ユーザーに危害を加えない設計をしていますか?:ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(3)(1/2 ページ)
連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第3回は、製品の設計に欠かせない考え方である設計品質のうち「安全性」を取り上げる。
製品を作って販売するために必要な設計の考え方
「製品を作る」とは、製品をたくさん作って販売することである。では、設計において「たくさん作って販売する」にはどのような考え方が必要であろうか? ロボット大会に出場するロボットの場合は1台だけ作ればよく、販売はしない。つまり、「たくさん作る」と「販売する」を考えて設計する必要がない。しかし、製品を設計するには、これらの2つを念頭において設計をしなければならないのだ。
「販売する」には、不特定多数のユーザーが安全に使えなければならない。また、不特定多数のユーザーのいろいろな使い方に耐えられなければならない。つまり、製品を「販売する」には、次のことを考えて設計する必要がある。
(1)ユーザーに危害を加えない設計
(2)壊れにくい設計
「たくさん作る」には、作りやすくなければならない。1日に数十個以上生産するような製品の場合、組み立てやすくないとミスが生まれ、不良品の発生につながってしまう。また、たくさん作ってたくさん売れるほど赤字が膨らんでしまう事態を避けなければならない。つまり、製品を「たくさん作る」には、次のことを考えて設計しなければならないのだ。
(3)製品を組み立てやすい設計
(4)目標コスト以下で部品を設計
製品の設計は、前述のロボットの設計とは異なり、新しい技術や斬新なアイデアが機能することだけを考えて設計するのではない。機能的な設計の上に、先の(1)〜(4)の内容を配慮して設計をする必要がある。(1)を「安全性」、(2)を「信頼性」、(3)を「製造性」、(4)を「コスト管理」という。
安全性と信頼性を配慮して設計したにもかかわらず、ユーザーが設計者の想定するレベルを超えて過剰な力や頻度で使った場合は、修理が必要になるときがある。また、そもそも部品の交換を前提とした製品もある。このときの修理のしやすさを、(5)サービス性という。
機能的な設計に、ここで挙げた(1)〜(5)を合わせたものを、一般的に「設計品質」という。今回から、製品の設計に欠かせない考え方である設計品質をテーマに、(1)〜(5)の詳細をお届けする。
字消し板の設計
筆者が前職の会社に入社したばかりのころ、図面作成→発注→納品の一連の流れを勉強するため、「字消し板」の設計をすることになった。字消し板とは、図面に鉛筆で描いた線をきれいに消すための、ペラペラした名刺サイズの薄い板金のことである。その長方形の内部には、さまざまな形の穴が開いている。
筆者は、板厚0.3mmのステンレス(SUS)で字消し板を設計することになった。出来上がった図面を早速上司に見せたところ、開口一番に言われたことは「危ないから、角にはRを付けて」であった。「R」とは“Radius(半径)”のことであり、「丸みを付ける」ことである。私たちの身の回りにある製品を見てほしい。どのような材料であっても、基本的に角がとがっている製品はない。これを「安全性」という。
法律にもなっている安全性
安全性とは「人への危害または財産の損傷の危険性のリスクが許容可能な水準に抑えられること」である。簡単にいうと「人に危害を加えないこと」だ。財産の損傷とは、例えば「スマートフォンのバッテリーが発火して、家が火事になる」といったことだ。
安全性の中でも、危険性の高いものは世界各国で法律になっている。電気製品であれば、日本の「電気用品安全法(PSE)」、米国の「UL規格」(民間企業が定めたもので法律ではない)、欧州の「CE規格」、中国の「CCC規格」などがあり、これらを「安全規格」という。その国で製品を販売するには、これらの認証を取得する必要がある。
これらの安全規格を守っていない製品が市場で見つかれば、製品を生産できない、もしくは販売できない指令が下される。既に製品がユーザーの手元にあれば市場回収となり、修理や製品交換の指令が下される。市場回収には多額の費用がかかるため、これは絶対に避けなければならない。
安全性には、法律になっていないものもある。それらに関しては、製品のメーカー独自でその内容を考える必要がある。「ボルボの自動車は安全性が高い」とよくいわれる。それは、ボルボが自社の安全性の基準を、法律で定められている自動車の安全規格より高く設定していたり、安全規格で定められていない内容をボルボが自社特有の安全規格として定めていたりするためである。
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