マツダはEV専用工場を作らない、投資を抑えながら電動化黎明期に臨む:電動化(5/5 ページ)
マツダは電動化のマルチソリューションの具現化に向けた「ライトアセット戦略」を発表した。
ものづくり革新1.0の振り返り
マツダは1996年からデジタル化によるリードタイム短縮に取り組んできた。部門ごとに分散していたデータの一元化と、プロセスのコンカレント化により、2006年までの10年間で、デザイン決定から量産開始までの期間を半分に短縮した。
2006年からは、多様な車種を1つの車種のように開発、生産する一括企画を推進した。厳格化する環境規制や安全性能への要求に対応できるベースの技術を刷新し、省資源で全車種に展開することが目的だった。
車種を超えて共通化を進めるに当たって、ハードウェアではなく特性をそろえた。エンジンを例にすると、燃焼特性を共通化することで、ハードウェアを統一するよりも大きな改善効果が図れたという。
特性を共通化し、制御用ソフトウェアの大半が一括企画によるものになることで、適合開発にかかる期間は半減した。適合開発は、排気量や市場に合わせて最も時間がかかっていた部分だった。
一括企画は開発だけでなく生産部門とも連携した。燃焼特性を共通化したが、部品の作り分けは発生した。これに対し、混流生産を維持するための固定要素と性能特性を維持するための変動要素を決定し、生産ラインに反映させた。これにより、エンジンの設備投資は6割削減した。こうした取り組みの結果、2011年から6年間で9車種を開発、生産した。
混流生産も、ものづくり革新1.0の中で進めてきた。車種によって異なるパワートレインや内装などはサブラインでモジュール化し、メインラインで組み付けるようにすることで、メインラインが短くなり、工程数は4割削減した。
それ以前は、車種ごとに構造や生産工程の設計を行うため、車種によって生産工程や設備が異なり、新型車を導入するたびに新しい設備を導入する必要があった。その結果、生産ラインは対応できる車種が限定され、そのラインで全ての部品を組み付けるため工程数が多く長いラインになっていた。車種の需要が少なくなれば稼働率が低下することも課題となっていた。
車種や生産量の変動はサブラインで対応し、メインラインをシンプルにした。車種開発の構想段階から生産部門も参加し、工法や工程を共通化した。ものづくり革新2.0は、こうした過去の取り組みをベースにEVに対応していく。
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