更の個所を3次元ビューアでリアルタイムに確認しながらチャットでコミュニケーションを図るといった使い方もできる。グローバル展開したものづくり拠点間の情報共有を支援するというPLMの基本機能といえよう。
もう1つのライフライク・エクスペリエンスは、他社のPLM製品ではあまり聞かれない用語である。こなれた日本語にするなら「実体験に近い仮想体験」になるだろうか。このコンセプトのカギになっているのは、「3次元で表現されたものは誰にとっても分かりやすい」という至極妥当な考えだ。2次元の製図を見ても完成品をイメージできるのはごく一部のエンジニアに限られるが、3次元で表現されれば企画部門や営業部門といった社内の他部門や、販売協力会社、ひいては一般消費者までその製品をイメージできる。そうしたエクスペリエンス(体験)を共有し、より多くの人からのフィードバックを製品開発に反映して競争力を向上させよう、というのが同社の主張である。だから、製品ライフサイクル全体で3次元データを使う必然性があるというわけだ。
オンライン・コラボレーションやライフライク・エクスペリエンスといったV6のコンセプトがユーザーにもたらす新たな世界観を、同社では「PLM 2.0」と提唱している。GoogleやSNSなどによって生まれたWebの新たな世界観をWeb 2.0というが、製品開発の世界でも3次元を使って新たな世界を作ろうという意気込みがこの造語に込められているのだろう(PLM 2.0は特定の製品や機能を示すわけではない)。
ダッソー・ブランドの主なPLM製品ポートフォリオは、以下の5つのブランドである。
これらが製品ライフサイクル全体をカバーする形で配置され、その全体が同社のPLMだと考えていい。すなわち、製品設計でのCATIA、その成果物を解析・検証するSIMULIA、生産段階での作業手順や生産設備の配置設計を支援するDELMIA、各種設計データを活用して3次元体験を提供するビューアの3DVIA、そしてこういった製品群を束ねる扇の要としての役割を担うのが、今回紹介するPLMコラボレーション・ツールのENOVIAである。
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