不正発生の構造を考えさせられた“島津タイマー”、生成AIの導入事例も大注目:製造マネジメントフォーラム 年間ランキング2023(1/3 ページ)
2023年に公開したMONOist 製造マネジメントフォーラムの全記事を対象とした「人気記事ランキング TOP10」(集計期間:2023年1月1日〜12月26日)をご紹介します。
2023年12月20日、ダイハツ工業が全車種の出荷を国内外で停止すると発表しました。認証試験における新たな不正が発覚したことを受けた対応です。現在、インドネシアやマレーシアの工場では出荷を再開しましたが、国内工場での生産は2024年1月も引き続き停止する見通しです。ダイハツ工業の業績もそうですが、同社と直接または間接的な取引がある全国6084社(東京商工リサーチ調べ)に与える影響も相当なものになると予想されます。
いきなり冒頭からネガティブなニュースに言及しましたが、2023年の製造マネジメントフォーラムの年間ランキングでも品質不正問題が幾つかランクインしています。2022年の記事ランキングでは第3位に、長引いた三菱電機の品質不正調査の記事が入りました。ランキングの嫌な常連と化した感すらある品質不正問題ですが、それだけ製造業において根深く、広範囲に悪影響をもたらすがゆえに多くの読者に関心を持たれやすいトピックなのでしょう。
もちろん、ランキングには品質不正問題だけでなく、今後の製造業の行方が楽しみになるようなニュースや、業界の現状を深掘りして解説する人気の連載記事も入っています! 「あぁ、こんな動きがあったなぁ」「そういえばこの連載、続きを読もうとしていたんだった」など、2023年の振り返りとして本記事を眺めていただければ幸いです。
では、2023年に製造マネジメントフォーラムで公開した記事のランキングを発表しましょう! 本稿では、第1位から第3位までの記事を順に紹介していきます。
MONOist 製造マネジメントフォーラム 人気記事ランキング TOP10
2023年1月1日〜12月26日不可解な業績目標の設定が品質不正につながった?
第1位は「『タイマーで故障を偽装し部品を売る』島津製作所子会社による悪質不正行為の全容」でした。島津製作所の子会社で、医療機器の販売や保守サービスを手掛ける島津メディカルシステムズが行った業務上の不正行為について、外部調査員会が発表した報告書を基に報じたものです。同社の問題は2022年9月に発覚していたものですが、この記事では原因などを詳報しています。
保守点検時に自社が納入したX線装置に、一定時間が経過すると電力供給を停止する外付けタイマーを設置しておき、時間経過で故障したように見せかけて有償の部品交換などを提案する。悪質な手口であり、中には都市伝説になぞらえて“島津タイマー”と称する声もちらほらと聞きました。読者関心も高く、今回のランキングでは2位以降と差をつけ、圧倒的に多くの人に読まれた記事となりました。
記事では、不正を引き起こす要因である「動機」「機会」「正当化」の「不正のトライアングル」に加えて、個人の属性や資質に関する「実行可能性」の4点から、問題が生じた原因をまとめています。驚くべきは「動機」にある、業績目標に関する記述です。サービス業務を行う技術者に対して、修理や点検、営業部門からの請負、部品販売などの業績目標が設定されており、さらに前期比増を目指すことが促されていました。
この他、「機会」ではタイマー設置時に第三者が介入しづらい環境であったこと、「正当化」では「業績目標達成のためには仕方ない」「患者には健康被害が生じない」といった心理が働いたこと、「実行可能性」では個人の倫理観の問題が取り沙汰されていました。
不正の原因を組織と個人、どちらか一方だけに帰属できないことは確かです。しかし、全体的に眺めて一番気になるのは、業績設定の問題です。機器の故障発生頻度などを自ら制御できるわけもないのに、なぜ保守サービスの定期的な売り上げノルマが存在したのか。島津メディカルシステムズの組織内で合理性を欠く目標設定がなされたことが、不正を生む大きな要因であったように見えます。この点については、MONOist編集長の三島によるコラム記事、「“島津タイマー”で考えさせられた不正が生まれる構造」でも言及しています。
品質不正問題では第8位に「豊田自動織機がエンジン3機種で排ガス認証不正、フォークリフトの出荷停止へ」も入りました。フォークリフト用エンジンの排出ガスに関する法規違反が発覚したことを報じています。
また第9位には、「品質ヒヤリハットの実情」と題したMONOistのアンケート調査結果をまとめた、「『品質力は落ちている』と半数強が回答、現場担当者が懸念する3つの要因とは」がランクインしました。製造業の品質に関する力が「落ちている」とした回答者が全体の53.5%を占めており、製品の品質に求められる要素が高度化、複雑化する中で、新たな課題が生じている様子が伺えました。
先日、三島が「ダイハツ工業の品質不正は対岸の火事ではない」というコラムを掲載しましたが、まさしく、品質不正問題はどの企業でも生じ得ることと認識して、不正を起こさせない組織的な仕組みづくりを進めることが大事です。製造マネジメントフォーラムでは、品質不正問題の原因や組織的な対応策を解説する「事例で学ぶ品質不正の課題と処方箋」や、コンプライアンス違反などより広範なリスクへの対処を学べる「複雑化した工場リスクに対する課題と処方箋」などを掲載しています。ぜひご一読ください。
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