ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント【後編】:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(5)(2/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第5回のテーマは、前編、中編に引き続き「ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント」を取り上げる。
発展型ODMメーカーと連携型ODMメーカーの比較
ここまで読み進めていただければ、発展型ODMメーカーと連携型ODMメーカーの比較はおおよそできるだろう。その比較表を以下に示す(表1)。
連載の項目名 | 発展型ODMメーカー | 連携型ODMメーカー |
---|---|---|
過去に扱った製品カテゴリーを調べる | どちらも類似カテゴリーの経験を調べる必要あり | |
何の設計ができるかを調べる | 設計者はいるが、技術分野を調べる必要あり | 新たに採用していれば設計者はいるが、技術分野を調べる必要あり |
単発生産か一定期間の定期的な生産かを調べる | 製品の品質管理のスキルがある | 製品の品質管理のスキルは少ない |
金型に関する知識があるかを調べる | 設計者はいるが、技術分野を調べる必要あり | 新たに採用していれば設計者はいるが、技術分野を調べる必要あり |
設計以外の製品化の基礎知識を調べる | 製品化の基礎知識はある | 製品化の基礎知識は少ない |
協力メーカーの有無を調べる | 通常はある | 連携する部品メーカーによる |
ODMメーカーのアウトプットを調べる | ODMメーカーの対応によりけり | |
修理サービスはどこまでしてもらえるかを調べる | ODMメーカーの対応によりけり | |
表1 発展型ODMメーカーと連携型ODMメーカーの比較 |
この比較表の中で相違がある部分の一つは、品質管理スキルの有無になる。単発生産の製品や、構成部品の少ない(組み立て作業の少ない)製品であれば、2つのODMメーカーの間に大きな差はないが、構成部品が多く一定期間にわたり定期的に生産する製品であれば、品質管理のスキルの差が製品の品質に現れる。
もう一つは製品化の基礎知識であり、特に評価項目の提案に差が出てくる。本連載では、評価項目として安全性と信頼性しか挙げていないが、「製品を決められた方法で正しく組み立てやすい」を表す製造性と、「修理がしやすい」を表すサービス性に関する評価もある。これらの検証項目の提示と、その評価方法/判定基準を提案するのは、量産経験が豊富なODMメーカーでなければ難しい。
これらのことから、構成部品が多く一定期間にわたり定期的に生産する製品を作るのであれば、発展型ODMメーカーが適しているといえる。一方、構成部品が少なく少量生産する単発生産の製品を作るのであれば、連携型ODMメーカーでも問題はない。
実は、初めて自社オリジナル製品を製品化しようとする企業が作ろうとする製品は、まだ開発段階にあるものがほとんどで、すぐに設計に取り掛かれない場合が多い。開発とは、机上のアイデアが本当に製品として実現可能かを、設計を開始する前に試作品を数回作って行う検討だ。例えば、折り畳み傘の骨が壊れにくい新たな構造を机上で考案した場合、それが本当に実現可能であるかを骨組みだけの試作品を作り、部品形状をちょっとずつ変更して確認するカット&トライを実施する。試作部品を迅速に何回も作らなければならないので、多くの部品メーカーが集まった連携型ODMメーカーに依頼するのが適している。
つまり、製品の開発は連携型ODMメーカーに依頼し、製品化の設計と製造は発展型ODMメーカーに依頼するとよい。どこまでが開発であり、どこからが製品化の設計であるかの判断は専門家に相談してほしい。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製品化を目指すなら押さえておきたい、優れた技術やアイデアよりも大切なこと
連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第1回は、ターゲットユーザーをきちんと想定しておくことの重要性について説く。 - 何のために製品を市場に出しますか?
連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第2回は、製品化の際に必要となる志の考え方を取り上げる。 - 「あうんの呼吸」に頼る日本人の仕事のやり方
中国企業とのモノづくりにおいて、トラブルや不良品が発生する原因の7割が“日本人の仕事の仕方”にある。日本人の国民性を象徴する「あうんの呼吸」に頼ったやり方のままでは、この問題は解消できない。本連載では、筆者の実体験に基づくエピソードを交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する。 - 「言われたことをする」が基本の中国人の仕事のやり方
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第2回では、前回の「『あうんの呼吸』に頼る日本人の仕事のやり方」に対して、中国人がどのような国民性を持っているのかを、2つのエピソードを交えて解説する。 - 「製品化」に必要な知識とスキルとは
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する。第1回のテーマは「製品化に必要な知識とスキル」だ。まずは筆者が直面した2つのエピソードを紹介しよう。 - 一度決めると簡単には変更できない!? 「製品化の日程」を検討する際のポイント
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する。第2回のテーマは「製品化の日程」だ。製品化までの日程は、多くの関係者と調整し、展示会や法規制認証申請などの予定も考慮しながら慎重に検討しなければならない。日程検討の基本的なポイントについて詳しく見ていこう。