MBDで車載ソフトウェアの開発工数を2割削減、パナソニックとマツダ:モデルベース開発
パナソニック オートモーティブシステムズは、マツダと協業して車載ソフトウェア開発の工数を大幅削減するプロセスを確立した。
パナソニック オートモーティブシステムズは2023年3月15日、マツダと協業して車載ソフトウェア開発の工数を大幅削減するプロセスを確立したと発表した。
車載情報制御系システムを中心にソフトウェアの大規模化が進み、開発の抜本的な効率化が求められている。ソフトウェア開発における自動車メーカーと自動車部品メーカーのやりとりは、文章や図表を記載した仕様書を用いており、記述のあいまいさや不足などから不具合や設計のやり直しが発生する可能性があった。
こうした課題を解決するため、従来の仕様書のやりとりではなく、仕様の振る舞いをシミュレーション可能なデータの仕様書とする「モデル」でのやりとりによる開発に着手。個社で開発効率化を図るだけでなく、自動車メーカーの要求仕様の定義から自動車部品メーカーにおける詳細な設計、ソフトウェアの自動コード生成までを共同で実施するための開発プロセスを策定した。
モデル化により、あいまいさを排除した仕様の記述や設計段階でのシミュレーション検証が、自動車メーカーと自動車部品メーカーの間で実施できる。一連の取り組みによって設計の手戻りを回避し、開発工数を2割程度削減できる見込みだ。
具体的な流れは次の通りだ。マツダがモデルで設計、検証した要求仕様をパナソニック オートモーティブシステムズに提示し、パナソニック オートモーティブシステムズはマツダから入手した要求モデルを自社開発ツールで変換、検証する。それを基に、モデルの詳細設計や自動ソフトウェアコード生成を行う。
これに合わせて、両社のツールで互換性を保証した状態でモデルをやりとりするための共通仕様書(モデル交換仕様書)とガイドラインを策定した。また、開発中のモデルを相互接続して設計検証が可能なシミュレーション環境「共有検証ゾーン」を設けた。マツダはモデル交換仕様書に記載されたガイドラインに従って要求仕様をモデルで設計し、パナソニック オートモーティブシステムズが使用するツールでの動作を保証する。
パナソニック オートモーティブシステムズは実物で動作するようにモデルの詳細設計を行い、設計段階で共有シミュレーション環境を用いて検証する。これらの活動によって会社間にまたがる開発の手戻りを抑止し、高品質のソフトウェア開発を目指す。
これらの成果はマツダ「CX-60」の国内向けモデルに搭載されたコネクティビティマスターユニット(車載情報制御系システム)の一部に適用した。今後はさらなる開発効率化を目指すとともに、MBD推進センターなどと連携して他の自動車メーカーや自動車部品メーカー、ツールベンダーなどを巻き込んだ標準化活動を推進していく。
従来は実機で行っていた開発を、シミュレーションで検証するMBD(モデルベース開発)に切り替えることにより、実機の試作にかかるコストや人員数、開発期間を削減するとともに、シミュレーションで構成するモデルを組み替えることで多くのアイデアを容易に試せるなどさまざまなメリットが期待できる。
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