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何のために製品を市場に出しますか?ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(2)(3/3 ページ)

連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第2回は、製品化の際に必要となる志の考え方を取り上げる。

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製品企画と設計構想の内容で販売価格は決まってくる

 筆者はいくつものベンチャー企業の方と会う中で、試作が終わり、量産部品を作製する段階になって部品コストの見積もりを行い、そのコストがあまりにも高過ぎたため、やむなく量産化を断念したり、設計のやり直しをする羽目になったりする話を聞いてきた。その原因は、製品企画と設計構想をしていなかったからだ。そこで、製品企画と設計構想の内容によって、部品コストと販売価格が決まってくることを解説する。

 (2)創りたい市場をより明確にしていくと、(3)ターゲットユーザーが決まってくる。そして、そのユーザーの何%に製品を販売するかの目標を立てる。これが(4)総販売数になる。これから、販売チャネルなどの販売力を考慮して1カ月で販売できる個数と、生産力である1カ月で生産できる部品と製品の個数を考慮して、一月当たりの生産数を決める。これを「ロット」という。単位は、一般的に「個/月」である。

 設計構想で製品仕様を具体的に詰めていく中で、部品の材料や加工方法はこのロットに関連して決まってくる。例えば、簡単な工具箱を製品化しようとする。ロットが数千個で総生産個数が1万個以上であれば、数百万円はする金型を作って安価な材料のプラスチックで箱を作った方が部品コストは安くなる。金型費は総生産個数の1万個以上で案分すれば、1個当たりたったの数百円だ。しかし、ロットが数百個で総生産個数が数千個であれば、金型費は1個当たり数千円となり、結果的にはとても高価な工具箱になってしまう。よって、金型を使わない方法でも部品を作製できる板金で箱を作るしかなくなるのだ。つまり、ロットと総生産個数で箱の材料と加工方法が決まってくるといえる。販売数の多い家電製品の大半がプラスチック製で、販売数の少ない測定器や職場のシュレッダーが板金で作られているのには、こうした理由があるからだ。

 生産数、材料、加工方法が確定すれば、部品コストを見積もることができ、その部品コストを合計して、製造費や研究開発費、販売費、利益などを加算すると、(8)販売価格が決まってくる。

創りたい市場から、部品コストと販売価格が決まってくる
図3 創りたい市場から、部品コストと販売価格が決まってくる[クリックで拡大]

 このことから、前述した量産部品を作製する段階で部品コストが高くなり過ぎてしまったという話は、製品企画と設計構想をしっかりと考えていなかったか、目標コストを管理していなかったことが原因といえる。製品設計では、絶対にやってはならないことだ。

創りたい市場の発想に必要なマインド

 “ホリエモン”こと堀江貴文氏が講演を行い、参加者からの質問に次のように答えていたのを、以前テレビで見たことがある。

参加者:
これからどんなビジネスがヒットしますか?

ホリエモン:
自分の好きなことすればいいじゃないの

 一見すると、ホリエモン特有のつっけんどんな言い回しの返答に聞こえるが、これはとても的を射ている。ホリエモンはチャレンジブルな発想をする事業家ではあるが、預言者ではない。ホリエモンがこの質問に対して自分のアイデアを答えたとしても、その回答は日本中で既に数十人は考えていて当たり前である。つまり、その回答を聞いてからビジネスを始めてもトップランナーにはなれないとホリエモンは言いたいのだ。トップランナーになってビジネスで成功するには「自分の好きなことをする」しかないのである。

ミッションの発想に必要なマインド

 スティーブ・ジョブズ氏が2005年に米スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチはとても有名である。その内容を筆者なりに意訳すると、「何もないところから新しいことを発想するのは難しい。過去の多くの経験(点)を結び付けることによって、新しいことが発想できる」である。創りたい市場を達成するためのミッションを考えるには、過去の経験を結び付けることが大切であると言いたいのだ。製品設計においては、過去に自分が設計したきたときのアイデアであったり、他の設計者のアドバイスであったり、また他社の製品/技術であったりする。会社で行うブレーンストーミングは、このために行うものだ。内容の是非を問うことはぜず、参加者から多くの意見を集めるのが目的である。「ChatGPT」は入力した内容(投げ掛けた質問)に対して、多くの検索結果の情報をまとめ、それを文章にしてアウトプットしてくれる。上手に活用したい。 (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール

小田淳

オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)

上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。

ロジカル・エンジニアリング Webサイトhttps://roji.global/

著書


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